セミナーレポート

2019年3月27日

開発の経緯や狙いを明らかにする講演。
IoTプロダクト作りの参考に。

〈セッションテーマ〉
eSIMでつながるコンシューマープロダクトを作る

京セラ株式会社 通信機器事業本部 通信事業戦略部長 能原 隆×株式会社ソラコム テクノロジー・エバンジェリスト 松下 享平

2019年2月14日(木)開催

京セラ株式会社のIoT通信機器「LTE-Mボタン」がベースとなったデバイス「SORACOM LTE-M Button powered by AWS* 」を販売する株式会社ソラコムが主催して、ハードウェアとインターネットが融合する新たなプロダクト開発をテーマにしたカンファレンスが開催されました。この中で「コネクテッドの実践方法」として語られるセッションの1枠において、LTE-Mボタンの開発についてお話ししました。
*「Amazon Web Service」の略。「AWS IoT 1-Click」サービスに対応したボタンデバイスとして日本初の製品。

SORACOM LTE-M Button powered by AWS
株式会社ソラコム
テクノロジー・エバンジェリスト
松下 享平氏

“通信を部品に”して広がる製品の可能性

まずはソラコムの松下氏が2つの製品事例を挙げ、その共通点として「通信機能を部品として製品に組み込んでいる」ことを話されました。このため、どちらの製品もネットワーク接続の手間なく、購入してすぐに利用できます。

さらに、クラウド型の翻訳機も例に挙げ、翻訳機能をクラウド上に置くことで膨大なコンピューターリソースを利用した翻訳サービスを提供しながら、デバイスをコンパクトに設計できる利点を説明されました。そして、それらのキーコンポーネントとして「eSIM」を取り上げ、eSIMを搭載したソラコムの代表的な商品のひとつSORACOM LTE-M Button powered by AWSを、IoTデバイスを開発する上で参考になる例として紹介。次へとバトンを渡しました。

シンプルさの追求がコンセプト

はじめに、京セラのモバイルフォンやモジュールにおける実績を紹介。そこで培ったノウハウも活かしてLTE-Mボタンを開発していったことなどを話していきます。今回はLTE-Mボタンにフォーカスしたため、以前のセミナーでは語らなかった部分も紹介できました。

人とクラウドが対峙するのがIoTビジネスの究極の姿であり、この間にある「ボタン、ネットワーク、SIM」をできるだけシンプルにすることがLTE-Mボタンの根本的な開発思想です。

入力はボタンの「単押し、長押し、2度押し」の3パターン。どのようなアクションを返すかはクラウド側で処理するという考え方です。ハードウェアも筐体に電池と基板だけというシンプルな構成で、これにeSIMを組み合わせています。このシンプルな構成と、通信モジュールの派生開発によって非常に小さなサイズを実現。そしてシンプルであるため、スマートフォンなどと比べ、かなり開発期間が短縮されています。

しかし、ただ小型・シンプルに作っただけではなく、製品のさまざまなところに、モバイルフォンのメーカーとして長年培ってきたノウハウがあることを解説します。

LTE-Mボタンの内部構成
(基板は表裏をお見せしています。実際に内蔵しているのは1枚だけです)

工夫が詰め込まれたLTE-Mボタン

具体的には、製品開発でこだわった「手のひらサイズ」「シンプルデザイン」「省電力設計」「公的認証」の4つのポイントを紹介していきます。

まずは「手のひらサイズ」。アメリカで先行していた同様の製品は直径84mm×厚さ25mmもある円柱形で、日本人の手には馴染みません。そこで、日本人の手の大きさに合う形状とサイズにしました。

あわせて重視したのが「繰り返し使える」こと。アメリカの製品は内蔵電池が切れたら使い捨てでしたが、日本人の物を大切にする文化・思想には合わないと考え、乾電池によるバッテリー交換を可能にしました。

2つめに「シンプルデザイン」。エンジニアが描いた図面をもとに、デザイナーが人間工学的な配慮から最終的な図面を起こしました。ボタンの位置、背面のエッジのR、パーツ構成などもデザイナーが入ることによって大きく変更されています。また、デザイナーのアイデアとしてストラップホールも設計。このようなところに、携帯電話を開発してきた経験が活かされています。

ボタンの位置もさまざまな位置を検討。上部に内蔵したアンテナの基板に指が干渉しないこと、一般的な成人でも押しやすい大きさであること、裏にして置いても押されないことなど、エンジニア、デザイナー、商品企画が検討を重ねて完成させました。

また、3つめのポイントとして「省電力設計」を重視。乾電池式は電流を安定して最後まで使い切ることが難しいため、携帯電話のようにデータや電話の着信を“待ち受け”せず、ボタンを押したときにだけ電源が入ればよいと判断。回路には独自の工夫を施して乾電池のエネルギーを最後まで使えるようにしています。

そして4つめが、ライセンスドバンドを使う場合の「公的認証」です。無線機としての認証と、通信機器としての認証があり、LTE-Mボタンはどちらも取得しています。これをお客様が独自に開発した製品で取得するのには、手間とノウハウが必要になることを話しました。

社会に貢献するIoTを

終盤、京セラでは「IoTコネクティングサービス」という事業コンセプトを掲げ、デバイスの提供や機器の設計、公的認証の確認などで、お客様のIoT化を支援すること。そして、サービス業にはIoT機器の提供、メーカーには製品の無線化、製造現場には製造IoTやインダストリアルIoTと呼ばれる分野で協力していきたいとお話ししました。

そしてIoTの近い将来から遠い未来を予測。IoTの継続的な活用や、IoT構築支援ビジネスの今後、さらにはロボティクスとAIをIoTでつないで次世代型の産業や社会を生みだすことに貢献したいと述べ、講演を締めくくりました。

ハードとクラウド、各専門家の強みを

最後に、松下氏が再び登壇。セッションの総括として述べられたのは、ハードウェアを開発してきた事業者がさらにネットワークに取り組み、逆にクラウドに取り組んできた事業者がハードウェアを開発しようとするのは、時間的にもコスト的にも非効率であるということです。それよりも分業・協働し、それぞれのノウハウを活かして、より魅力的なハードウェアや、使いやすいインターフェースなどを生みだすことの意義を語られました。

そして、同じくLTE-Mボタンをベースにした新しいデバイス 「SORACOM LTE-M Button for Enterprise 」に触れ、接続先としてSORACOM Beam、Funnel、Harvestを選択することができるようになったことを紹介。ハードウェアメーカーとクラウドインテグレーターの協業に期待を寄せつつ、セッションは幕を閉じました。

※LTEは、ETSIの商標です。
※Amazon Web Services、アマゾン ウェブ サービス、AWS、AWS IoT 1-Click、AWS Lambdaは、米国その他の諸国における、Amazon.com,Inc.またはその関連会社の商標です。
※その他の社名および商品名は、それぞれ各社の登録商標または商標です。

開催概要
イベント名:if-up2019 IoT Technology Conference powered by SORACOM
https://if-up2019.soracom.jp/
開催日:2019年2月14日(木)
開催場所:ベルサール新宿グランド
主催:株式会社ソラコム

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