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宇宙に広がる京セラの先端テクノロジー【対談】

【対談】宇宙に広がる、京セラの先端テクノロジー【対談】宇宙に広がる、京セラの先端テクノロジー

JAXA(宇宙航空研究開発機構)小惑星探査機「はやぶさ2」の帰還、民間有人宇宙船「クルードラゴン」の打ち上げ成功など、2020年は宇宙ビジネスの発展を示すニュースが続々と飛び込んできた。宇宙開発をめぐる国際競争が激化の一途をたどるなか、日本でも20年6月に「宇宙基本計画」が閣議決定されるなど、宇宙開発は経済発展の推進力にもなると期待されている。これまで官主導で進められてきた宇宙ビジネスが“官民共創”の時代を迎えるなか、独自の先端技術で宇宙ビジネスに取り組んでいるのが大手電子部品・機器メーカーの京セラだ。宇宙ビジネスの現状と可能性、さらに京セラの取り組みについて、宇宙ビジネスカンファレンスを主軸に新たな宇宙産業の発展に向けて活動する団体SPACETIDE(スペースタイド)の石田真康氏と京セラの稲垣正祥氏が意見を交わした。

市場の成長・拡大が続く宇宙ビジネス

一般社団法人SPACETIDE
代表理事 兼 CEO
石田 真康

近年、宇宙開発をめぐる国際競争が激化し、宇宙ビジネスがめざましい勢いで発展し続けています。このような現状および今後をどのようにみていますか。

石田氏 世界の宇宙ビジネスは成長・拡大の一途をたどっています。現在の市場規模はおよそ40兆円ですが、20年後の40年には現在の3~4倍に拡大するとも言われています。宇宙開発というと、これまでは世界各国の公的機関が主導するイメージがありました。しかし市場が成長・拡大するにつれ、大手からスタートアップまで多くの民間企業が宇宙ビジネスへ参入し始めています。

 それに伴い、宇宙ビジネスの多様化が進みつつあります。例えばNASAや各国宇宙機関が参加するアルテミス計画のような遠い宇宙への有人飛行を目指すプロジェクトでは、民間企業の積極的な参加とそれによる市場の活性化が見込まれています。一方で、気象衛星や通信衛星、測位衛星データを使ったサービスなど私たちの生活に密接にかかわる領域にまで宇宙ビジネスは及んでおり、今後ますます地上経済への波及が期待されています。

稲垣 私たちは宇宙ビジネスに関心がありましたので、18年にSPACETIDEの石田さんを訪ねました。それまでは「まだ少し先かな」と思っていたのですが、多くのスタートアップ企業が出てくるなど大いに盛り上がっていることに驚きました。1960年代、当時無名だった京セラは創業者の稲盛和夫が顧客開拓で訪れたシリコンバレーで、勃興期の半導体産業を目の当たりにし、ICを保護するセラミック部品の製造を開始しました。厳しい要求に応えながら技術力を高めて信頼と実績を積み、飛躍のチャンスをつかんだという歴史があります。

 現在、宇宙ビジネスに関わる人たちを見ていて、その頃に似ているような気がします。宇宙はまさにフロンティアです。私たちもそこに果敢に挑戦することで、新たな価値を創造できると考えています。

 一般社団法人SPACETIDEは、民間の宇宙ビジネス振興を目的とするカンファレンス「SPACETIDE」を主催する団体として16年に設立された。「日本および世界の新たな宇宙産業の発展」をビジョンに掲げ、宇宙ビジネスレポート「COMPASS」発行などの産業横断的な取り組みを通じて、新たな宇宙ビジネスを創出するための活動を行っている。

コストと信頼性の課題克服が急務

京セラ株式会社
理事 研究開発本部
稲垣 正祥

発展が続く宇宙ビジネスですが、一方でどのような課題があるのでしょうか。

石田氏 最大の課題は、打ち上げにあります。宇宙ビジネスはそもそも宇宙に出ていかなければ始まらないわけですが、そこへ行くための宇宙ロケットなどの打ち上げコストが非常に高く、回数が限られていることは大きな課題です。もうひとつ、とくに昨今話題の宇宙旅行などを考えると輸送システムには信頼性の課題もあります。一般的にロケット打ち上げ成功率は98%くらいですが、航空機のフライト成功率は99.999%以上であり、その差は歴然です。モノにせよ、人にせよ、“宇宙へ行く”という輸送システムのインフラが整うかどうかが大きな課題です。

 また、衛星が送信してくるデータを使うといった宇宙を利用したサービスなどをビジネスとして成り立たせることも大事です。価値を生み出してお客さまを増やすことで、サービスを育てていくことも課題です。

稲垣 いま注目されている宇宙ビジネスのプレイヤーは米国が中心で、大富豪の資金力に支えられているように見えます。日本でも宇宙ベンチャーの人たちは凄い熱意で取り組んでいて、アイデアも斬新なものがたくさんあります。しかし彼らはスタートアップ企業なので、資金面や人材面で苦労をしています。そこにリソースが比較的潤沢で、ものづくりのノウハウも豊富な大手企業が協力することにより、日本の産業界全体で宇宙ビジネスを育てていくことが重要ではないかと考えています。

