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寄稿⑳「このままでは資本主義もダメになる」(『Voice』1990年5月)

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1989年からソ連や東欧で始まった共産主義体制の崩壊に際し、稲盛はこれを単純な資本主義の勝利と捉えるのではなく、資本主義に内在する自らの課題を浮き彫りにするものであると考え、雑誌『Voice5月号に「このままでは資本主義もダメになる」と題して寄稿しました。この中で、資本主義を破綻させかねない問題として、真の自由競争を阻害する日本の中央集権的官僚組織や企業の巨大化について警鐘を鳴らすとともに、現代につながる企業の情報公開のあり方について、以下のように提言しました。

「企業行動のあり方に関わる一つの例として、いま問題になっている企業のセグメント情報の開示について考えてみよう。大企業にあっては事業部門が多種多様にわたっており、その財務情報を企業全体として合計した形で示しても内容がわからないため、事業部門ごとにできるだけ細分化した形で公開しようというのがこのセグメント情報の開示で、これは欧米においては株主、投資家の利益の保護に必要であるとの理解がすでに常識として定着している。(中略)私はこのセグメント情報の開示はたんに現在の財務上の観点からだけの問題ではなく、企業の義務として倫理規定に属するものだと考えるのである。

なぜなら、企業、とくに大企業の行動は社会に与える影響が大きく、責任も重いので、衆人環視の下で運営されるべきものだからである。大企業の事業は多角化しており、その内部体制はきわめて複雑多岐に分岐しているから、もし大企業がその行動を自ら明らかにしていかなければ、どのように運営されているのかは、極端なことをいえば、だれにもわからない。

企業の強大な力が狭い見方から一部の人たちの関心事や利害のために用いられていないか、企業利益の名の下に、時代の流れに逆行したり民衆の利益に反するような行動がとられていないか、社会的チェックがかかるようにしていく必要がある。社会の公益のために、企業はフェアに運営されなければならないし、また、フェアに運営されていることがだれの目から見ても明らかになっているように、自ら襟を正して行動していかなければならない。企業の中に隠された部分があってはならず、社会の公平と公正の観点からこのチェック体制が保証されていることが必要なのである。そして、このような体制こそが本当の意味で社会一般の株主、投資家の利益につながることだと私は信じている。

情報開示に反対する議論には、残念ながら「社会のために」という観点がみられない。大企業ならば、率先垂範して、こうした社会的必要に応えるべきではなかろうか」

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