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京セラが考えるスマートシティ

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SDGsの取り組み自体を”サステナブル”に 発電機能を100%再エネで賄う「地域マイクログリッド」が小田原市で始動

近年は地球温暖化の影響とみられる気候変動が深刻化し、「脱炭素化」が重要な社会課題となりつつある。その実現に欠かせない技術が、再生可能エネルギー(以下、再エネ)とエネルギー管理システム(Energy Management System:以下、EMS)である。これを活用した先進的な取り組みが小田原市でスタートした。エネルギーの“地産地消”による「地域マイクログリッド構築事業」である。平時には再エネを有効活用し、非常時は系統電力に代わる分散型電源としてエリア内の人々の生活を支える。京セラをはじめとする企業と自治体の協働で進められている持続可能な地域社会づくりの取り組みを紹介する。

気候変動の原因とされる温暖化を抑制し、持続可能な社会を実現する。その達成に向けて世界が動き出している。日本政府は2050年までにCO2排出の実質ゼロを目標とする「2050年カーボンニュートラル宣言」を発表した。世界最大のCO2排出国である中国、米国やEUも脱炭素化に向けた高い目標値を公表している。

脱炭素化には太陽光、風力、地熱、バイオマスといった再エネの導入を推進していく必要がある。実際、日本政府は2030年のエネルギーミックスにおいて、再エネの比率を22~24%とする見通しを示している。

再エネの中でも導入しやすく、実用化が進んでいるのが太陽光発電である。その一方、天候の影響を受けやすく、発電能力が変動するといった弱点がある。これを補う技術が、EMSである。EMSは電力の使用状況を見える化するシステム。再エネと蓄電池を組み合わせたエネルギー管理が可能になり、発電能力の変動をカバーする効率的な電力利用を実現できる。

3.11の計画停電を経験し、
エネルギーの“地産地消”にシフト

系統電力は大規模設備による高効率な大容量発電で幅広いエリアに安定した電力を供給するが、再エネで系統電力並みの幅広いエリアの電力供給をカバーするのは難しい。脱炭素化に向けた国家レベルの目標達成のため、重要な役割を担うのが全国の自治体である。

自治体が再エネとEMSを導入し、エネルギーの"地産地消"を実現する。この取り組みが全国に広がることで、より大きな国家目標に近づいていける。このトップランナーの1つが、神奈川県西部に位置する小田原市の事例である。同市と連携して、京セラ、REXEV、A.L.I. Technologiesなどはコンソーシアムを立ち上げ、地域と連携した「地域マイクログリッド構築事業」に取り組んでいる。

これは、経済産業省が公募した令和2年度「地域の系統線を活用したエネルギー面的利用事業」に採択されたもの。「小田原こどもの森公園わんぱくらんど」において、太陽光発電による再エネとEMSを最大限に活用し、"地産地消"の地域エネルギーマネジメントを実現する。2020年9月より着手し、2022年2月に構築が完了した(写真)。

写真 地域マイクログリッドを支える発電・蓄電設備
写真 地域マイクログリッドを支える発電・蓄電設備
公園内に設置した約50kWの発電が可能なクラウド型太陽光発電所(上右)。園内の一角には蓄電池、受変電設備、分散型サーバー設備も設置されている(上左)。蓄電池の蓄電容量は約1.5MWh。非常時はEVの電力(下)と併せて園内施設の照明や冷暖房、上下水道設備の電力として使う。これで災害時に必要とされる約72時間分の電力を賄えるという
小田原市 環境部長 藤澤 隆則氏
小田原市 環境部長
藤澤 隆則氏

小田原市が地域マイクログリッドを目指すきっかけになったのが、東日本大震災である。直接的な被害は少なかったものの、計画停電という未曽有の事態を経験した。「住民の生活と安全を守るため、エネルギーを自給自足する必要性を痛感しました。同時に脱炭素化も不可避の課題です。これを両立し、2030年の将来像(ビジョン)である世界が憧れるまち・小田原を目指しており、その一環として、地域マイクログリッドの実現に取り組んだのです」と小田原市の藤澤 隆則氏は経緯を述べる。

