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寄稿㉝「哲学なきベンチャーは去れ」(『中央公論』2000年8月号)
東証マザーズの開設やナスダック・ジャパンの創設など、ベンチャー企業にとって飛躍のチャンスとなる舞台が整った2000年、稲盛はベンチャー企業の「先輩」として、若き挑戦者たちに対して激励と叱咤の思いを込めて『中央公論』8月号に「哲学なきベンチャーは去れ」と題して寄稿しました。その中で、次のようにベンチャー経営者が持つべき心構えについて述べています。
「企業を経営するうえで大事なことは、常にゴーイング・コンサーンであること。つまり永遠に続く事業、企業を作っていかなければならないということです。短期で消滅するようなものであってはいけません。企業とは、永遠に発展し続ける生命体であるべきです。
そう考えると企業は生命体ですから、人間の肉体と同じように病気をしたり、けがをしたりしてどこかに欠陥が出る。それを一つ一つ治していきながら、バランスの取れた生命体にしていく。そのためには、リスクを取りながら集中すると同時に、一方で針の穴を通すような慎重さが求められます。この微妙なバランスを崩すと経営体は続きません。常にバランスを取りながら、永遠の継続を求める、長丁場の戦いなんです。(中略)
息が詰まるような長丁場のなかで、緊張感を絶やすことなく大胆にそしてケアフルに進める。これがベンチャー経営というものです。ベンチャービジネスを始めるには、大いなる冒険心が必要です。しかし、いったん始めたら細心の注意力が要求される。研究開発は大丈夫か。製造はうまくいっているか。営業はしっかりしているか。財務は万全か。どれか一つが欠けても、企業はうまくいかない。だから経営者は全方位に目を配り、細心の注意を払う。慎重のうえにも慎重であること。このことをベンチャー経営者は忘れてはなりません。
京セラもいまにもつぶれるのではないかと、ともすれば引っ込み思案になり、ビビってしまう自分と、いやベンチャー経営者として勇気を奮い起こさねばならんという自分との葛藤の毎日でした。そのときに私は、経営者というものは全人格を問われる存在なのだと痛感したのです」