THE NEW VALUE FRONTIER

トップメッセージ

社会課題の解決に貢献する事業を展開するとともに、その変化に合わせてアメーバ経営を進化させ、ありたい姿を実現します。

 京セラグループは、創業以来、「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」という経営理念にもとづき、事業の成長と社会の発展に向けて尽力しています。その根幹にあるのは、60年あまりにわたって基軸としてきた私たちの経営哲学である「京セラフィロソフィ」です。
 現在、私たちを取り巻く環境は大きく変わってきており、デジタル化やAI の進化に伴う社会や産業構造の変化への対応に加え、環境問題などの社会課題の解決に資する事業の創出が求められています。そのような中、次に目指す私たちの新たな経営目標を設定し、その達成に必要な施策を明確にするため、2023年5月に中期経営計画を公表しました。目標達成に向けて成長スピードを加速させるためには、事業だけではなく、私たち独自の経営管理システムである「アメーバ経営」も、事業や規模の変化に合わせて進化させる必要があると考えています。また、資本戦略やサステナブル経営なども進めていくことで経営基盤を強化し、社会課題の解決に貢献する事業の拡充を図っていきます。

社長就任から現在までを振り返って:
セグメント内での交流活性化や若い世代の活躍推進を図り、新しいものを一緒に生み出す文化を醸成

 2017年に社長に就任して以来、私が一番の課題と感じていたことは、組織の縦割りがあまりにも強くなっていたことです。京セラの強みの一つに多角的な事業展開があります。各部門それぞれが、新たな価値創出を可能にする多様な技術やノウハウを持っているにも関わらず、会社の規模が大きくなるに従って、組織が硬直化して動きにくくなってしまい、コラボレーションをして新しいものを生み出す文化が失われつつあると感じていました。そこで、最初に研究開発部門を改革するために横連携が柔軟にできる場として「京セラみなとみらいリサーチセンター」を設立し、内部コミュニケーションの活性化を図りました。次に、事業本部を3セグメントに大きく括って改編したことで、セグメント内で部門を超えた交流も広がり、一緒になって新しいものを創ろうというベースができたと考えています。
 また、工場の自動化に取り組んでおり、滋賀野洲工場の蓄電池製造ラインでは完全自動化を進めました。当初は課題が見受けられましたが、改善を図って機能も向上してきており、他の建設中の工場棟においても、これを参考にしながら、基本的には自動化された製造ラインを導入する考えです。滋賀野洲工場での試みは、若い人たちが中心となって設計や開発に携わっていましたが、いきいきと仕事に取り組んでおり、目的意識をしっかりと持つことができれば、やりがいを感じて仕事をしてくれるのだと実感しました。今後もさらに若手の活躍を後押しできるような仕組みづくりを進めていきたいと考えています。

京セラグループを取り巻く外部環境、社会の課題:
デジタル化やAI活用による働きやすい職場環境の整備や、温室効果ガス排出量の削減をはじめとする環境・社会課題の解決に取り組む

 私たちを取り巻く環境が大きく変化していく中で、特に課題として認識していることの一つが、少子高齢化に伴う人材不足です。その対策として、工場や間接部門での生成AIの活用やデジタル化による生産性の向上が必要となっています。技術革新が急速に進んでいる生成AIについても今後、安全性などを含めてさまざまな検証を進め、社内に導入する考えです。さらに、働き方という観点では、製造現場での就業は男性が多いのが現状ですが、働きやすい職場環境を整えていくことで、女性比率を上げていきたいと考えています。
 環境関連では、温室効果ガス(以下、GHG)排出量の削減も非常に大きな課題です。再生可能エネルギーの導入拡大と、設備の省エネルギー化に取り組んでいかなければなりません。加えて、電気料金が高騰していることも踏まえると、すでに国内工場では太陽光発電システムを設置していますが、エネルギーの確保という点でも、再生可能エネルギーの利用をさらに増やしていかなければなりません。特に、焼き物であるセラミックスを取り扱う私たちの事業では、製造工程ではGHG排出量が比較的多いです。そのため、もっと短時間で製造する、あるいは同じ焼成炉で2倍の生産量を生み出すなど、生産効率を高める必要があります。再生可能エネルギーの導入、設備の省エネルギー化、生産性向上、これらの3つの柱でGHG排出量の削減に取り組んでいきます。
 また、当社グループの製品・サービスで世の中の社会課題を解決していく取り組みとしては、今年、日本とイタリアで発表したインクジェット捺染プリンター「FOREARTH」(フォレアス)が挙げられます。この製品は、捺染時の水の使用量を限りなくゼロまで削減し、生地印刷を可能にします。繊維・アパレル業界では染色工程での大量の洗浄水の使用、洗浄後の排水による河川や土壌汚染などが問題となっています。さらに、少量での生産ができず、在庫の大量廃棄が長年の課題でしたが、これらを解決する製品として、今後の成長に期待しています。再生可能エネルギーについても自社での使用だけではなく、蓄電池と太陽光発電を組み合わせたZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)賃貸集合住宅の普及促進など、社会全体における再エネ由来の電力利用の拡大に貢献していく考えです。さらに部品関連の事業においても社会課題解決への貢献を目指しており、レーザーの研究では、高効率・省エネルギーな照明機器の開発も進めています。
 このように今後は環境・社会課題を解決する製品を開発していかなければ社会に受け入れてもらえないと考えています。一方で、太陽電池事業は、利益が出なければ撤退するべきという考え方もありますが、現在に至るまで事業を継続してきたのは社会的に意義があるからであり、私たちは社会課題を解決するための事業は続けていかなければならないと考えています。それは、創業者である稲盛和夫の考え方が強く根付いてきた会社だからです。

