稲盛和夫研究

思想の源流を探る

稲盛の思想に大きな影響を与えた書籍についてご紹介します。

生命の実相

タイトル 生命の実相
著者 谷口雅春
出版社 日本教文社
出版年 1932年(復刻版は1982年)
体裁 A6判 1026p

解説

1945年3月、稲盛が13歳の頃、結核の初期症状である肺浸潤にかかる。当時結核は死の病であり、事実稲盛の叔父・叔母も結核にかかり、死に至っていた。
病床に伏せっていると、隣に住んでいた奥さんが「読んでごらん」と垣根越しに一冊の本を稲盛に渡した。谷口雅春の著書『生命の実相』であった。
子供心に死を覚悟していた稲盛は、藁にもすがる思いで一心不乱にその本を読んだ。その中に、「われわれの心の内にそれを引き寄せる磁石があって、周囲から剣でもピストルでも災難でも病気でも失業でも引き寄せるのであります」というくだりがあり、稲盛はハッとする。病気から逃げよう逃げようとする自分の弱い心が、病気を呼び込んだということに身をもって気付いたのだ。
心に描いたことが、そのまま現象となって現れるということに、強い衝撃を覚えた。
この本との出会いは、後に稲盛が「人間にとって、心のあり様がいかに大切か」ということに気づく、大きな契機となった。

南洲翁遺訓

タイトル 南洲翁遺訓
著者 西郷隆盛
出版社 荘内南洲会

解説

稲盛の人生に、また会社経営に大きな影響を与えた座右の書に『南洲翁遺訓』がある。
鹿児島生まれの稲盛にとって、西郷隆盛は物心ついた頃から親しんできた人物である。西郷を讃える地域の記念行事や両親の教えなど、稲盛は幼少期から西郷の人物や思想に触れてきた。稲盛にとって南洲は、人間としての考え方、生き方の基礎を教えてくれた心の師であった。
常に稲盛の机上に置かれていた和綴じの『南洲翁遺訓』。全41条の遺訓には、政治や外交、軍事などの話を通して、人の上に立つ者が身につけるべき思想が述べられている。その箴言には、偉大な人物の生涯と思想が凝縮されており、深い感動と示唆を与えてくれる。
稲盛は、講演などで折りに触れ、西郷の艱難辛苦を克服した人生とともに、『南洲翁遺訓』の一節を引用しており、その内容は著書『人生の王道:西郷南洲の教えに学ぶ』にまとめられている。

運命と立命

タイトル 運命と立命
著者 安岡正篤
出版社 関西師友協会(改題版は致知出版社)
出版年 1978年(改題版は1993年)
体裁 B6判 221p(初版)
B6判 232p(改題版)
ISBN 9784884741815

解説

人生について、人間について深く考える若き稲盛に、大きな影響を与えたものに、安岡正篤の著書がある。
「人間にはそれぞれ運命がある。しかし、それは宿命ではない。善きことを行うことによって、運命は変えることができる」
安岡正篤の著書『運命と立命』を読み、この教えに感銘を受けた稲盛は、これを貫く人生を歩むことを決意する。
また、高収益企業へと成長していく中で、稲盛は安岡の説く「謙遜の徳」の教えに改めて接し、経営者として慢心しているのではないかと深く自省する。
1976年の京セラの経営スローガンには、稲盛は自分自身を戒める意味も込め、「謙虚にして驕らず、さらに努力を」と掲げている。
その後、より多くの人々にこの人生の真理を伝えたいとの思いから、「人は何のために生きるのか」と題する市民フォーラムを開催し、『運命と立命』に紹介された因果応報の法則を伝え続けた。

研心抄

タイトル 研心抄
著者 中村天風
出版社 天風会
出版年 1948年(初版)
体裁 B6判 315p
ISBN 9784902579017

解説

稲盛の思想に多大なる影響を与えた人物の一人である中村天風。若くして経営者となった稲盛は、中村天風の著書に出会い、その後「貪り読んだ」と言われている。
稲盛が感銘を受けたのは、中村天風が説いていた「心のあり方」。天風の思想に大きな影響を受けた稲盛は、心の持ちようによって人生が変わる、つまり、心を堅固なものにすることが、人生における最大の課題であると考えている。
「新しき計画の成就は只不屈不撓の一心にあり。さらばひたむきに只想え気高く強く一筋に」は、『研心抄』の一節である。これを稲盛は1982年度の経営スローガンとして掲げた。また、2010年からの日本航空再建にあたっても、目標達成に向けて全社員の心を一つにするためのスローガンとして共有した。