超高速かつ大容量。
光の通信「Li-Fi」は、
GaNレーザー技術で進化する

素早く、どこへでも、どこまでも
データは「光」が届ける時代へ

距離や時間を超えて人・情報をつなぐ、「5G」や「Wi-Fi(※1)」などのワイヤレス通信技術。オンラインを使ったビジネス/コミュニケーション/エンターテインメントの普及に伴い、データ通信の高速・大容量化は、私たちの暮らしに直結するテーマとなっています。
ワイヤレス通信の中でも、パソコンやスマホだけでなく、テレビなどの家電製品にも搭載されているWi-Fiは、私たちにとってなじみ深い技術の一つ。オンラインミーティングや動画ストリーミングには、Wi-Fiを利用している人が多いかと思います。しかし電波を使用するWi-Fiには、周囲の環境によっては電波干渉が発生したり、電波が届きにくかったりすることで、つながりにくかったり、通信の遅延が発生しやすかったりするなどの課題も。コロナ禍によって安定した通信環境へのニーズが爆発的に高まったことで、この課題の解決が求められています。
そんなWi-Fiの課題を解決し、より高速で大容量の通信を可能にする技術として注目されているのが、光を使った無線通信技術「Li-Fi (Light Fidelity)」です。京セラでは、グループ会社であるKYOCERA SLD Laser社(以下、KSLD)と共に、この技術の開発に取り組んでいます。
※1 Wi-Fi®は、Wi-Fi Allianceの登録商標です

レーザーダイオード (GaNデバイス)
高効率・高出力が可能であるGaN(窒化ガリウム)を使い、レーザー照明、自動車のヘッドライトの他、Li-Fiや給電などの光伝送用、殺菌処理用など、さまざまな用途での活用が期待されています。
「Li-Fi」技術の生みの親を迎え、
「レーザーLi-Fi」という新境地を開拓
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CMO, SVP BD, and Co-founderKSLD
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Senior Director, Product MarketingKSLD
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Senior Process engineerKSLD
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ProfessorProfessor at University of Strathclyde and senior advisor for KSLD
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「Li-Fi」は、これからの実用化が期待される新しい技術。だからこそハード/ソフト両面の技術開発だけでなく、どういった商品に実装できるかなどの調査やマーケティングによる市場開拓、長期的・広域的ビジョンの策定など、多岐にわたる対応が必要です。今日は、「Li-Fi」の生みの親であるハラルド・ハース教授をはじめ、各分野のプロフェッショナルであるチームの皆さんに集まってもらいました。
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私はシニアプロセスエンジニアとして、主に「Li-Fi」のハード/ソフト技術の開発を担当しています。従来の「Li-Fi」は主にLEDを光源として利用しますが、われわれが挑んでいるのは、「GaNレーザー技術を用いたLi-Fi」(以下、レーザーLi-Fi)という新しい製品です。KSLDが有するレーザー技術のノウハウがあるからこそ挑戦できていることであり、世界でもKSLDにしかできない開発を行えていることに、誇りを感じています。
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私が主に担当しているのは、新規マーケットの開拓。LEDを用いたものより素早く、大容量の通信が可能になることはもちろん、光の到達距離が長く、コントロール性・指向性に優れている点が「レーザーLi-Fi」の特長なので、そういった強みを生かせる市場を日々探っています。
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「レーザーLi-Fi」は、さまざまな市場の新しいソリューションにつながる技術だと思うのですが、どういった分野から特に高い注目が集まっているのでしょうか?
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車や飛行機、船舶といったモビリティの分野においては、車体同士の通信技術としても「レーザーLi-Fi」が活躍できる可能性が高いです。また青色波長の「GaNレーザー」には、より遠くまで光が届く、という特性も。水中でも光が減衰しにくく、より遠くまで到達するので、海中でのワイヤレス通信も実現できると考えています。
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大容量のデータを素早く、正確に届けられる。こういった“「レーザーLi-Fi」にできること”をPRしたり、実用に即した製品キットを開発したりして、この技術が持つ高い価値を多くの人に知っていただくのが、マーケティングオフィサーである私の仕事です。
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ラスベガスで行われているエレクトロニクスショーに2022年、2023年と出展していましたよね?
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はい。ラスベガスでは、2022年に「レーザーLi-Fi」が5Gの100倍もの通信速度を可能にする様子を実演しました。また最近は、顧客が自らのニーズに合わせて「レーザーLi-Fi」の性能を調整できる開発キットもリリースし、2023年のラスベガスに出展しました。多くの方から評価を得る結果となり、光学系の先端技術を表彰するSPIE Prism Awards 2023のレーザー部門でアワードを受賞(※2)しました。
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私は「Li-Fi」の基礎研究結果に基づくデータを提供したり、この技術によって社会にどんな変革を起こしていくのかといった長期的な構想を描いたりするアドバイザーとして、6年前からチームに参加しています。自分が発案した「Li-Fi」が、KSLDとのコラボレーションによって、より高い性能を獲得しつつあることを非常にうれしく思っています。
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他のチームとも「Li-Fi」の研究開発を活発に行われていると思いますが、KSLDならではの開発に対する強みは、どんなところにあると思われますか?
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「GaNレーザー」技術を生かして、これまでにない通信速度や大容量のデータ通信を可能にしていくことは、KSLDにしかできないことだと考えています。KSLDと開発したプロトタイプの「レーザーLi-Fi」は100Gbpsの通信速度や、空中・海中・宇宙でのコミュニケーションを可能にするなど、数々の記録を樹立中です。KSLDとなら、「Li-Fi」の持つ真の価値を引き出して、社会に貢献できると確信しています。
「レーザーLi-Fi」の存在が、
世界をあらゆる角度から変えていく

