はじめに、股関節について

股関節のしくみってどうなってるの?

図:股関節のしくみ

股関節は、大腿骨(だいたいこつ)の上端にある骨頭(こっとう)と呼ばれる球状の部分が、骨盤の寛骨臼(かんこつきゅう)と呼ばれるソケットにはまり込むような形になっています。正常な股関節では、寛骨臼が骨頭の約4/5を包み込んでおり、このことが関節を安定させています。
股関節が安定し、更に周辺の筋肉と協調することで、私たちは、脚を前後左右に自在に動かすことができます。

正常な関節部分の表面は、軟骨(なんこつ)という滑らかな層で覆われています。
軟骨には神経や血管がなく、80%前後が水分で、関節の衝撃を吸収し、滑らかに動かす働きがあります。
さらに関節部分は、関節包(かんせつほう)という袋状のもので覆われ、その内側にある滑膜(かつまく)という膜から関節液が分泌され、潤滑と栄養補給を行っています。
このように、軟骨や関節液が機能することで、私たちは、痛みを感じることなく関節を動かすことができます。

しかし・・・

図:股関節のしくみ

軟骨がすり減ってくると硬い骨どうしが直接ぶつかり合うため、強い痛みが生じ、関節自体の動きが悪くなったり、歩きにくくなってきます。

股関節の病気について

股関節に痛みが生じる病気ってどんなもの?

図:イメージ

変形性股関節症

股関節の形の異常や老化が原因で、股関節が徐々に変形していく病気です。関節の軟骨や骨が、すり減ったり変形したりして起こる病気で、痛みや動きの制限、あるいは跛行(はこう)を伴います。発症すると加齢とともに次第に悪化し、進行してしまうと元の状態に戻すことはできません。

大腿骨頭壊死症(だいたいこっとうえししょう)

骨頭への血流が妨げられて起こる病気です。
進行すると、骨頭に陥没ができて関節面も変形し、寛骨臼が正常に保たれず破壊されていきます。最初のうちは、歩行時や階段の上り下りの際に股関節に痛みを感じる程度ですが、進行するとその痛みが持続するようになります。更に痛みのために筋肉が萎縮(いしゅく)し、股関節自体の動きが悪くなって、正常に歩けなくなってしまいます。

関節リウマチ

全身の関節に起こる炎症性の関節炎で、関節に腫れや疼痛、また多くの場合、破壊を伴います。
原因はよくわかっていませんが、自己免疫疾患であると考えられています。自己の免疫システムが、関節の軟骨、骨、靭帯を侵すことによって、関節が変形します。発症した関節は痛みとこわばり感を伴います。

この様な病気で、足の付け根が痛くなったり、関節の動く範囲が狭くなり歩く能力が低下します。また高齢者の方には健康寿命に強い影響が出てきます。
こんな患者さんの痛みを和らげるために、人工股関節が活用されています。

人工股関節のしくみについて

人工股関節のしくみってどんなの?

図:股関節のしくみ

人工股関節のはじまりは、1962年にイギリスのチャンレー先生が『痛みを低減させ、動きを回復する』をコンセプトに摺動面(しゅうどうめん:関節面のこと)にポリエチレンを搭載した人工股関節を考案し、その耐用年数を伸ばすことに成功しました。
これが人工股関節置換術が一般的な治療法となるきっかけとなりました。
50年近く経った現在でも、ポリエチレンはその優れた特性により人工股関節の摺動面材料として広く使用されています。

障害のおこった関節を金属やセラミック、ポリエチレンなどでできた人工の関節で入れ替えることで、痛みがなくなり、歩行能力が改善されます。このような手術を人工関節置換術といい、股関節、膝関節を中心に日本国内で一年間に12万例以上の手術が実施されています。

じゃあ手術すれば、もう安心だね!

人工股関節の問題点

人工股関節が抱える問題点とは?

図:股関節のしくみ

人工股関節が抱える問題点とは?

しかし、人工股関節にしたからといって問題点が全て解消されるわけではありません。人工股関節も、長期間使用すると関節部分が摩耗し、ゆるみが生じる場合があります。

ゆるみが生じると、患者さんによっては10〜20年で入れ換えのための再置換手術が必要となりますが、高齢になるにつれ再手術も難しくなってきます。

図:股関節のしくみ

骨吸収とゆるみについて

人工股関節はライナーと骨頭ボール部が接触しながら動くため、摩擦で材料の摩耗粉が発生します。摩耗粉を異物と認識した生体(細胞)は反応し、人工股関節の周囲の骨を溶かしてしまう『骨吸収』が起こります。そうすると、しっかり固定していたはずの人工股関節周辺に隙間ができてしまいます。
これが『ゆるみ』の原因です。

もちろん摩耗粉を低減させる対策として、人工股関節の材料の検証が行われてきました。例えば摩耗の生じにくい金属素材どうしを用いること。しかし、結果として他の軟部組織や骨に障害が起こるという報道もあり、材料を変えても万事解決ということにはなりませんでした。

このようなことから

患者さんが長く快適な生活を送るためには、人工股関節のゆるみを防止し、長寿命化を実現することが大きな課題となっていました。

人工股関節の新たな幕開け

じゃあ、もっと長持ちする、
人工股関節は、できないものでしょうか?

人工股関節の課題として、

図:摩耗粉を減らす、生体の反応を抑える

これらを同時に実現させることが必要でした・・・。