講演

稲盛和夫経営哲学広州報告会

「アメーバ経営が持続的な企業成長をもたらす」

「アメーバ経営が持続的な企業成長をもたらす」をテーマに、稲盛はアメーバ経営の3つの目的やアメーバ組織のつくり方等について述べています。なお、本報告会は、中国の盛和塾生に対して行われたものです。

本講演は、書籍『稲盛和夫経営講演選集 第6巻 企業経営の要諦』に収録されています。

アメーバ経営のはじまり

アメーバ経営は、経営の実践の中から生み出された、まさに経営者が経営を行うための管理会計システムであり、京セラやKDDIの今日までの成長発展の大きな原動力となったばかりか、日本航空の再建においても経営改善の大きな力となっています。

アメーバ経営の3つの目的 ―マーケット(市場)に直結した部門別採算制度の確立―

多くの製造業では経理部門が事後処理として会計処理を行い、原価などのデータが後追いで出てきます。しかし、市場価格は常に変化しているので、過去の原価をベースにしていたのでは、経営の実態と乖離し、適切な改善の手を打つことができません。そのため、全体のオペレーションを、必要に応じてアメーバと呼ぶ小さな組織に分割し、そのアメーバごとに売上や経費などの経営実績がリアルタイムに把握できるようにしなければなりません。

つまり、アメーバ経営とは、マーケットのダイナミズムを社内のアメーバにダイレクトに伝え、さらにはそのマーケットの変化に会社全体がリアルタイムに対応することができる、まさに市場に直結した経営管理システムなのです。

アメーバ経営の3つの目的 ―経営者意識を持つ人材の育成―

会社が大きくなるに従い、会社全体をトップ一人で見ていくことが難しくなっていきます。そこで、組織を小さな単位に分けて、その小さなユニット・オペレーションのリーダーに、それぞれ経営責任をもってもらい、きめ細かく採算を見ていくようにしていかなければなりません。そのように各アメーバを独立した中小企業のような形にすることで、リーダーが中小企業の経営者のような意識を持つようになり、その結果、いわゆる共同経営者が育っていくことになります。

アメーバ経営の3つの目的 ―経営哲学をベースとした全員参加経営の実現―

京セラ創業当時、日本では労使対立が激化していました。私は、経営者と労働者が同じ考え方、意識を共有することができるならば、労使間の対立は消えてなくなるに違いないと考え、「大家族主義」を京セラの経営哲学の骨格に据えました。そして、「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献する」という大義名分を掲げることで、経営者のエゴ、労働者のエゴという対立構造を超えて、「全員参加の経営」を実現することができたのです。

アメーバ組織のつくり方

アメーバ経営には、以上述べた3つの目的がありますが、実際に運用していくには、いくつかの留意点があります。まずは、「アメーバ組織のつくり方」です。

第1のポイントは、「部門の収入と経費がはっきりし、独立採算が可能な単位であること」です。つまり、その部門に収入が明確に存在し、かつその収入を得るために要した費用も明確に出る、この条件を満たす組織に分ける、ということです。

第2のポイントは、「事業として完結できる状態に細分化する」ことです。一個の独立した会社として成立する単位に細分化することでこそ、リーダーは経営者としての創意工夫を重ね、やりがいを感じることができます。

第3のポイントは、「会社としての本来の目的を遂行できること」です。たとえ独立採算がとれる組織という条件を満たしたとしても、それをアメーバとして独立させてしまうと、会社全体として一貫した経営というものが阻害される場合もあります。そのようなときには、アメーバとして独立させてはならないのです。

アメーバ間の値決め

アメーバ経営の実践において留意すべきもう一つの点として、「アメーバ間の値決め」があります。工程ごとにアメーバ組織ができると、それぞれのアメーバは売買をするので、各アメーバ間で売値を決めなければなりません。しかし、各アメーバは少しでも採算を上げようと必死になっていますから、非常に難しいことです。そこでは、それぞれのアメーバの仕事をよく理解しているリーダーが、そのアメーバにかかる経費や労力を社会的な常識から勘案し、それに見合う売値をつけて、フェアに決めていくことが求められます。

しかし、そのようにアメーバ間の値段を決めても、アメーバ同士の利害が対立し、争いが起こることがあります。このような対立は、自分を守ろうとする「利己」の結果、生まれるものです。アメーバ経営では、会社を小さな組織に区切り、それぞれが独立採算で経営しているため、自部門の利益をできるだけ多く出そうとする意識が強くなりやすいのです。しかし本来、各部門は自分たちの部門を守り、発展させることに懸命に努めるとともに、会社トータルとしての利益を最大にするために全力を尽くさなければなりません。つまり、個と全体との調和が大切なのです。

リーダーにはフィロソフィが必要

アメーバ間の矛盾を解決するには、個の利益を追求しながらも、立場の違いを超えて、さらに高次元の判断ができるような、確固たる「哲学」が必要となってきます。そうした普遍的な哲学、フィロソフィが企業内で共有されていればこそ、アメーバリーダーは、自分たちだけよければいいという、悪い思いを払拭し、会社全体のために何をしなければならないかという、善い考えに立脚することができるのです。

また、リーダーとなるような人間は、元々利己的で自己主張の強い人間です。ともすれば悪さもしかねないような人間であるからこそ、普遍的なフィロソフィをもって、自分の行動を制御していく必要があるのです。つまり、自分を律する高い次元のフィロソフィを身につけることで、自分勝手な行動をできる限り抑え、アメーバ経営を正常に機能させていかなければなりません。

京セラグループの躍進の要因は、まさにこのようなフィロソフィに根ざしたアメーバ経営が世界の隅々まで浸透し、グローバルに実践されていることにあります。

講演での稲盛の発言

稲盛が講演で述べた言葉を、一部ご紹介いたします。

大きく肥大した組織になればなるほど、経営実態や無駄がわかりにくくなり、必要な経営改善の手が打てず、また誤った経営の舵取りを行ってしまうことで、せっかく成長させた企業を衰退させてしまうといった例が、後を絶ちません。急成長を続け、組織が日増しに拡大していく中で、少しでも無駄のない経営をはかるために、組織を細分化して、その組織ごとに月々の売上と経費の明細が迅速かつ明確にわかるようなシステムを構築し、その運用に努めることが必要です。

管理会計は、経営情報をステークホルダー向けに開示するための財務会計や、納税のために行う税務会計とは異なり、経営者が経営実態を把握し、その意思決定や業績管理に活用するための会計手法です。「アメーバ経営」は、経営の実践の中から生み出された、経営者が経営を行うための管理会計システムです。

経営者の強い思いとあふれるような情熱、そして誰にも負けない努力と絶えざる創意工夫があれば、企業は成長発展を遂げていきます。しかし、その急激な会社発展のかげで、組織が肥大化し、無駄が分からなくなり、どんぶり勘定に陥ってしまったりすることで、企業が衰退の道をたどり始めることが往々にしてあります。企業が発展を遂げ、その繁栄を長く持続するには、確固たる管理会計システムを確立し、それぞれの部門ごとに経営実態をリアルタイムで把握し、必要な手を迅速に打つことが絶対に必要です。

アメーバ経営を正常に機能させるには、リーダーが高邁なフィロソフィを持ち、すばらしい人間性を兼ね備えた人間でなければなりません。それも「まったき人格者」でなければなりません。「アメーバ経営」におけるリーダーとは、全人格的に優れた人間でなければならず、そのようなリーダーであってこそ、組織を永続的に発展させることができるのです。

「稲盛和夫経営哲学広州報告会(2011年9月25日)」より

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第6巻 企業経営の要諦