Facebookアーカイブ

稲盛ライブラリーこの逸品「卒業論文 入来粘土の基礎的研究」

200302-2

今日は、1階に展示されている、稲盛の卒業論文「入来粘土の基礎的研究」にまつわるエピソードをご紹介します。

稲盛は鹿児島大学時代、石油化学などの有機化学の勉学に打ち込みましたが、卒業後は不況期の就職難で、どこを受験しても不採用の通知しか届きませんでした。心配した担当教授の紹介で、ようやく採用が決まったのは、京都にある碍子メーカーである松風工業でした。ただし、磁器を専攻した無機化学出身でなければならないという条件がついていました。

「このチャンスを逃したら、永久に就職できないかもしれない。そんな危機感に迫られたとき、無機化学の島田欣二教授のところで、卒論を引き受けてくださることになり、卒業の半年前より、急きょ私は無機化学の卒論研究を始めたのである」(書籍『人生と経営』致知出版社)と稲盛は当時を振り返っています。

ちょうど鹿児島県の入来町というところで良質の粘土鉱床が発見された時期だったこともあり、入来粘土の物理的諸性質をテーマに卒業論文に取り組むことになりました。残された半年間、ほとんど不眠不休といっていいほど全力で研究をしました。その結果まとめた卒業論文は、島田教授から高く評価されただけでなく、戦前、軽金属会社の創設にもかかわった著名な技術者である内野正夫教授の目にもとまり、「すばらしい論文でした。あなたは将来、立派なエンジニアになる」と告げられたのです。

この論文によって晴れて松風工業へ入社した稲盛でしたが、元々専攻ではなかった無機化学は決して好きな分野ではありませんでした。しかし、他に選択肢がなかった稲盛はなんとしてもセラミックスを好きになろうと努めました。一生懸命に勉強をすると興味が湧いてきて、さらに研究に熱が入ります。頻繁に大学の図書館へ通って文献をあさっては、実験や仕事に応用し、そしてまた図書館に行く。
このように、好きになる努力を一生懸命重ねていく中で、やがて日本では初めて、世界でも2番目に新材料フォルステライトの合成に成功しましたが、そのスタートはこの卒業論文にあったのです。

200302-1

写真:卒業論文「入来粘土の基礎的研究/ 鹿児島大学時代の稲盛(前列右 )