Facebookアーカイブ
寄稿㉛「伝統活かし新・技術立国」(「日本経済新聞」1999年8月5日「経済教室)」
バブル経済崩壊後の不況にあえぎながら、将来に明るい展望を持てないまま21世紀を迎えようとしていた世紀末の日本にあって、経済再生のための政府主導による新産業育成策が検討されていました。そうした動向に対し、稲盛は1999年8月5日の日本経済新聞「経済教室」欄に寄稿し、高度に発展した資本主義社会では政府による実体経済への関与は少ないほどよく、規制撤廃によって幅広い分野で起業を促進することこそが日本経済再生への道であるとして、次のように提言しました。
「実際、現在活躍している大企業は、日本であれ米国であれ、政府の支援を受けて発展してきたわけではない。経営者の強烈な独立自尊の精神をベースに、独自のアイデアを徹底的に追求しつつき、また新しい自由競争の中で鍛えられながら発展してきたのである。(中略)その意味で税制や補助金などを含め、いかなる形であろうとも、政府が企業の活動に関与すると、市場経済を歪め、結果的にチャレンジ精神に富む真の起業家の出現を妨げてしまう。それでは世界を相手にできる強い企業は生まれない。(中略)それでは、来世紀の日本にはどのような産業がふさわしいのだろうか。米国や英国などでソフト産業や情報産業が急速に発展するのを見て、日本においても同じような産業の育成は欠かせないという意見もある。
しかし、本来、国家はそれぞれ特徴のある発展を遂げていくべきものである。筆者は、歴史、日本人の特性を考えるなら、日本には製造業が最も適しており、今後も製造業を中心に発展していくべきだと考えている。(中略)日本人は長い歴史の中で、他の民族に見られないような、モノ作りの素晴らしい才能を培ってきている。
このモノ作りという分野にこだわりを持ちながら、世界の最先端の科学技術を積極的に取り入れ、創意工夫を重ねていくなら、日本は「世界のハイテク製品供給基地」として、21世紀も発展を続けていけるのではないだろうか。今の日本にとって大切なことは、世界の動きにむやみに右顧左眄しないことである。国民の税金を使い、いたずらに世界の流れを追ってみても、すべての面で世界のトップになれるはずがない。
日本は自由で公正な競争ができるよう、また自らの特性が生かされるようにすべきなのである。そうすることにより、日本経済は必ず自らの力で、自らの特性に合うような形で再生されるであろう。」
写真:1999年当時の稲盛