THE NEW VALUE FRONTIER
にこやかに談笑する古家野 晶子さんと橋浦 佳代さんの写真
D&I TALK

女性役員2名が語る
育児をしながらも自身のキャリアを大切に

京セラで活躍する人材や、多様な働き方を考える対談企画。
テーマは「育児と仕事との両立」です。女性は、妊娠や出産のライフイベントを迎えると、どうしても、仕事上ブランクが生じてしまいます。また、従来は、育児や家事は女性の役割という意識があり、女性が両立しながら仕事を続けることが困難でした。近年、男性の育児・家事参加が推奨され、社会は少しずつ変化していますが、まだまだ浸透していないのが現状です。そのような社会的な背景の中で、今回、育児をしながらもご自身のキャリアを大切にしてこられた女性役員のお二人にお話を伺いました。

  • にこやかな表情を浮かべる古家野 晶子さんの写真
    社外取締役
    古家野 晶子さん(弁護士)

    小学校低学年と保育園児の2児の子育て中。20年ぶりに乗り始めた車の運転が最近の気分転換。夫婦でできることを分担し、足りないところは周囲の力を積極的に借りている。2019年6月、京セラの社外取締役に就任。

  • にこやかな表情を浮かべる橋浦 佳代さんの写真
    執行役員
    橋浦 佳代さん(稲盛ライブラリー館長 兼 フィロソフィ推進部長)

    社会人の長女、大学生の長男がいる4人家族。趣味は読書と音楽鑑賞。その時々でできることをできる方がする、というポリシーに基づき、ゆるやかな家事分担が夫婦円満の秘訣。2020年4月、京セラの執行役員に就任。

THEME 01. 妊娠・出産経験から感じた大切なこと

本人も周囲も共に、新しい命を温かく迎え入れる意識を持つ。

  • 古家野 晶子さんの発話

    まず妊娠中に大変さを感じましたね。つわりなどの体調の変化が突然あり、また安定期に入っていないため周りにも言いにくく、つらかったという経験があります。妊娠中の経過は順調でしたが、ふらつきなどさまざまなマイナートラブルに悩まされましたし、2人目の妊娠中は、上の子の世話もあってさらに大変でした。

  • 橋浦 佳代さんの発話

    私は逆に、体調面で大きな変化がなかったので、働き過ぎてしまったんです。その結果、産休1ヶ月前にひどいむくみに悩まされ、入院一歩手前の状態に。自分の体験から、職場の後輩たちには、体調不良の際は無理をせず声をあげてねと伝えるようにしています。

  • 古家野 晶子さんの発話

    妊娠中は、体調の変化も人それぞれですし、私自身体験するまで分からないことが多くありました。妊娠出産の経過は個人差が大きく、時に生命の危機に見舞われることもありますから油断できませんよね。仕事との両立に大変さを感じることもあると思いますが、妊娠中の方も、職場の仲間も、新しく生まれる命を温かく迎える意識を持つことが何より大切だと思います。

THEME 02. 育児と仕事の両立で苦労した経験とその乗り越え方

笑顔でいられる子育ての秘訣は、無理せず周囲を頼ること。

  • 古家野 晶子さんの発話

    親としての役割と仕事の責任がぶつかってしまったときは苦労しますね。私は、以前、妊娠中の体調不良のなかで仕事の締切が迫り、当時1歳の上の子を3日間ほど夫と義母に任せて乗り越えたことがありました。しかし、子どもにとって、母親に会えないことは大変なストレスだったようで、自分の腕を噛んでしまうという出来事があり、痛恨の思いをしました。

  • 橋浦 佳代さんの発話

    急な発熱など子どもが病気をした途端、家庭と仕事のバランスが大きく狂ってしまうことに、一番苦労しました。職場にも負担と迷惑を掛けてしまいました。子どもが病気で苦しんでいるときは、子どもを優先させていただいたので、逆に言うと、いつそのようなことが起こっても大丈夫なように、普段から仕事も家庭もバックアッブ体制を備えておくことが大事だと思いました。

  • 古家野 晶子さんの発話

    子どもの病気については、義母のサポートも得られる環境でしたが、施設型と訪問型の2つの病児保育サービスにも登録して備えていました。日常的にも、ベビーシッター派遣や食材宅配サービスを利用していて、とても助けられています。ここ10年ほどでこうしたサービスや制度はかなり充実・普及してきていると感じます。育児を一人で抱え込まずに、積極的に外部の手を借りることは必須で、親も笑顔でいられますし、それが子どもの笑顔につながりますよね。

  • 橋浦 佳代さんの発話

    私も実家の近くに引っ越して、大変なときは両親に支援をお願いしていました。子育てに試練はつきものですが、そこで諦めずに「どうやったらこれを乗り越えられるのか」という発想で考えると、いろんなやり方が見えてくると思います。

THEME 03. 夫婦で育児に向き合う方法

夫婦で子育てをする視点を大切に。

  • 橋浦 佳代さんの発話

    夫婦共にフルタイムで働いているので、家事や育児は分担制。育児をするなかで、「当事者意識がない!」と夫を責めてしまうこともありました。一方で、今思えば、私自身も授業参観や家庭訪問などに関して「これはお母さんが担当するイベント」と、固定観念的に捉えてしまっているふしがあったんです。

