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カメラマンが見た稲盛和夫 有限会社フォトスペース・パッション 写真家 村田和聡

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2009年9月3日、『日経ビジネス』の記者と私は京セラ本社の広報室を訪ねました。
それは「賢人の警鐘『日本的経営』再考」の第一回目に稲盛和夫名誉会長に登場していただくためであり、今回の写真はその時のインタビュー中に撮影したものです。

インタビュー取材撮影では、私が稲盛さんと直接お話をすることは、ほとんどありません。
記者と稲盛さんとの会話の雰囲気をとらえ、テーマに合った表情、それを表現する為のアングルやライティングを考えながら、稲盛さんの為人(ひととなり)、記事の内容にマッチした表情を切り取っていきます。

1997年、稲盛さんが出家されてほどなく撮影させていただいた時のことが、私の記憶に強く残っています。当時大きなご病気もありお疲れのご様子だったうえに、取材の部屋はとても殺風景でした。編集者の中には、バックに何もない方が、写真が撮りやすいだろうと思っている人もいます。しかし、カメラマンは、その場の雰囲気を出しつつ相手を浮かびあがらせることを、常に考えているものなのです。

今回のこの撮影では、インタビュー中の雰囲気を損ねないよう、ストロボをやめて定常光のFLライトを使用(*注1)。また、部屋の背景が単調だったので、今回の壮大なテーマに合わせて紫色で絞りの入った背景布を用意して撮影に臨みました。

話が盛り上がり、記者の質問に力強く、そして慈悲深い表情でお話しされる稲盛さんの姿がファインダーの中にありました。
ベンチャーから身を起こした起業家の思い。どうしても実現したいという強い意志さえあれば事を成せる。一人一人が積極的に意思表示をして行動すれば、状況は変えられる。ニンジンを目の前にぶら下げる成果主義ではなく、本当にその労に報いてあげたいという気持ち、その思いが従業員に伝わるから、またがんばってくれる。それこそが経営の原点であること。損得勘定で物事を判断するのではなく、何がよいのか悪いのかという善悪を判断基準にして経営にあたってきたこと、などを熱っぽくお話しされ、それは、超人的というか、神的とも思える、そんな雰囲気がありました。

私は、記事と写真は相乗効果を発揮しなければならないと思っています。
この写真から稲盛さんの起業家としての強い信念や経営者としての思いを感じていただけたなら写真家冥利に尽きます。
一瞬を切り取った写真は一期一会。このような機会をいただいたすべての方々に感謝しています。

注1:常に照明がついているFLライト(写真用蛍光灯)を使用すると、瞬間に強く光るストロボの「まぶしい」「気が散る」といった取材の妨げになることを避け、反射で目をつぶってしまうことも軽減できる。しかし、大きさの割に光量が弱いこのライトで撮影するには、まとまった数の電球を必要とするため、スペースの限られた取材などの撮影で使用されることはほとんどなかった。

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