平時は再エネを有効活用し、
非常時は蓄電池で電力需要を支える

小田原市での地域マイクログリッドは「徹底した省エネ」「再エネ自家消費率の拡大」、そしてこの2つをリンクさせる「新たなエコシステム」というアプローチを具現化した意欲的な取り組みである。

最先端の技術やソリューションを持つ企業とのエコシステムで最適な仕組みを導入し、再エネの利用拡大を図る。これによって系統電力の使用量が下がり、CO2排出量係数も減る。EMSで最適な電力調整を実現することで、非常時のレジリエンス(回復力)も向上する。その全体イメージは下図の通りだ。

図 小田原市の地域マイクログリッド構想
図 小田原市の地域マイクログリッド構想
平時は太陽光発電の電力をEVカーシェアリングと分散型サーバーへ供給し、余剰電力を蓄電する。系統電力が停電した非常時はマイクログリッドを発動し、電力供給源を蓄電池に切り替え、園内設備に電力を供給する。一部のEVは"動く蓄電池"として域内の避難所に派遣し、非常用電源に利用する

もちろん、自治体の力だけでは実現は難しく、企業の協力が不可欠になる。小田原市の場合、支援する企業のパートナーの中で大きな役割を担っているのが、京セラとREXEVである。京セラは地域マイクログリッドのグランドデザインを策定した。さらに太陽光パネルや蓄電池の導入・運用、マイクログリッド内の需給バランスや電圧・周波数安定化オペレーション、そしてコンソーシアム全体の取りまとめを担う。

京セラ株式会社 経営推進本部 エネルギー事業開発部 サスティナブルエンジニアリング部責任者 草野 吉雅氏
京セラ株式会社
経営推進本部
エネルギー事業開発部
サスティナブルエンジニアリング部責任者
草野 吉雅氏

京セラの草野 吉雅氏は次のように話す。「京セラグループは、気候変動問題を重要な経営課題の1つと位置づけ、2019年度に『京セラエネルギービジョン3.0』を策定しました。グリーントランスフォーメーションを推進し、2030年度にCO2排出量を2013年度比で56%削減、再エネ導入量も2013年度比で20倍にし、2050年にカーボンニュートラルの達成を目指しています。私たちの取り組みをソリューションやサービスという価値に変え、お客様や社会と共に脱炭素化共生圏を実現したい。小田原市地域マイクログリッドもこの一環として取り組むものです」。

REXEVはEV(電気自動車)とカーシェアリングサービスの提供に加え、非常時における動的な電源調整力を支えるEVエネルギーマネジメントシステム(EVEM)を構築した。EVの稼働状況をモニタリングし、非常時に"動く蓄電池"として使えるEVがどれだけあるかを即座に割り出し、非常用電源の調整をサポートする。

株式会社REXEV 代表取締役社長 渡部 健氏
株式会社REXEV
代表取締役社長
渡部 健氏

「系統電力は大規模な発電システムで広範囲な電力需要をカバーしますが、これを再エネで実現するのは難しい。"地産地消"の分散型エネルギーが再エネ利用促進の現実解だと思います。当社はEVEMの提供を通じ、小田原市の地域マイクログリッドに貢献しています」とREXEVの渡部 健氏は語る。

分散型サーバーへの電力供給で再エネをマネタイズする

この地域マイクログリッドの注目ポイントは大きく2つある。1つは電力を100%再エネで賄う"完全地産地消型"であることだ。「EVや蓄電池を活用しても、元の電力が系統電力だけに頼ったものでは、本当の脱炭素化にはならない。小田原市の地域マイクログリッドは、EVの電力も、蓄電する電力もすべて太陽光発電で賄う、CO2排出量係数ゼロの脱炭素化共生圏を実現しています」と草野氏は説明する。