  • 古家野 晶子さんの発話

    なるほど。男性が積極的に育児に参加することも大事だけど、お母さんの方も育児に対してフェアな視点を持たないといけない、と。

  • 橋浦 佳代さんの発話

    そうなんです。「これは私がやらなきゃ」って思っていたものが、周りを見るとお父さんが学校や保育園に来られているご家庭も多くて。

  • 古家野 晶子さんの発話

    保育園や学校の行事に積極的に参加したり、子どもの送迎を担当するお父さんが増えているのは、育児に主体的に関わりたいという意識が男性側に広がってきている証拠だと思います。私の職場でも、男女問わず育児にしっかりと関わっていけるようなあり方や、自分のしたい働き方を見つけていきましょう!と話しています。

  • 橋浦 佳代さんの発話

    男性が育児に積極的に参画するようになってきている分、女性も仕事の幅を広げるチャンスが生まれ、より責任ある仕事に向き合えるようになることも大切だと感じています。

  • 古家野 晶子さんの発話

    そうですね。性別の関係なく、責任を持って、仕事にも育児にも向き合うことが大事ですね。子育ては夫婦の一大プロジェクトですから、子育ての初期から、夫婦で育児を分かち合えるよう、日本でも男性の育休取得がもっと当たり前になるといいなと思っています。

  • 橋浦 佳代さんの発話

    最近は在宅勤務なども導入されて、働き方が柔軟になってきたことで、以前よりも両立しやすくなってきました。男女ともに仕事と育児にフェアな視線で向き合って、最適な選択肢を選んでいけるといいですね。

THEME 04. 両立にあたって大切にしていたマインド

キャリアのビジョンは、長期的な視点で描くことが大切。

  • 橋浦 佳代さんの発話

    私は、仕事を一生続けたいと思って入社したので、妊娠を機に辞めることは考えませんでした。育休後も仕事が楽しみで復帰しましたが、両立は想像以上に大変。でも「ここで諦めたくない!」という強い気持ちが、いつも支えになっていましたね。

  • 古家野 晶子さんの発話

    考え方次第で、状況を前向きに乗り越えるためのエネルギーが湧いてきますよね。私自身は、父が他界した後に、法律事務所の経営を引き継ぐことを決めたのが大きかったです。小さな事務所ですが、当時まだ子どもが2歳と0歳でしたので、決めることに伴う責任は、私にとって大変重いものでした。ですが、振り返ってみると、この覚悟が転機になったように思います。

  • 橋浦 佳代さんの発話

    子育てが大変な時期に、大きな決断をされたんですね。

  • 古家野 晶子さんの発話

    子育てもすごく大事ですが、一方で「主体的に仕事に取り組むんだという覚悟みたいなものが、女性側も必要なんだ」ということを実感しました。主体的な立場で仕事をしていくと決めたことで、「具体的にそれをどう実現していくのか」という発想に変わりました。

  • 橋浦 佳代さんの発話

    私は育児と仕事の両立を「変速自転車」に乗っているようなものだと考えていて。女性の場合は、出産などのライフイベントがあって、仕事に常にトップギアで走り続けるのは難しい時があります。自分自身は、仕事も含めたライフ全体として120%の力で走り続けていても、仕事面を客観的に見ると、低速ギアになっている。だからこそ育児中は、今は低速ギアに入れざるを得なかったとしても、いつかまたトップギアに入れられる日が来る、という長期視点を持つことを意識するようにしていました。

  • 古家野 晶子さんの発話

    子どもが病気や大きな試練に直面した時には、覚悟を持って低速ギアに切り替えるという決断をすることもときに必要だと思いますね。親として子どもの育ちをしっかり支え、試練に寄り添うことは、未来を紡ぐ社会的営みだと思います。そのようなことを理解し、支え合える職場、社会であって欲しいです。

THEME 05. 職場での配慮のあり方

それぞれの両立のかたちを、対話のなかで見出して。

  • 古家野 晶子さんの発話

    「育児と仕事の両立」と一言でいっても、社員それぞれ健康状態や家族の状態、大切にされているものも違うというところが出発点で、その人たちが集って、一つの大きな目標に向かって仕事をしている、という状況があるのだろうなと思います。だからこそお互いに希望や思いを伝え合い、乗り越え方を一緒に考えていくことがとても大事だと思います。

  • 橋浦 佳代さんの発話

    社員と職場が相互にコミュニケーションをとって、“お互いに納得できる落とし所”を探っていくことが大切ですよね。育児をする側は「これができません」ではなく、「今こういう状況なので、こういうかたちでやっていきたいです」という伝え方をする。職場は杓子定規的な「両立の型」を押しつけるのではなく、それぞれの社員に応じた対応を考えていく。そうやってちょうどいい着地点を見つけることがカギかなと思います。

