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Interview

「路車協調システム」がかなえる、
安心・便利な未来の交通社会。

Mobility
Introduction

「路車協調システム」の開発によって、
道路側から自動運転の安全にアプローチ

FIRカメラ
Smart RSU(Smart V2I RoadSide Unit)

過疎・高齢化によって生まれた「交通空白地」への対応、ヒューマンエラーによる交通事故防止の観点などから、必要性が高まり続けている「車の自動運転」。経済産業省では「自動運転レベル4等先進モビリティサービス研究開発・社会実装プロジェクト(RoAD to the L4)」(※1)を立ち上げ、2025年頃までに協調型システムにより、さまざまな地域の混在交通下において、レベル4自動運転サービス(※2)の展開を目指しています。
すぐそこまで来ている、「自動運転が当たり前になった世界」。しかし、その実現のためには、いまだ課題が山積しています。車の死角にある他車や歩行者をどのように把握するのか。気候や気温に影響されることなく、確実に情報の取得や伝達をするにはどうすればいいのか。これらは、車側の技術革新だけでは解決が難しい課題だといえます。

こういった課題の解決に取り組んでいるのが、京セラの高度交通システム研究開発部です。同開発部では、京セラがこれまでに培ってきた通信ノウハウを生かした無線路側機「Smart RSU(Smart V2I RoadSide Unit)」や、遠赤外線を使って物体を捉える「FIR(遠赤外線)カメラ路側機センシングシステム(以下FIRカメラ)」などを開発。これらの機器を用いた「路車協調システム」を実現し、確実性の高い情報を道路側から車に届け、安全な自動運転に寄与することを目指しています。

Technology Data

無線路側機
Smart RSU(Smart V2I RoadSide Unit)

見通しの悪い交差点の電柱や信号機などのポールに取り付け、車や自転車などと無線通信を行い、歩行者や車両の位置、信号情報などの交通インフラに関する情報を集約・配信する無線路側機。FIRカメラなどのセンサーをはじめとした、さまざまな機器を接続することができ、センサーなどによって検知した死角の情報を車両へ送信することで、ドライバーに危険を知らせます。

FIRカメラ路側機センシングシステム

FIRカメラを使ったセンサーで、歩行者や車両を認識し、その位置情報・速度情報などを検出することができます。物体から放射される遠赤外線を映像化するため、夜間や雨・霧など視界が悪くなる状況下での物体検出、遠距離のセンシング、歩行者や普通車はもちろん、自転車、バイク、大型車などの識別が可能です。死角にいる歩行者や車両などの情報を、Smart RSU (無線路側機) と連携しドライバーに知らせることで、事故防止に貢献します。

01

自動運転の社会実装に不可欠な、
「路車協調システム」とは。

自動運転に必要な情報を道路側から届ける「路車協調システム」。具体的にはどういった仕組みなのか、システムに欠かせない「Smart RSU」と「FIRカメラ」を開発しているメンバーに詳しいお話を聞きました。
  • 部責任者
    研究開発本部
    システム研究開発統括部
    高度交通システム研究開発部 第1開発部
  • 課責任者
    研究開発本部
    システム研究開発統括部
    高度交通システム研究開発部 第2開発部 第2開発課
  • FIRカメラ開発担当者
    研究開発本部
    システム研究開発統括部
    高度交通システム研究開発部 第2開発部 第2開発課
  • 無線路側機開発担当者
    研究開発本部
    システム研究開発統括部
    高度交通システム研究開発部 第1開発部 第2開発課
  • 今日お持ちいただいている「Smart RSU」と「FIRカメラ」。それぞれ、どういった機能を持った機器なのでしょうか?

