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寄稿⑮「無頼ということ」(『悠々』創刊号1985.11.15)
京都中央信用金庫によって設立された財団法人中信育英会(現・公益財団法人中信育英会)の理事を務めていた稲盛は、同財団の機関誌『悠々』の創刊にあたり、「無頼ということ」と題して奨学生へ向けたメッセージを寄稿しています。
同財団は京都府内に所在する大学に在学する学生のうち、学力優秀、身体強健、品行方正でありながら経済的事由により就学が困難な者に対し、奨学援護を行い、もって国家社会の人材育成に寄与することを目的として設立されたものです。稲盛はそうした志ある若者たちに向けて、何にも頼ることなく、目的に向かってまっしぐらに進むという意味で、「無頼性」を持つことの大切さについて、次のように説いています。
「ベンチャービジネスのような何か新しい企てを成功させようとするときは、目的に向かってまっしぐらに進むということが、とりわけ大事なことだと思う。妥協をしないで自分の正しいと思う方向に進んで行くには無頼性を持っていなければいけない。
無頼というと、無頼漢ということばのとおり、親や上司あるいは政治体制にただ横車を押すだけと、とらえられがちであるが、本当の意味は、何にも頼らず、自分だけに頼って物事をなし遂げて行くということである。何にも頼らないから妥協することがない。自分しか頼るものがないから創意工夫をする。そこに真の自由と創造性が生まれ、物事が成就して行くのである。
西洋人には創造性があって、日本人には創造性がないとよく言われる。西洋人は狩猟民族で、自分の知恵を働かして獲物を探す。人に頼らず必死でやるという生来の無頼性がある。一方、日本人は農耕民族で集団帰属意識が強く、体制順応型の生き方をしてしまいがちなので、創造性の育つ余地がないからかもしれない。しかし、これからの日本人は、無頼性を身につけて新しいことに果敢に挑戦していかねばならないと思う」
