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寄稿⑧ 「自主技術が生まれる研究風土」(『化学と工業』第33巻第10号、1980年10月1日発行)

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1979年10月、京セラ創業20周年記念事業の1つとして、鹿児島国分工場内に総合研究所が開設され、これまで分散していた研究部門を集約し、各種ファインセラミック新材料を開発する環境が整備されました。そのちょうど1年後の1980年10月、社団法人日本化学会が編纂する雑誌『化学と工業』は特集「独創研究・自主技術―その基盤となる研究風土―」を企画し、自主技術が生まれる研究風土の具体的な事例紹介企業として、東レ、理研、日立製作所と共に、京セラに白羽の矢が立ったのです。

寄稿を承諾した稲盛(社長)は、当時総合研究所長を務めていた浜野義光(常務取締役)と共に上記テーマに関する原稿を執筆し、京セラの新製品開発の秘密は特別な制度にあるわけでもなければ、優れた能力を有する技術者に起因するのでもないと前置きし、「われわれを支えたのは、理想をもって努力すれば成功しないはずはないという信念と、自分達の会社の存続のためにやり遂げねばならないとする使命感であった」と記しています。

また、そのように必死の努力を重ねる中でNeedsに応え、さらなるSeedsを生み出していった過程について、次のように述懐しています。
「普通ではできない難しいNeedsを示されて、これに対応するために、敏速に問題を解決し、必要な材料と製造手段を次々に開発して行くという大変な努力を深夜まで続けた毎日であったのが、このようにしてNeedsにこたえるために開発した材料や製造手段が次のSeedsとなって、さらに新しい商品を生み出すという好ましい循環がおこって、今日わが社がもつ多様な商品が生まれたのである」

さらに、アメーバ経営によって培われた経営者意識が研究開発においても大きな原動力となっていることについて、次のように述べて本寄稿を締めくくっています。

「小さい単位の構成員が、あたかも経営者のような意識をもち、今、何をすることがその単位にとって、あるいは全京セラにとってベストなのか、という問いかけを絶えずしながら行動していることが、わが社の最大の長所なのである。これは研究開発部門においても全く同じであって、売れる商品の開発、売れる商品をつくれる材料の開発、あるいは売れる商品をつくれる製造手段の開発のいずれであっても、努力する方向は、会社に貢献するために何をするかという一点にしぼられる。
単に興味にかられた研究あるいは研究発表のための研究は、決して行なわない。当社も昨年総合研究所を新築し、百余名の若い技術者が全社でもっとも恵まれた環境で研究開発に従事しているが、建物のかっこう良さに惑わされて、単にかっこう良い研究に堕することのないよう、常に戒めている」