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寄稿㊳「『利他』を貫く経営」(『Voice』2008年1月号)

20260924

食品の賞味期限や原材料を偽るという偽装行為の発覚が相次ぎ、企業の不祥事に世間の関心が寄せられていた2008年1月、稲盛は雑誌『Voice』に「『利他』を貫く経営」と題して寄稿し、不祥事を起こさない企業家の在り方について、次のように述べました。

「人間の心の中には、正しい生き方をしようとする良い心と、自分勝手で邪な悪い心がある。その二つの心が同居し、葛藤している。それは、自分だけ良ければいいという利己心と、他に良かれと思う利他心と言い換えてもいい。

経営者がこの利己心を抑える努力を怠ると、自分の都合を優先して考えるようになり、経営の舵取りの方向が変わり、いつしか企業は不祥事や間違いを犯すことになってしまう。このことを自覚し、もし邪な心が台頭してきたなら、反省して、それを抑えようとするなら、けっして不祥事は起こりえないであろう。

私が創業した京セラも、設立当初は『稲盛和夫の技術』を世に問うことを目的とする、いわば利己的な目的の会社であった。だが創立三年目に、社員から賃上げを保証せよと団体交渉を受けたことをきっかけに考えを改め、『経営理念』を定めた。それは『全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献する』というもので、事業に携わる社員全員が物質的にも精神的にも幸福になることをめざし、さらには人類社会の進歩、発展に貢献することを企業の目標に掲げるというものであった。以降、この『経営理念』に従って、企業経営にあたってきた。

このような利他の心に基づく経営は、結果として会社を、想像を超えてはるかに大きく発展させることになった。従業員を思いやる経営が、その献身的な協力を得ることにつながったからである。(中略)『社長はわれわれ従業員のために身を粉にして働いているのだ』と気づいて初めて、社員は本気で働こうと思うようになる」