Facebookアーカイブ
経営者に求められる心構え

経営者はどのような心構えで経営をするべきかについて、稲盛はこれまで社内外で話をしてきました。
本日は日本航空再建後の2013年5月、盛和塾ブラジルの塾生(経営者)300名に向けた講話の中で、ヘリコプターを例に、「謙虚にして驕らず、さらに努力を」続ける重要性を述べた発言をご紹介いたします。
「人間というのは、うまくいけばいくほど、どうしても傲慢になって失敗していくものです。同時に、慢心し、『このぐらいはいいだろう』と気持ちが緩み、安楽さを求めるようになっていきます。それが落とし穴になるのです。
戦後の企業経営史を見ますと、まさに寂寞(せきばく)の思いがいたします。歴史もあり、社会から高い評価を受け、すばらしい経営を続けていたはずの企業が、乱高下の激しい波乱に満ちた歴史をたどるようになったり、むしばまれるように衰退を遂げていったり、ついには破綻してしまうなど、まさに死屍累々(ししるいるい)の観を呈しています。
そういう無残な様を見るにつけ、『やはり、経営者の気持ちが慢心し、堕落していくから、そのような悲惨な事態を招いてしまったのだ』と思い、今までずっと『謙虚にして驕らず、さらに努力を』と、口うるさいほどに京セラで言い続けてきたのです。
また、本年3月まで、およそ3年にわたってその再建に携わり、無事に再生を果たすことができた日本航空の社員に対しても、私は同じように、この『謙虚にして驕らず、さらに努力を』を戒めの言葉として贈りました。
つまり、日本航空は経営破綻してから3年間、社員の皆さんの必死の努力によって、世界最高の収益性を誇る航空会社に生まれ変わった。しかし、そのことに慢心することなく、今後も、その3年間に払ったのと同じ努力を続けていかなければ、決してこの好業績を維持することはできない、とお話ししたのです。
そのときに、常に謙虚さを忘れず、果てしない努力を続けていくということで、日本航空の社員たちに紹介したのが、『空中に浮かぶ人力自転車』です。空想ではありますが、ここにこげばプロペラが回り、空中に浮かび上がる、ヘリコプターのような乗り物があるとします。今まさに、空中に浮かんでいます。重力がかかっていますから、空中に浮かんでいるだけで、相当にこがなければなりません。ましてや、重力に逆らってさらに上昇しようとすれば、今までにもまして勢いよくこがなければならないはずです。
このことは、経営でも同様です。会社を高収益のまま維持していこうと思えば、その高度まで上がってきたときと同じだけの努力を今後も続けていかなければなりません。ペダルを踏む力を少しでも弱めたら、重力に負けて、次第に降下していき、やがて地面に墜落してしまいます。
つまり、立派な企業であり続けるためには、創業期のころに払ったのと同じくらいの努力を今後も続けていかなければならないのです」
(機関誌「盛和塾」121号 講話 第117回「なぜ経営に哲学が必要か」より)