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寄稿⑱「地方と中央の関係を作り直す」(『経済人』1989年10月)
国の地域政策の方針を定める「全国総合開発計画」において「多極分散型国土の形成」について提唱され、首都機能の移転、国の規制緩和、国と地方の権限や財政のあり方について社会から高い関心が示されていた1989年10月、関西経済連合会(関経連)からの依頼を受け、稲盛(当時関経連学研都市委員会副委員長)は同会の機関誌『経済人』の特集「国と地方の新しい関係をめざして」の巻頭言として「地方と中央の関係を作り直す」と題して寄稿しています。
この中で、東京の一極集中の問題点を指摘するとともに、複雑な現象に取り組むためにはそれを単純化して革新的な真理を抽出することの重要性を次のように説いています。
「現在、東京の過密状態は極限に達している。そして地方には、全国一律の形でなく、地方の特色を生かして個性的な発展を目指すという課題がある。この一極集中体制を是正し、地方の活性化を図るためには、今論議されているように中央政府の機能の一部を地方に分散させるだけではだめで、立法や行財政の権限や財源を地方に全面的に移譲することが必要である。その受け皿としては、新しい道州制など、より広域のシステムを作ることとする。こうすれば中央政府自体が小さくなり、集中の弊害もなくなるだろう。(中略)
話が飛躍するようだが、もし地方が独立するとしたらというように考えると、この問題は簡単に解けるように思う。これは決して国内に動乱を起こすことを勧めているのではない。仮に、地方が今から独立国家になるとすれば、まず地方のことは地方で責任をもって考え、実行しなければならない。既存の関係や利害から一切はなれて、すべてのことを初めからまったく新しく考え直し、制度や法律を地方の事情に合わせて、自由に作っていくことになる。そのように、単に中央集権の是正ではなく、地方に独立国家を形成するという発想をとってみると、問題がはっきりするのである。(中略)
私は技術者として、複雑な現象に取り組むにはそれを単純化して核心的な真理を抽出するにしくはない(※1)ことを経験している。社会現象でもおなじことで、基本はより単純なプリンシプルを抽出することであろう。日本の活性化のために、少々過激かもしれないが、地方独立の考え方に立って、中央と地方の関係を最初からまったく新しく作り直すことを提唱するゆえんである」
※1:如(し)くはない⇒「それに及ぶものがない。それが最も良い」の意