 新しい産業を興すのは一人ではできません。人と人とのつながり、信頼や共感が大事です。実は京セラは、そういうところが結構得意なんですよ。

  京セラの創業者である稲盛和夫氏は、自分のことだけを考えて判断するのではなく、周囲のことも考え、思いやりのある「利他の心」を持ちビジネスを進めることで、周囲から共感と協力が得られ、すばらしい成功につながるという。これは京セラの経営に大きな影響を与えており、稲垣によると宇宙ビジネスへの参入やスタートアップとの協業といった同社の取り組みの根幹にも「利他の心」があるのだという。

宇宙に貢献する京セラの技術

京セラはこれまで、どのような宇宙ビジネスを展開してきたのでしょうか。

稲垣 90年代に参入した衛星通信事業のイリジウム計画があります。また創業以来培ってきたセラミックスの応用では、99年に観測を開始した国立天文台ハワイ観測所「すばる望遠鏡」の鏡筒部分に膨張係数が非常に低く、軽量・高剛性の当社セラミック部品が採用されました。さらに日本の小惑星探査機「はやぶさ」、および後継機の「はやぶさ2」の非常用電源として搭載されたリチウムイオン電池の端子部にも、京セラのセラミック部品が使われています。

 現在はアクセルスペースとオーシャンアイズのベンチャー企業2社との協業で、「人工衛星による高精度漁場予測サービス」に関する共同研究をスタートしました。これは次世代地球観測プラットフォームを使って、衛星画像データを取得・解析するアクセルスペースの技術と、水温や潮流などの海況データと衛星が観測した海表面画像の照合により海洋現象を解析するオーシャンアイズの技術に、京セラが車載カメラ事業で培ってきた画像センシング・解析技術を掛け合わせ、地上と衛星の同時データを取得して的確な漁場予測に役立てようというものです。

 京セラは材料や電子デバイスのほか、エネルギー、通信、光学など幅広い領域の技術や製品を数多く保有しており、多岐にわたって宇宙ビジネスに貢献することができると思っています。得意な無線通信技術を生かして、地上と衛星の間の通信など、今後はさまざまな可能性にチャレンジしていきたいですね。

 すばる望遠鏡の鏡筒部分に使われる部品には「低熱膨張」「軽量」「高剛性」「高強度」「高い寸法精度」という厳しい条件が求められていた。また、はやぶさ/はやぶさ2に搭載されたリチウムイオン電池の端子部は「強度」「耐食性」「耐熱性」「絶縁性」に優れている必要があった。衝撃や過酷な環境にも耐え得る材料・部品として、これらをクリアしたのが京セラのファインセラミックスなのである。京セラは既存事業で培ってきた高い技術力を生かしながらも、これまでの延長とするのではなく、他社と協業することで新たな価値を創出し、事業開発を進めていこうとしている。

技術開発への飽くなき挑戦は続く

日本が世界の宇宙ビジネス市場で勝ち抜き、さらに飛躍していくには、どのようなチャレンジが必要でしょうか。また、京セラにはどのような期待を寄せていますか。

石田氏 宇宙ビジネスを推進するにあたっては、現在の技術的な課題をひとつずつ解決していかなければなりません。しかしながら現在の宇宙ビジネスは、相対的なボリュームからみて大量生産民生品の市場規模に到底かないません。開発に必要な予算もエンジニアも限られていますし、昨今は衛星の小型化や低コスト化なども進んでいます。したがって宇宙専用の技術開発を行うことも重要ですが、同時に民生品や民生技術の利活用が課題解決の大きなテーマとなっています。

 日系企業には民生品の製品開発で培われてきた信頼される技術の提供や、そうした技術と宇宙専用技術をつなげて一緒に磨いていくことを期待しています。京セラが宇宙ビジネスに提供してきた部品・材料・デバイス、あるいは昨今取り組まれているデータ解析などは、どれも“ミッシングピース”を補う技術であり、これからも宇宙ビジネスにおける技術進化やコスト低減などにつなげていく取り組みを期待しています。

京セラでは今後、どのような形で宇宙ビジネスに関わっていこうと考えていますか。

稲垣 宇宙はいま、まさにフロンティアの扉が開かれようとしています。これからどんなことが起こるのか、想像するだけでワクワクします。一方で、可能性があるということは、裏を返せばやってみないとわからないことがたくさんあるとも言えます。私が京セラに入社した当時、セラミックスでエンジンを作るプロジェクトに配属されました。とてつもなく高い目標で、結局、事業にはなりませんでしたが、材料や設計・評価技術、さらに人材育成には非常に大きな効果があったと思います。仮に失敗したとしても、そこから得られるものはリスクを補って余りあるということです。

 また宇宙という極限の世界で使用に耐え得る技術の開発は、宇宙以外の分野でも十分に活用でき、新たな展開につながります。そういう意味でも宇宙に関する開発に積極的に取り組み、スタートアップと組むことで新たな事業創出を図りたいと考えています。

 京セラは常にチャレンジし続ける姿勢を大事にし、宇宙ビジネスを通じて、人類社会の発展に貢献していきたいと考えています。

 現在、京セラには宇宙関連のビジネスをとりまとめている部門はないが、稲垣は「宇宙ビジネスが今後拡大していけば、専門的に対応していく可能性もある」という。さらに稲垣は、宇宙ビジネスに携わってみたいという夢を持つ若い人たちを積極的に仲間に加えたいとも話す。京セラの宇宙ビジネスへの本格的な挑戦は、これから始まるのだ。