エピソード
水冷複巻蛇管とネバーギブアップの社風(1960年)
京セラ創業当時を彩る多様な製品のうち、忘れてはならないのが、放送に使う送信管冷却用の「水冷複巻蛇管」です。外径30cm、内径20cm、高さ60cmの大きな磁器製の円筒で、二重らせん状に穴があいていて冷却水を通すという複雑な構造でした。戦前につくられたものと思われ、すでにつくれる技術者はなく、さらに設計図もなく、技術力で定評のある碍子メーカーでも辞退した製品でした。困った三菱電機が、京セラに依頼されたのです。
一旦引き受けたからには、何がなんでもやり通す稲盛は、粘土の押し出し機に自作した二つ穴の大きな口金をつくり、押し出した粘土を外径20センチの柱に巻き付け、中空のらせん状パイプをつくっていきました。
しかしサイズが大きいため、内側と外側の乾燥する速度が違うとクラック(ひび割れ)が入って割れてしまいます。均一に乾燥させていかなければなりませんが、急激に乾燥させても割れてしまうので、まだ乾ききらない柔らかい製品をウエス(布きれ)で巻いて、霧を吹きかけて一旦湿らせ、そこからじわじわと全体を乾かしていったのです。さらに、重みで形が崩れてしまわないように、夜中、窯の横の適当な温度のところでそれを抱いて、ゆっくりまわしながら乾かしていきました。
こうして、およそ4カ月かけて注文数が完成したのです。
何がなんでもという稲盛の執念は、ベテランの碍子メーカーが辞退したものを京セラにできたという満足感と自信を従業員たちに与えるとともに、京セラに「ネバーギブアップ」の社風をつくることにもつながりました。
写真:稲盛ライブラリーに展示されている水冷複巻蛇管(複製)