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スペシャルコンテンツ#05 通信×IoT・5G

スペシャルコンテンツ#05
通信×IoT・5G

ご意見・ご感想
ヒト・モノ、すべてをつなげるIoTが本格始動

国内の IoT活用で「日本企業」にこそ勝機がある理由

KYOCERA | NewsPicks Brand Design

 京セラの携帯通信機器事業が、30周年を迎えた。 1989年に携帯電話端末の第1号機を市場に投入して以来、京セラは「ユーザーのさまざまなニーズに応えること」を掲げ、ビジネスに取り組んできた。連載「京セラ 通信の30年」最終回は、同社のIoT/5G技術を活用したコネクティングサービス事業にフォーカス。ネットワークや通信デバイス、基地局などを幅広く手掛けてきた京セラだからこそ描ける、通信ビジネスの未来図とは。リアルとバーチャルが融合する「デジタルツイン」の実現可能性を含め、その展望を聞いた。

携帯電話は「電話できる」だけでいいのか

 3Gサービスが軌道に乗りはじめた2004年度末、携帯電話の人口普及率は72%に達した(平成16年 総務省発表)。

 京セラ通信機器事業本部でIoTビジネスを統括する横田希氏は、「その頃から京セラでは、携帯電話はコミュニケーションツールとしての役割だけでいいのか、という議論がはじまりました」と当時を振り返る。

 1989年から通信機器ビジネスに参入している京セラは、使う人のニーズに合わせてさまざまな携帯電話を生み出してきた。

 しかし、人だけでなくモノに通信を「つなぐ」ことで、新たなビジネスを創発できるのでは、と考えたのだ。

京セラ 通信機器事業本部 通信事業戦略部 IoTビジネスユニット責任者 横田希

最初に試したのは、ガスメーターにPHSをつなぎ、測定データを送る「テレメータリング(遠隔測定)」のような仕組みだ。

 以降、2005年ごろから産業機器向けの通信モジュールに参入し、BtoB向けのデバイス提供をスタート。2017年からはIoT機器の取り扱いも開始した。

 通信モジュールとは、製品に組み込むことができる通信端末基板。IoT機器とは、通信端末基板だけでなく、アンテナや電源、Bluetooth、センサー類なども組み込むことで、それ単体で別の製品とつなぐことができる代物だと考えるとわかりやすい。

「しかし、スマートフォンと比較すると、IoT機器は半分、ものによっては1/10程度の値段です。そして、当然スマホほどは売れません。

 京セラがハードを提供するだけでなく、あらゆるモノとモノをつなげる=コネクティングサービスに注力するようになったのは、そういう事情もあります」(横田氏)

 京セラが提供する「コネクティングサービス」の特徴は、ハードウェア設計、組み込みソフトウェア、カスタマイズ対応、公的認証取得、運用監視/サポート、障害発生時の対応といった一気通貫の枠組みだ。

京セラのコネクティングサービス

 横田氏は「私たちの存在は、BtoBtoCの一番左のBです」と説明する。

 たとえば、セキュリティカメラや工場で稼働するロボット、ウェアラブルデバイスなどのエッジ機器からデータを取り、活用したいと思っても、その方法がわからない企業は多い。

 そこで京セラが、企業がエンドユーザーに提供したいサービスから最適な端末を開発したり、通信システムを構築したりして、間接的にサポートするのだ。

 これは、データという「貴重品」を適切に運ぶために、中身に合わせた容器や輸送手段を提供している、とも言い換えられる。

IoTデバイスで「街ぐるみ」の見守りが可能に

 では、京セラの「コネクティングサービス」は実際にどのように運用されているのか。その好例が、IoTを活用した子どもの見守りシステムだ。

 2020年にリリースされ、複数の自治体で導入が進んでいるという。事業の詳細について、同じく通信機器事業本部の萩原知里氏は次のように語る。

「NTT西日本さんが提供する『児童みまもり情報配信ソリューション』は、私たちのビーコン対応GPSトラッカー/ゲートウェイを使ったコネクティングサービスで実現しています。