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通信性能の高さだけでなく、より小さなエネルギーで稼働する点も「レーザーLi-Fi」の特長ですよね。
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その通りです。省エネルギーであるメカニズムは、レーザーポインターを思い浮かべると分かりやすいと思います。LEDの光は周囲に拡散するのに対し、レーザーは「点」で光を当てることができますよね。このように少量の光をピンポイントで扱うことができるからこそ、「レーザーLi-Fi」はエネルギー効率が高く、利用していく上での環境負荷を低減できるシステムだといえるのです。
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ピンポイントで光を扱えるということは、指向性が非常に高く、データをセキュアに取り扱えるという利点にもつながります。堅牢で効率よくデータがやり取りできる「レーザーLi-Fi」は、ビジネスの領域だけでなく、医療や教育、エンターテインメントなど、あらゆる場面において、私たちに想像を超える経験を与えてくれるものだと思っています。
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お話しいただいた通り、「レーザーLi-Fi」の存在は私たちの生活をもっと楽しく、便利なものにしていくはず。AR(Augmented Reality / 拡張現実)やVR(Virtual Reality / 仮想現実)、メタバースといった仮想現実下でのコミュニケーションが、今よりずっとスムーズに行えるなど、SF映画で描かれるようなシーンが、近い将来当たり前になるのではないでしょうか。
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そういった実用化のフェーズに向けて、これからは私たちの技術の可能性を広げてくれるパートナーと、どんどん共同で研究を進めていきたいですね。新しい技術だからこそ、私たちが思いもつかないような「レーザーLi-Fi」の活用方法も、まだまだ眠っているかもしれません。未知の領域ゆえに課題も多いですが、それを乗り越えること自体が、私のモチベーションにもなっています。
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実用化、市場拡大に伴う需要の高まりに向けて、安定した生産体制を確立していくことも重要です。「レーザーLi-Fi」はLEDベースのLi-Fiと比較すると、高速通信を可能にするために必要な高い性能から、入手しづらい材料や部品を用いて作られているので、今後はサプライチェーンの強化にも挑んでいきたいですね。
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最初に述べたように、「レーザーLi-Fi」は、ある特定の分野の専門家だけで開発できるものではありません。ハードウエアやソフトウエア、マーケティングなど、さまざまな分野に精通したプロフェッショナルが集まり、力を合わせているのが私たちのチームの強み。広く、深い力を発揮できるこのチームで、世界を驚かせるような結果を出し続け、社会に貢献していきたいです。
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私も、このチームで働けていること自体が研究に挑む原動力になっています。「自分たちにしかできないことをやっているんだ」と思うとワクワクしますし、京セラの仲間と業務に取り組むことで良いシナジーが生まれ、開発が前に進んでいく感覚を味わえるのは、本当に楽しいです。
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これまでは「ワイヤレス通信=電波」という考え方が、世界中で当たり前とされてきました。しかし「レーザーLi-Fi」は、性能面でも、持続可能性の面でも電波をしのぐ製品。このテクノロジーが広がることで、「ワイヤレス通信=光」という新しい概念が生まれていくのではないでしょうか。電波から光へ、通信の常識を変化させることで、モビリティやロボティクスなど、あらゆる先端技術に大きな影響を与えていくことを楽しみにしています。