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シリーズ「稲盛和夫の著書」 第4回『稲盛和夫の哲学-人は何のために生きるのか』

230116

稲盛が著した著書から制作の背景やエピソードを紹介するシリーズ「稲盛和夫の著書」。第4回目となる今回は『稲盛和夫の哲学-人は何のために生きるのか-』(2001年1月 PHP研究所)です。

この書籍は、タイトルに「哲学」と銘打つように、稲盛の著作全55冊の中で、最も形而上学的なものと言えるでしょう。
目次からも、それは明らかです。「1章 人間の存在と生きる価値について」「2章 宇宙について」「3章 意識について」「4章 創造主について」・・・と、人間という存在の根幹に迫る、難解なテーマ全21編で構成されています。

「人はどのような哲学をもって生きるべきか、混迷する現代を生き抜くに必要な考え方を解き明かしてほしい」とのPHP研究所の要請を受け、出版を応諾した稲盛でしたが、当時は名誉会長に就任したとは言え、京セラ取締役は継続していたため、まだまだ繁忙を極め、スケジュールは30分から1時間単位で、休日を含め、ぎっしりと埋められていました。

稲盛が深い哲学的思索にもとづいた著作活動を行うには、日常から切り離す必要がありました。そのため、秘書が苦慮して2日間の白紙日程を絞り出し、PHP研究所は京都洛北の静かな環境にある、ザ・プリンス京都宝ヶ池ホテルの和風離れを2日間借り上げて下さいました。
環境が整えられ、いよいよ原稿制作のためのインタビューが始まりました。

瀟洒(しょうしゃ)な和室中央のテーブルには、稲盛とPHP研究所副社長(当時)の江口克彦氏が対峙するように座り、その周囲を両者のスタッフ数人が囲みました。進行は、江口副社長から「人間という存在の根本的意義をどのようにお考えですか?」などと、哲学的な質問がぶつけられ、稲盛が答えるという形で収録が進められました。

稲盛のことですから、江口氏の質問に対し、間髪入れず次々に答えていく様を想像される方も多いかと思いますが、全くそうではありませんでした。哲学的な質問を受けた稲盛は、終始頭を垂れ、眼を閉じ、静かに沈思黙考するという姿を見せていました。驚くべきは、その時間です。5分や10分どころではなく、30分ほどもほとんど微動だにせず、考え続けたこともありました。
和室には静寂な時が流れ、思索を深める稲盛の息づかいと、雪見障子越しに聞こえる鹿威し(ししおどし)が打つ音だけが響いていました。

そんな稲盛の限りなく深い思考から紡ぎ出されたのが、書籍『稲盛和夫の哲学』です。この深い哲学的考察があればこそ、稲盛は人間とその生に対する深い考察と知見を得て、それが後年の書籍『生き方』執筆や、市民フォーラム講話「人は何のために生きるのか」に結実していったのです。