  • 私が開発に関わっている「Smart RSU」は、簡単に言うと「道路情報を車に届ける中継機」です。「FIRカメラ」をはじめとしたセンサー機器が検知した道路の情報を、この「Smart RSU」が車に届けることで、安全な自動運転が行えるようになります。

  • 車載カメラなどによって対向車や歩行者を検知する「車主体の自動運転技術」も目覚ましい進化を遂げているんですが、見通しの悪い交差点や、車に近すぎる位置などには、どうしても“死角”ができてしまいますよね。そういった車体からのアプローチだけでは検知できない情報を車に伝えるのが、この「Smart RSU」なんです。

  • 「路車協調システム」を体に例えるなら、「FIRカメラ」は “目”の役割をもった機器。物体から放射される遠赤外線を捉えて映像化、AIで物体の種類や位置などの物標情報を算出し、「Smart RSU」に通知します。

  • 可視光カメラで道路情報を収集する方法もあるんですが、それだと人の目と同じで夜は物体を捉えにくくなりますし、日中でも西日や濃霧などの影響を強く受けてしまいます。そういったデメリットを解消するために、私たちが着目したのが「物体の放射熱」。物体が発する「熱」を遠赤外線で捉えれば、光量や気候に左右されることなく、車や歩行者を映像化できると考えたんです。

  • こういった発想が生まれたのは、センシング技術の開発に強みを持つ京セラのバックグラウンドがあったからこそ、だね。

  • そうですね。私自身、大学で学んだレーザー工学を起点に、LiDARなどのリモートセンシング技術が生かせる研究を行いたい、と思って京セラに入社しました。幅広い分野の開発に取り組んでいるからこそ、多種多様な専門性を持った研究者が集まる、ということもあると思います。

  • そういった意味では、「Smart RSU」「FIRカメラ」を単体の機器として扱うのではなく、「路車協調システム」として連携できるのも、PHS事業などの通信技術にまで開発の裾野を広げてきたからこそだと思います。私もスマホなどの通信機器分野での開発職を経て、この研究に取り組んでいますから。

  • なるほど。確か「Smart RSU」を用いた実証実験も始まっていましたよね。実験はいかがでしたか?

  • それが本当に大変で…(笑)。私たちが開発しているのは道路側のインフラですから、設置環境は必ず屋外になります。予測できない変化が起こりうる場所で24時間365日、安定して情報を検知・供給していくのが「路車協調システム」の大前提。だからこそ、実験もさまざまな気候・気温の中で昼夜を問わず、長期間行う必要がありました。

  • 学生時代の合宿のようにみんなが集まって実験を行ったことで、チームワークはぐっと高まりましたね。共同で実験を行った他社の方々からも、有用な意見をもらえたよね?

  • そうですね。「Smart RSU」は、路側に多数設置されることを想定したインフラ機器。多くの設置数が想定されますから、定期点検などを行うと相当なコストがかかります。そのため、「正常に機能しているかどうか」を診断する機能が必要との意見をいただきました。パソコンに向かって開発に取り組むだけでは得られなかった視点でしたね。

  • 「FIRカメラ」も屋外に設置すると思うのですが、そういった観点での開発の難しさはありますか?

  • おっしゃる通りで、「FIRカメラ」においても高度な耐久性が求められています。そのため、今、チームでは「車載基準」をクリアできる耐久性を追求中です。「車載基準」とは、車に積んで振動や気温・湿度の変化にさらされても機能に問題が起こらない、という難易度の高い基準値となります。この辺りの開発は、担当チームががんばってくれています。

  • 「FIRカメラ」の共同開発を行っているイスラエルの企業とのやり取りを任せていただいて、耐久性アップを含めた開発業務に奮闘中です。英語でコミュニケーションを取る必要があり、初めのうちは苦労しました。でもグローバルな業務を任せていただけたことがうれしかったですし、文化や価値観が異なる海外の技術者からは、良い刺激をたくさんもらえます。国を超えた共同開発に若手のうちから挑めるのは、グローバルに事業を展開している京セラならではだな、と感じますね。

02

なくてはならないインフラとして、
めざすは「信号機」レベルの信頼性。

機器開発、実証実験を経て、商用化・社会実装に向けた動きに入っている「路車協調システム」。目下取り組んでいる課題や、自動運転社会の実現に向けた展望についても、お話しいただきました。
  • 「路車協調システム」の社会実装に向けて、今後どのような課題をクリアする必要があるのでしょうか?

