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シリーズ「稲盛和夫の著書」 第5回『ど真剣に生きる』

稲盛が著した書籍にまつわる制作の背景やエピソードを紹介するシリーズ「稲盛和夫の著書」。第5回は『ど真剣に生きる』(2010年9月NHK出版)です。
本書は、NHK教育テレビ番組「知るを楽しむ 人生の歩き方〜稲盛和夫 ど真剣に生きる」(2006年6月放送)の大きな反響を受け発刊されたもので、番組内容を1.「リーダーの条件」、2.「挫折だらけの青春」、3.「会社は誰のものか」、4.「何のために生きるのか」 の4章に分けて再構成し、稲盛の半生や人生観を紹介しています。
また、それぞれの章末には、臨場感あふれる番組でのインタビューを掲載しています。
本書の中で特に目玉となるのは、番組のクライマックスとなった、理念に対する稲盛の考えを述べた部分です。インタビューアの藤井彩子氏(NHKアナウンサー)からの「理念を曲げざるを得ないときもあるのではないか」という何度かの質問に対して、稲盛は揺るぎない信念を次のように語っています。
── (理念を)曲げざるをえない場面もあるのではないですか。会社経営というのは非常に厳しいというお話があったと思うのですが。
稲盛 曲げてはだめです。
── 決して曲げずにやっていこうと。
稲盛 それはそうです。簡単に曲げるようでは単なるご都合主義で、理念というものとは違うんです。
── たとえば、明日会社が倒産するかもしれないという場面に遭遇した場合に、「利他の心を持って、人のためになることをする」という理念にはちょっと反することに手を出してしまうようなこともあるのではないかと思うんです。(中略)でも、あえてやらなければいけないときというのがもしかしたら......。
稲盛 どんな事情があろうと、してはならんのです。
── してはならんのですか。
稲盛 はい。理念を曲げるくらいなら、従業員ごと会社がつぶれなければいけませんね。
── といいますと?
稲盛 会社が理念を曲げてまで生き延びても、意味がないんです。
藤井氏は当時のことを、巻末の寄稿にて次のように振り返っています。
「経営者がここまで言いきるのにどれほどの覚悟と勇気が必要か......それは、門外漢の私でもわかります。しかし、このときの稲盛さんの言葉に、淀みや迷いはありませんでした。まっすぐに、私の眼を見ておっしゃいました。『真の経営とはこれだ。そして、これは人間の生き方も同じだ』そう思い、身震いするような凄味を感じたのです」
本書のタイトル「ど真剣に生きる」とは、稲盛の信条、生き方そのものです。一日一日、一瞬一瞬を大切に、何事にも「ど」がつくほど真剣に取り組んできた人生、その経営哲学に触れていただける一冊です。