中期経営計画の達成に向けて:
中期経営計画の外部公表により、事業成長へのコミットメントを社内外で共有。半導体関連、電子部品を中心に成長を目指す

 中期経営計画では、2026年3月期に売上高2.5兆円、税引前利益率14%、ROE7%以上という数値目標を設定しました。さらに2029年3月期には売上高3兆円、税引前利益率20%、ROE10%以上を目指しています。私が若かった頃は、京セラは急成長を遂げていましたが、2000年以降はその成長スピードが鈍化しました。私はその両方を経験してきましたが、急成長の時代と比べると2000年以降は会社としての活気が落ちていたと感じています。このような状況を目の当たりにし、会社は次なる成長を目指していかなければ活力が湧いてこないと考え、高い目標ですが、売上高3兆円を掲げました。中期経営計画には着実にこの目標の達成に向かっていこうという想いが込められています。また、中期経営計画を決めたからには、成長に対するコミットメントを社内だけではなく、社外のステークホルダーの皆様も含めて共有した方が、より緊張感を持って臨むことができると考えたため、外部公表を行いました。ステークホルダーの皆様からも戦略や方向性が分かりやすくなったと評価をいただいており、また、成長へのコミットメントを前向きに捉えている従業員も多いと感じています。
 今後の注力分野としては、部品関連、特にコアコンポーネントセグメントの半導体関連ビジネスが間違いなく伸びると予想しています。2023年は3ナノ半導体の量産が開始されるなど、今後さらなる市場の拡大が見込まれています。先行投資を積極的に進めていき、全体の設備投資の半分近くを半導体関連部品に充てる計画です。その他にも、長崎県諫早市に2026年度に稼働予定の新工場を建設する計画で、増産体制の構築や最先端製品の製造が可能な装置の導入など、さまざまな取り組みを加速させていきます。
 電子部品セグメントでは、2年前に米国の子会社KYOCERA AVX Components Corporation(以下、KYOCERA AVX社)を完全子会社化しました。日本とアジア地域に優位性を有する京セラの電子部品事業本部と、アメリカとヨーロッパに強みを有するKYOCERA AVX社が統合すれば、さらに成長性を高めることができると判断したことによります。現在、KYOCERA AVX社は欧米地域のすべての営業だけでなく、2023年度からはアジアの営業展開にも加わっています。この営業体制とともに、製造・研究体制でもKYOCERA AVX社と京セラの電子部品事業本部は交流を図り、完全に一体となるための体制として、積層セラミックコンデンサ(以下、MLCC)、コネクタ、R&Dなどのサブセグメントを立ち上げました。京セラの電子部品は、水晶部品やMEMS発振器など小型の部品が強く、これらはさらに事業化を進め、拡大していきます。また、KYOCERA AVX社はタンタルコンデンサが非常に強く、この分野をもっと徹底的に伸ばすことで、お互いの強みを持ち寄ってさらに拡充させ、次の柱としていきます。
 ソリューションセグメントでは、社会課題解決に資する事業開発を推進していく計画です。また、エネルギー事業では太陽電池に加えて、再エネ電力を販売するなど、社会の需要に柔軟に対応していきます。事業の選択と集中については、社会的意義のある事業として太陽電池は継続する一方で、今回コンシューマー向けスマートフォン事業の終息を決断しました。こうした経営判断の仕組みとして、年に1回、事業利益にもとづいた事業評価を実施しており、基準を下回る事業においては、事業部門で描いている将来像を説明してもらい、継続、撤退の判断をしていきます。
 売上高の拡大はこの2年間で確実に進展しましたが、利益が伸び悩んでいることが課題です。中期経営計画で示している取り組みを確実に進め、利益拡大を図っていき、ROEの改善およびPBRの向上にもつなげていきたいと考えています。