 携帯電話ネットワークを利用したIoT用通信規格『LTE-M』を用い、屋外ではGPSで子どもの現在地を、屋内ではビーコンで学校や塾への到着や退出、通学バスへの乗車などを確認できます」(萩原氏)

京セラ 通信機器事業本部 通信事業戦略部 IoTビジネスユニット事業開発課 萩原知里

 すべての情報はLINEやメールで通知され、自治体からは近隣の不審者出没情報などのインフォメーションも配信されるという。

 危険な情報があれば直接子どもに連絡を取り、早めの帰宅を促すこともできる。

 まだ実験段階ではあるが、同じ技術が登山中の安全管理にも応用されている。登山管理者や家族が、GPSによって常に登山者の位置を確認することができるのだ。

「登山パーティーの一人がGPSトラッカーを持ち、それ以外の人がビーコンを装備すれば、GPSトラッカーから全員の位置情報をまとめて送信して、安否確認に利用することも可能です。

 また、温度や気圧のセンサーと接続すれば、『変わりやすい』とされる山の天気の変化を早期に知り、危険を避けられるかもしれません」(萩原氏)

萩原氏の左手にあるのが、IoTソリューションに使われる「ビーコン対応 GPSトラッカー/ゲートウェイ」。屋外ではGPSを、屋内ではビーコンを使い、3分毎に位置情報を取得。携帯電話ネットワークを利用したIoT用通信規格「LTE-M」を使って、管理者に位置情報を送信するという。

 加えて、萩原氏は「ユースケースは農業、物流、交通など、業界を問わず広範囲にわたる」と説明する。

 GPSやビーコンに接続するソフトウェアさえ変えれば、人やモノなど、あらゆる対象物を「つなげる」ことができる。京セラのコネクティングサービスの活路は無限に広がるのだ。

5G活用で、IoT化は「爆進」する

 もうひとつの好例が、5Gを活用したコネクティングサービスだ。これは、各社が持つインフラの維持管理や物流のDX(デジタル・トランスフォーメーション)を5Gで後押しする取り組み。

 京セラは、限られた範囲で5G網を無線で構築する「ローカル5Gシステム」を開発し、実証実験に取り組んでいる。

 このローカル5Gシステムを有効活用するための5Gルーターが、今年5月から商用化される「K5G-C-100A」だ。

 多種多様な機器と接続可能で、接続した機器をローカル5Gシステムにつなげられる。

「大容量データの取り扱いや、長時間の連続通信で発生する熱に耐えられるように、排熱構造に加え冷却ファンを搭載しています。

 また、エッジコンピューティングを可能にするCPUを搭載しており、デバイス単体でデータ処理やフィードバックが可能です。

 これにより、クラウドへの負荷を低減しながら、リアルタイムで信頼性の高いデータ処理ができます」(萩原氏)

「K5G-C-100A」の様子。サイズは約78×165×27mmで、超小型のパソコン本体といった佇まいだ。

 実は、長時間通信に耐えられる排熱と冷却の機能を備えた5G関連デバイスはあまり多くない。デバイス本体の熱処理は、携帯電話やスマホでも重要な課題だ。

「K5G-C-100A」には、長年、通信機器を開発・製造してきた京セラの強みがいかんなく発揮されているのだ。

「これまで、通信は『ベストエフォート』、つまり『余裕がある時は最大限のスループット(単位時間あたりの処理能力)を提供するが、そうでないときはそれなりの速度』というセオリーがありました。

 ですが、産業インフラとしていっそうの役割が求められる以上、そうは言っていられません。長時間の通信にも対応しうる、安定性や耐久性が求められているのです」(萩原氏)

では、実際にどのような業界で活用できるのか。ひとつは、IoTを活用した次世代工場「スマートファクトリー」だ。

「5Gには ①超高速 ②超低遅延 ③多数同時接続という3つの特長があり、特に製造業において用途が明確です。

5G通信3つの特長

 たとえば、工場内のAIカメラを『K5G-C-100A』と接続し、撮影した部品をリアルタイムで分析することで、不良品の自動判別が可能になる。無人化による作業支援のひとつです」(萩原氏)