  • テクニカルな面はある程度成熟してきていると感じますが、まだまだ実験を繰り返していく必要はありますね。「安全」という何物にも変え難い価値を提供するために、通常なら思いもつかない、イレギュラーな環境・状況の変化にも対応できる状態までもっていくのがミッションだと思っています。

  • 現在はシステム開発後の製造フェーズに目を向け始めたところです。いくら高機能なシステムでも、量産できなければ商用化はできませんので、効率的な生産方法を製造チームと連携しながら考えています。乗り越えるべき課題は多いのですが、京セラには長年ハード面で培ってきた「ものづくりの強み」というバックボーンがありますから、必ず安定した生産体制を構築できると信じています。

  • 「路車協調システム」は、インフラとしての側面が強く、実は供給先がはっきりしていない部分もあるんです。公共事業に近いものになるかな、という想定はありますが、需要が見込める地方自治体は予算も厳しい。そうなると、どのように事業として成立させながら、普及させていくべきか。その辺りは事業化を見据えて、今後、詰めていかなければなりません。期待した動作を確認できたら終わり、ではないのが開発の面白いところ。しっかりと社会実装して、暮らしに根ざすシステムにしていきたいです。

  • 私もこのシステムを「人の生活に役立つ」レベルに引き上げていくことが、今後の課題だと思っています。将来的には、「路車協調システム」が生活者にとって、信号機くらい身近なものになればいいなと。それだけの数が設置できれば、道路側から自動車側へ、今までは十分ではなかった情報を補完できるようになり、より精度の高い自動運転が実現していくはずだと確信しています。

  • 設置数はもちろんのこと、信号機と同等の信頼性も担保していきたいです。信号機って正しいのが当たり前で、壊れていたら逆に「なんで?」って思いますよね。この「路車協調システム」も、それくらい正確でなくてはならないものにしていきたいです。私は元々「社会に役立つものづくりをしたい」という思いから京セラに入社したので、まさにその志を叶えられる、意義深い仕事だと思って取り組んでいます。

  • 越えなければいけない壁が大きい分、ベテランの経験だけでなく、若手の新鮮な発想もとても大事な要素となってきます。若手社員の意見もどんどん取り入れ、柔軟に技術開発・実証実験・事業化というステップを踏んでいきたいですね。

  • 技術者同士が経験や年齢に関係なく、フラットに意見を交わせる環境があるのが、京セラのいいところ。若手であっても主体的に研究に関われるので、やりがいと責任感を強く感じています。

  • 熱い志を持った若手がいてくれていることで、私たちベテランも負けてられないな、という気持ちも湧きますし、いい相乗効果が生まれていますよね。若手の二人は、今後どのように開発に取り組んでいきたいと思っていますか?

  • 実は私は、祖母を交通事故で亡くしているんです。そういった経験から交通事故を減らす、なくすための技術開発を行いたい、という強い思いを持って京セラに入社しました。だからこそ、先ほどもあった「信号機レベルの信頼性」をしっかりと実現して、一日も早く交通事故のない社会をつくっていきたいと思っています。

  • 自動運転技術が成熟すれば、人の移動だけでなく、物流における課題の解決にもつながり、より早く、便利で、快適な暮らしづくりに貢献することができます。私自身も、今ある技術を起点に発展的で挑戦的な考え方を続け、「社会に役立つ京セラのものづくり」を体現する研究者になっていきたいです。

Message

「完璧な安全性」を目指し、
飽くなき探究はこれからも続く。

実用化に向け、性能や仕様が成熟しつつある「路車協調システム」。しかし、「完璧な安全性」の実現に向けて取り組むべきことはまだまだある、とメンバーは口をそろえます。社会に役立つ製品を完成させるために、研究者がある時は足を使い、汗をかく。京セラに脈々と受け継がれる「ものづくりの精神」を土台にしながら、チームの挑戦は続いていきます。

Interviews

インタビューで紐解く、京セラの挑戦と未来