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稲盛和夫の好きな本 内村鑑三 著『代表的日本人』

210812

稲盛の好みについて多面的にお伝えするコーナー「稲盛和夫の好きな〇〇」。今回は、稲盛の好きな本、内村鑑三 著『代表的日本人」をご紹介します。

もともとこの書籍は、明治大正期の思想家である内村鑑三が、日本と海外の交流が盛んになってきた時代に、欧米諸国に対し「日本人の中にも、これほどのすばらしい人間がいる」ということを伝えようと英語で出版されたものであり、西郷隆盛、上杉鷹山、二宮尊徳、中江藤樹、日蓮上人の5人が代表的日本人として紹介されています。

本書を読んだ稲盛は、この5人の生き方の中に人生の普遍的な価値が示されていることに気が付きました。日本を代表する5人の偉人の生き方を学び、彼らの生き方と自分の生き方を常に照らし合わしていけば、きっと意義深い人生が送れるはずだ、と考えたのです(稲盛の監訳者序文の内容より)。そして、稲盛は数多くの講演で自らの著書で、この「代表的日本人」という作品を紹介してきました。その中でも二宮尊徳のエピソードには特に感銘を受け、次のように記しています。

「二宮尊徳は生まれも育ちも貧しく、学問もない一介の農民でありながら、鋤(すき)一本、鍬(くわ)一本を手に、朝は暗いうちから夜は天に星をいただくまで田畑に出て、ひたすら誠実、懸命に農作業に努め、働きつづけました。そして、ただそれだけのことによって、疲弊した農村を、次々と豊かな村に変えていくという偉業を成し遂げました。

その業績によってやがて徳川幕府に登用され、並み居る諸侯に交じって殿中へ招かれるまでになりますが、そのときの立ち居振る舞いは一片の作法も習ったわけではないにもかかわらず、真の貴人のごとく威厳に満ちて、神色さえ漂っていたといいます。つまり汗にまみれ、泥にまみれて働きつづけた『田畑での精進』が、自身も意識しないうちに、おのずと彼の内面を深く耕し、人格を陶冶し、心を研磨して、魂を高い次元へと練り上げていったのです。

このように、一つのことに打ち込んできた人、一生懸命に働きつづけてきた人というのは、その日々の精進を通じて、おのずと魂が磨かれていき、厚みある人格を形成していくものです」(『生き方』サンマーク出版より)

一生涯、朝から晩まで一生懸命に農民として働き続けた二宮尊徳の勤労の姿こそが、心、魂を磨き、すばらしい人間性をつくっていったのだと、稲盛は共感しました。この読書体験は、自分の心を高め、魂を磨くことが、経営にも人生にも通ずるということを改めて再認識するきっかけとなったのでした。

写真:内村鑑三 著『対訳・代表的日本人』 2002年 講談社インターナショナル