Facebookアーカイブ
寄稿⑲「人間の顔を持つ企業に」(『経済人』1990年2月)
1990年2月、関西経済連合会(関経連)の機関誌『経済人』は「文化の創造は企業の使命」をテーマとして、企業が資金を提供して文化・芸術活動を支援する「メセナ」を特集しました。稲盛はこの中で「人間の顔を持つ企業に」と題して寄稿し、「京セラ株式会社をここまで育んでくれた社会に対して、何らかの形で恩返しをしたい」という考えが京セラの文化活動の基本にあるとして、その具体的な例として(1)京都賞、(2)京セラ教授職の設置、(3)京セラ海外研修ツアー、(4)太陽光発電を利用した村落電化システム寄贈等を紹介しました。これらのうち、「京セラ教授職の設置」の意義について、稲盛は次のように述べています。
「私どもは創業三年目からアメリカに進出し、以来、二十数年にわって製造、販売、開発などの企業活動を行ってまいりました。米国の社会風土は、新しい事業に挑戦する意欲と能力を持った個人や集団に対してきわめてオープンであり、そのような若々しい柔軟な米国を私はたいへん尊敬しております。長年にわたって米国で企業活動を行ってきた当社として、何らかの形で米国社会に利益還元をしたいと考え、創立二十五周年を迎えた昭和五十九年において、アメリカの三つの大学(ケース・ウエスタン大学、マサチューセッツ工科大学、ワシントン大学)に総額三百万ドル(当時の邦貨で約七億五千万円)の基金を寄贈して、『京セラ教授職』を設置しました。当時の新聞紙上では、わが国の大企業でアメリカに教授職を設置した例は他にもあるが、一挙に三つの大学に寄付を行うのは初めてと報道されました。これらの教授職は、今も毎年、アメリカの優れた研究者、技術者を生み出し続けています」
こうした京セラの文化活動を紹介した上で、その理念について、最後に次のように締めくくっています。
「世のため、人のために何かをすることができるということは、人間として最も尊いことだと思いますし、いささかなりともそういうことができるということ自体、この上なく幸せなことだと思うのです。昔から『陰徳を積む』という言葉がありますが、企業の行う文化活動も、本来、人目にはつかなくとも、人間の心が求めることとして行うものではないかと思います。(中略)国境をへだてていても、人間として正しいことというのは基本的に変わらないわけですから、人間として相手の立場にたって考えると、国際摩擦も理解しやすくなりますし、企業としてどういう行動をとるべきかが自然に出てくるはずだと思うのです。私は、私のあとを継いでくれる当社の若い経営者たちに繰り返しこれらのことを語りかけ、これからも当社の経営の基本として引き継いでいってほしいと願っております」