もう1つのポイントは、持続可能性を重視しマネタイズまで実現していることだ。データセンターの消費電力は2030年に2018年度比の約6倍、2050年にはそれが約857倍に激増すると予測されている。中でも大きな電力を消費するのが、画像処理を担うGPUである。地域の太陽光発電の余剰電力をアグリゲーションし、分散型サーバーへ供給する。地産地消のエコシステムによって、再エネに新しい価値を付加した。非常時にはGPU単位で細かく供給電力を調整する仕組みも実現した。

「地域マイクログリッドを持続可能なものとするためには、事業的な視点も大切です。いつ起こるか分からない災害時のためだけに、投資は続けられないからです。収益が上がれば、インフラにも継続的に投資していけます」と草野氏は続ける。

この仕組みには、小田原市も大きな期待を寄せる。市自身が発電機能を持つことができるからだ。「100%再エネで脱炭素化に貢献できる上、災害時にマイクログリッドを発動することで、住民の命と安全を守ることができます。持続可能な地域社会づくりと災害時のレジリエンスという点で、今回の事業が持つ意義は非常に大きい」と藤澤氏は話す。

マイクログリッド発動の実施訓練を今年度上期に実施

小田原市の地域マイクログリッドは実証実験ではない。実用化を前提としており、その運用は2022年3月よりスタートする。同5月ごろには実際に系統電力から切り離し、マイクログリッドを発動させて検証を行う。

今後はこれをモデルケースとして、面的に広げていくことが重要になる。「小田原市では2030年までに設置可能な屋根の3分の1に太陽光パネル設置し、今の5倍の発電能力を目指しています。エネルギー計画の野心的な目標を掲げながら、公民連携をより一層加速し、持続可能な地域社会の実現に向け、チャレンジを続けていきます」(藤澤氏)。

海外には日本のように系統電力ネットワークが整っていない国もある。「今回の事業が成功すれば、日本の仕組みを海外に展開する新たなビジネスも可能になります」と渡部氏は期待を寄せる。

今回の事業は1つのモデルケースではあるが、これが全国どこの自治体でも通用するわけではない。地域の特性や課題は地域によって様々だからだ。「何を目指し、どんな課題を解決したいのか。そこに住む地域の方々の声を反映し、自治体主導で考えることが大切。京セラはこれまで様々な実証実験などで培ってきた知見を活かしながら、その取り組みを地域や企業の皆さまと一緒にサポートしていきたいと考えます」と草野氏は語る。

"地域発"の脱炭素化共生圏の実現に向け、大きな一歩を踏み出した小田原市における先進的な地域マイクログリッドの取り組み。そこで、京セラをはじめとする企業が果たした役割は大きく、それぞれの技術力を含めて計画推進のエンジンとなることが期待される。持続可能な未来都市づくりを目指す自治体と企業が連携した新しい取り組みに、多方面から注目が集まっている。

持続可能な地域社会の実現に向けて

小田原市長 守屋 輝彦氏
小田原市長
守屋 輝彦氏

2030年のビジョンとして、「世界が憧れるまち“小田原”」を掲げた小田原市は、国が選定する「SDGs未来都市」であるとともに、自治体としていち早く2050年のカーボンニュートラル社会の実現を表明した、ゼロカーボンシティでもあります。「豊かな環境の継承」を土台に、「生活の質の向上」と「地域経済の好循環」の両輪を持続的に回していくことを基本とし、「公民連携とデジタル技術の活用」をその推進エンジンとしたアプローチで、小田原市は持続可能な地域社会を目指しています。

エネルギーはこうした活動の基盤になるもの。今回の再エネを活用した地域マイクログリッドは豊かで安全、そして持続可能な地域社会づくりに向けた大きな一歩といえるでしょう。最先端の技術やソリューションを持つ企業との連携によって実現できた点も、本市の取り組みの象徴として大きな意義があります。

今後も、地域資源たる再生可能エネルギーを地域内で効果的に活用していくため、蓄電池やEVなどの制御を組み合わせた仕組みづくりを推進してまいりたいと考えています。

この記事は、2022年2月15日より「日経XTECH Special」に掲載されている記事広告を、日経BPの許可を得て再構成したものです。
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