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寄稿㉔「変化の課題に果断な挑戦を」(産経新聞、1993年7月31日、「正論」)

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1993年7月、戦後政界において長らく続いた55年体制が崩壊し、非自民連立政権が成立するという激変の時にあたり、稲盛は産経新聞「正論」欄に「変化の課題に果断な挑戦を」と題して寄稿し、「射撃」にたとえて、次のように目標達成のあり方について提言しました。

「私は射撃をやらないが、こんな話を聞いたことがある。新しい銃で射撃を行うとき、標的を狙い撃って、着弾が右に五センチずれたとすると、素人の射手は次には左に五センチはずして狙うという。するとたいていまだ右に少しはずれる。第三弾をその分だけ左に寄せて撃っても、やはりもう何分の一センチか寄せ足らない。このような方法でも少しずつ的に近づくが、なかなか命中するものではない。

これに対して射撃の名手は、右に五センチはずしたら、第二弾はあえて例えば一〇センチ左にはずして撃つという。この二回の射撃から判断して、第三弾で確実に的を射抜くのだそうである。
右にはずした後は、思い切って左に振ってみることだ。急激に変化させるのは行き過ぎなどと小才を働かせるのではなく、返す波で真実の目標を達する深い知恵が求められる。もちろん、極端から極端に振って浄化を徹底して行うには、それなりのリスクと痛みが伴う。経済的な不利益を被ることもあろう。国際摩擦、社会的なあつれき、心理的な不安などは避けがたいコストである。

国民もこのような変化に耐えて、活力ある希望に満ちた新しい社会を築いていくために、産みの苦しみを分かちあわなければならない。今こそ政官財のリーダーの方々が、エゴを離れ、自己の利害を去って、道理に沿ってまっすぐに進んでいただきたいと痛切に願う」

写真:寄稿当時の稲盛(1993年)