 無人化という文脈では、同機器は産業用ロボットにも活用できる。

工場内で、同時に同じ種類の産業用ロボットを動かすことではじめて作業の効率化が実現するが、4Gの性能ではそれが難しかった。

 しかし、5Gの性能を生かせる「K5G-C-100A」なら、工場内での配置も柔軟にできる。

萩原氏は「ARグラスと『K5G-C-100A』を接続して、離れた場所にいるベテラン作業員と目線を共有できれば、リアルタイムで修繕や作業の指示を受けることもできます」と、一歩先のスマートファクトリーの在り方を見据えている。

iStock:pugun-photo

通信ビジネスは「グローカル」だ

 あらゆるモノを「つなぐ」未来を見据えて、コネクティングサービスを加速させる京セラだが、IoTや5G、及びそれらを活用したデータビジネスは、さまざまなライバルがひしめき合うレッドオーシャンだ。

京セラはどこに勝機を見い出しているのか。先出の横田氏は、展望をこう語る。

「一番の強みは、⾧年の携帯通信機器開発で培った通信技術・設計品質です。

 また、通信の規格や保守、法律は、国や地域によって大きく異なる、非常に『グローカル』なものです。

 たとえばアメリカをはじめとしたいくつかの国では、安全保障の観点から特定の国のドローンや通信端末のビジネス利用を禁じています。

 それから、よく聞く話ですが、海外のサービスを導入したら、いざトラブルが起きたときにすぐに対応してもらえなかった、というケースも多い。

 百歩譲ってコンシューマービジネスではそれが許されるかもしれませんが、法人ではあってはならないことです。そう考えると、自国のメーカーが最も強いと言えるでしょう」(横田氏)

 実際、京セラのコネクティングサービスは、まず国内マーケットから攻めていくシナリオだという。その先に描いているのは、テクノロジーを「意識させない」社会だ。

 京セラがコネクティングサービスの到達点として目指すのは、サイバー空間にフィジカル空間(現実世界)を再現する「デジタルツイン」の環境。

 これにより、現実には検証できないことを試したり、精度の高い未来を予測したりすることができる。

「横断歩道を渡ろうとしている高齢者のスマホから得られる歩行速度の情報、車道を走っている車の速度情報、横断歩道の画像情報などを瞬時に取得し、シミュレーションを行う。

 その結果として、青信号の時間を長めにするという仕組みが作りたい。

 高齢者の方は、たまたま青だったと思うかもしれませんが、その裏では通信によってさまざまなデータが行き来しているのです」(横田氏)

コネクティングサービスの到達点 「デジタルツイン」とは?

 信号の事例以外にも、災害対策や犯罪や事故の防止、渋滞予測といったことも期待されている。公道では難しい自動運転の実験なども可能で、社会実装の一助となる。

 小売業や物流業で活用されれば、サイバー空間にサプライチェーンを構築。最適な事業間連携や配送計画などを予想し、実際のサプライチェーンへと反映させることができる。

 また、熟練技術者の匠の技を蓄積し、サイバー空間で可視化することで、現実世界で技術継承することも可能になるだろう。

iStock:metamorworks

「私たちは“コネクティング屋”であり、ハードウェアのプラットフォーマー。

 だからこそ、提供するコネクティングサービスやIoT機器は、バーティカル(業種業界に特化したもの)ではなく、ホリゾンタル(業種業界に縛られないもの)でありたい。

 今は5GやIoTが話題にあがりやすいですが、4G、LPWAなど、最適な通信規格とデバイスを組み合わせたソリューションを目指していきます」(横田氏)

 自社が抱えている課題が、コネクティングサービスやIoT機器の活用によって、解決する可能性があると気づいていない企業も多い。

 そこにリーチして、新たな価値を創造できるか。京セラのコネクティングサービスの未来に期待がかかる。

(制作:NewsPicks Brand Design 取材:呉琢磨、高橋智香 執筆:林田孝司 編集:大高志帆 撮影:小池彩子 デザイン:堤香菜)