経営基盤の強化、目指す姿の実現に向けて:
従業員の「心」を満たすため、やりがいのある風通しの良い職場を実現し、これからのアメーバ経営のありたい姿を目指す

 経営理念にある「全従業員の物心両面の幸福」の「物」は給与という意味でも良いのですが、「心」を定義することは難しいと感じています。従業員の「心」を満たすためには、成長を実感できる会社にしていくことに加えて、心理的安全性のある、風通しの良い職場でなければならないと考えています。その取り組みとして、人事制度では2023年度から全社的に部下が上司を評価する制度を実施しています。また、年に1回、全従業員を対象に職場の活力診断を実施し、それが年度ごとにどう変化しているかをチェックしています。「心」についてどう指標化するかは、試行錯誤をしていくしかないと考えています。同様に非財務情報については、さまざまな社会活動や環境活動に関しても指標の設定が必要と考えており、どのように管理、把握をしていくか、仕組みを構築中です。
 当社独自の経営管理システムであるアメーバ経営の目的の1つには、経営者意識を持った社員の育成があり、10人ぐらいの小規模なチームで仕事をするのに適しています。昔は規模が小さくアメーバごとに採算管理をしていましたが、今では1つの部内で月に何十億円も売る製品もあり、チームの規模も拡大しています。このような状況では、かつての採算管理方法で対応することは困難になっています。
 その一方で、今、求められる技術が非常に高度になっているため、1人のエンジニアが単独で仕事を完遂することはほぼなくなり、チームでの仕事が主流です。問題を解決するためには、チーム力の大切さは以前にも増して重要となってきています。事業の規模に応じて、アメーバ経営の指標を変えるなど、仕組みを進化させていかなければなりません。
 さらに、チームを率いるリーダー像が、以前と比べて変化しています。かつての、命令をしてプロジェクトを推進するような形ではなく、チームをまとめて、みんなの力を引き出すようなリーダーが求められています。事業を伸ばすだけではなく、従業員の「心」をどう満たしていくか、トライ・アンド・エラーを重ねながら取り組んでいます。

ガバナンスへの取り組み:
コーポレート・ガバナンスやリスクマネジメントについて体制を強化しサステナブル経営を推進していく

 取締役会の実効性向上については、会長の山口が中心となって取り組み、一つの形になりつつあります。第69期定時株主総会での取締役改選を経て、社外取締役3名のうち2名が企業経営の経験者となりました。経営者視点の意見や質問を通じて、事業目的や今後の展開などの議論が深まり、非常に良い効果が生まれています。もちろん、弁護士など他のバックグラウンドのある取締役からの意見も貴重で、多様な視点から議論を進めていきたいと考えています。また、女性役員の登用についても、社外取締役に1名、執行役員に2名が就任しています。
 リスクマネジメントについては、2022年度からさまざまな取り組みを進めており、既存の仕組みを強化すればいいのか、別の方策が必要なのか、現在、議論を進めているところです。近年、情報化社会の進展やグローバル化などに伴って、リスク要因も多様化しています。その一つであるサイバー攻撃では、2023年春にKYOCERA AVX社が被害を受けました。再発防止に向けて、継続して調査をしていくとともに、セキュリティ強化などの対応を行っていきます。また、気候変動に伴う、従来にはなかった局所的な自然災害も起きており、このような重大なリスクに対し、対策を強化していきます。

ステークホルダーの皆様へ:
京セラグループの成長スピードを加速させ、社会課題の解決に貢献する事業の拡充を図る

 中期経営計画、そして2029年3月期での売上高3兆円の達成に向けて、高成長が見込まれる分野に対して積極的な設備投資や研究開発に取り組み、成長スピードを加速させていきます。そして、その取り組みによって新たな製品の創出やサービスを提供することで、当社グループはもちろんのこと、ステークホルダーの皆様とも一緒になって社会課題を解決していきたいと考えています。社会課題を解決することで喜んでいただける方がいるということは、従業員のやりがいや満足度にもつながると思います。また、成長スピードの加速には事業の拡充だけではなく、アメーバ経営を事業に合わせて進化させ、その活性化を促す取り組みが必要であると考えています。アメーバ経営のありたい姿を追求することで、将来にわたって従業員の心の満足にもつなげていきたいと思います。さらに、ステークホルダーの皆様との対話や情報開示にも積極的に取り組み、より一層のコミュニケーションの活性化を図っていきます。
 京セラグループは新たに策定した中期経営計画、その先の売上高3兆円の達成を通過点とし、「全従業員の物心両面の幸福を追求すると同時に、人類、社会の進歩発展に貢献すること」という経営理念の実現に向けて、これからも積極的に活動していきます。今後の京セラグループに、ぜひ、ご期待ください。

画像:代表取締役社長 谷本秀夫