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『経営――稲盛和夫、原点を語る』③

『経営――稲盛和夫、原点を語る』(ダイヤモンド社)から、稲盛の言葉をご紹介いたします。
私の場合、難しい研究開発のことを考えていると、朝起きてから夜寝るまで、ご飯を食べるときもそのことだけを考えてしまうことがあります。そのうちプロセスから結果までが頭の中で見えてしまい、まだ何もできていないのに、「できる」と周りに言い出します。今までは漠然と夢の中で考えていたものが、いつの間にか現実と分離できなくなり、一体になってしまうことがよくあります。
夢と現実の世界の間、「狂」と常識の世界の間を行き来するのは、この地球と宇宙との間を移動するようなものではないかと思っています。人工衛星を飛ばして宇宙に上がるのは、猛烈な推進力とエネルギーが必要ですが、無重力の空間に入りますと、エネルギーをあまり必要としなくなるほど簡単に進めるようになります。最初はそんなことなどまったく不可能な感じがするのですが、実はそうではないのです。
つまり、研究開発を行う人は、取り組んでいるテーマを「可能性があればやりたいなあ」というような夢のままにしていてはいけないのです。現実と夢の世界がだんだん縮まってきて、実際にテーマの開発に成功したかのような錯覚をするぐらいにならなければなりません。この二つの世界を自由に行き来できるタイプの人でなければ、優れた研究開発はできないと思います。
(『経営――稲盛和夫、原点を語る』「研究開発を成功に導く考え方と手法」マネージメントセンターでの講演、1977年2月17日、p.79-80)