  • 古家野 晶子さんの発話

    以前は男性が働けば家族の生活が回るという社会でした。橋浦さんのいう“トップギア”で走れる人が集まっている状況ですね。でも、共働きが増えることで、色んなギアの人が一緒に働くようになってきた。こうなってくると、必要なものが変わっていくのは当然です。時代の変化と社員それぞれの背景に敏感に反応して、チャレンジしやすい環境をつくっていく姿勢が、会社にも求められていますね。

  • 橋浦 佳代さんの発話

    そうですね。お互いを思いやり、会社全体で支え合っていくことが大切です。京セラは創業以来、「みんなでこの会社をよりよくし、みんなの幸福を実現していこう」という共通の「思い」をベースにしている会社です。そして、社員それぞれは、持てる能力を最大限出し合い、チーム一丸となって、よりよいものを目指してチャレンジし続けている。だからこそ、仲間への「信頼」もとても強い会社です。このベースとなる「思い」と「信頼関係」があれば、この時代の変化を逆に新たな力にして、それぞれの社員の力が生かせる、よりよい職場環境や両立の形をつくっていけると思います。

  • 古家野 晶子さんの発話

    健康や家族というのは仕事の基盤です。個々人の弱さや不安を受け止め、しっかり向き合うことで、組織としても強くなり、個々人の強みも最大化されるのではないかと思います。そうしたなかでさまざまなイノベーションが生まれるといいですね。

THEME 06. 仕事継続の原動力

京セラフィロソフィとも通じる仕事をする上での原動力。

  • 古家野 晶子さんの発話

    仕事を通じて経済的に自立していたいということも大きいですが、仕事継続の原動力は、やはり仕事を通じて実現したいと思っていることがあるからだと思います。私の場合は、弁護士としての仕事を通じて、理不尽なことも多いこの社会で、「Happiness」と「Fairness」を少しでも増やしたいということです。弁護士の仕事の本質は「問題解決」ですが、交渉や裁判手続を通じて、澱んだ水たまりを、本来の流れに戻すような気持ちで仕事をしています。
    もちろんうまくいかないこともありますが、仕事の機会をいただき、いろんな方から学ばせていただいたからこそ次に還元しなければ、という気持ちが常にあります。仕事は私の人生の営みの中の不可欠な一部となっていますので、低速ギアに入ることがあったとしても継続してこぎ続けることが「当たり前」なのだと感じています。

  • 橋浦 佳代さんの発話

    私は、実家が自営業だったこともあり、働き続けることは当たり前の風景なのですが、常に必死でこぎ続けてきたのは、チームにとって、会社にとって、さらには社会にとって、何かしらの役に立ちたいという強い意識をもっていたからのように思います。現在は、「フィロソフィを社内外に広く正しく伝える」仕事にあたっていますが、これはフィロソフィの浸透を通して、「人と組織を成長発展させ、幸福を実現する」役割を担っていると認識しています。この先、京セラが100年企業になろうと、常に若々しくチャレンジし、成長し続け、社員もいきいき活躍している……その強さと活力の源は、京セラフィロソフィにあります。
    私自身、働き方や生き方において、時には、暗くて長いトンネルを歩いているような苦しい気持ちになっても、前を向いて歩くよう励ましてくれた考え方であり、信念をもってこの仕事にあたっています。「仕事」と「育児」の両立においても、フィロソフィをベースに考えれば、職場と本人にとってのよりよい形が見えてくると考えています。

MESSAGE
  • にこやかな表情を浮かべる古家野 晶子さんの写真

    ワーク・ライフ・シナジー
    ~仕事も育児も創造的に~

    古家野 晶子さん

    育児は「育自」とも言いますが、人生がカラフルになっていく体験だと感じています。その中で、新たに見つけた視点だったり、培われた発想というものは、仕事に役立つものも多いと思います。社会の成り立ちや課題にも目を向け、仕事との関連も考えながら、育児に向き合えたらいいですね。
    また、子どもたちをあたたかく育む環境を会社として実現するためにも、事業の発展やイノベーションが同時に必要です。一人ひとりが、より良い社会、より良い京セラを創っていくのだという気持ちで、主体的にコミットしていけたら、とても大きな力になっていくのではないかなと思います。

  • にこやかな表情を浮かべる橋浦 佳代さんの写真

    育休をプラスの経験に、感謝を忘れず

    橋浦 佳代さん

    育休という会社から離れる期間を持ったことで、これまでの自分や会社との立ち位置を客観的に見ることができたと感じています。それも一ついい整理の機会で、改めて社会全体や会社全体を見る目も養われたと思います。そういう意味で、育児との両立は、仕事が制約されると考えるだけでなく、仕事の幅を広げる視点や視野を持つことができる貴重な機会とも捉えてみてはどうかと思います。
    もちろん、物理的、時間的制約があって、できない仕事は、職場の誰かがフォローしてくれていることに、感謝の気持ちをもつ。その分、いつか自分が誰かのフォローができるように、能力やスキル、また、人間力を磨き続けることを怠らない。「育児」の経験が、自分をより強くし、仕事にも人生にもプラスの成長に働く。そのような支援ができる環境を会社全体、社会全体でつくっていくことが、一人ひとりの幸福の実現に、また一歩近づくことになると思います。