ビーコン対応GPSトラッカーで
    登山者の安全を守れ

    近年の登山ブームもあり、登山者が増える一方で、それに伴う遭難や事故も増えています。特にこの10年で遭難者は増える傾向にあり、2019年には3000人近い人が遭難事故に遭っています。また、2014年には御嶽山(長野県・岐阜県)が突如噴火し、多くの登山者が犠牲となりました。

    このような事故や災害の被害を、最小に抑えるための手段の一つとして有効とされているのが、登山者の位置の把握です。GPSなどの全地球測位システムが簡単に使える現在、位置の把握は比較的簡単にできそうですが、山岳地という環境を考えると、常に登山者の位置を把握できる機器に必要とされる条件はかなり厳しいものとなっています。

    京セラは、2020年10月に行われた「那須岳チャレンジ」にて、同社製IoT位置情報デバイス「ビーコン対応GPSトラッカー」が登山者の位置把握機器として有効に使えるかという実証実験を行いました。そのレポートをご紹介します。

    登山者の安全を守るために必要な、登山者の把握調査

    2014年9月27日、微弱な火山活動がありながらも大規模な噴火活動は観測されておらず、噴火警戒レベル1とされていた御嶽山(長野県・岐阜県)が突如噴火し、おりから秋の登山シーズンで山頂付近を訪れていた数多くの登山者が被災。63名の死者・行方不明者が出ました。

    この災害をきっかけに、同様に数多くの登山者が訪れる富士山において、2015年から登山者の動態データに基づいた安全登山システムに関する実証実験が進められ、2018年には多くの企業・団体が集まって「一般社団法人富士山チャレンジプラットフォーム」が設立されました。

    京セラも当初より富士山チャレンジに参加。ビーコンを使った登山者把握調査の実証実験に協力してきました。

    御嶽山噴火災害の際に課題になったのが、「どれだけの登山者が入山」し、「どのあたりに登山者が滞留していたのか」を把握することでした。特に御嶽山や富士山のように登山者が多い山では、平常時の登山者分布を把握しておくことで、シェルター設置場所の検討や、災害時の避難誘導計画など、防災計画に活かすことが期待できます。

    困難な登山者の位置把握

    スマートフォン(スマホ)を日常使っている私たちにとって、自分の位置情報を把握し、伝えるということは、それほど難しいことではなくなっています。

    しかし、登山者が行うとなるとどうでしょうか。まず電波の問題。携帯電話の基地局の多い人口が多いエリアと異なり、山岳地帯では電波が弱いエリアも少なくありません。
    また、登山者が持って歩くのですから軽いに越したことはありませんし、バッテリーの持ちも気になります。

    ある程度電波が強いところで使うことが前提となっているスマホでは、微弱な電波での通信は困難です。さらに輪をかけて大きいのがバッテリーの問題。数日間の登山のために大きなバッテリーを持って歩くのはなかなか難しいことです。

    専用の機器で登山者の位置把握を容易に

    これらの課題を解決するのが、2020年4月に発売された「ビーコン対応GPSトラッカー」(以下、GPSトラッカー)です。

    ビーコン対応GPSトラッカー

    Bluetooth® Low Energyで通信するビーコンやGPS/GLONASS/みちびきといった位置測位衛星からの情報を受信・取得し、携帯電話ネットワークを利用したIoT用通信規格「LTE-M」を使って情報を送ることができるIoTデバイスです。


    また、Bluetooth® Low Energyで通信する各種センサービーコンからデータを集約し、送信ができる「センサーゲートウェイ機能」を搭載、さまざまな環境で計測したデータを使った、遠隔モニタリングやデータ分析などにも活用できます。


    IoT用通信規格「LTE-M」は従来の4G携帯電話の通信で使われているLTEの基地局がそのまま使えるので新たにネットワークを構築する必要がなく、かつ広い範囲がカバーできるうえに、データを複数回再送して送受信成功率を向上させるカバレッジ拡張技術を使うことで、これまでのLTEよりも長距離で通信ができます。まさに山岳地帯などでの通信に適した方式だと言えます。

    スマホとは異なり、専用端末のため画面が必要なく、通信を行うデータ量も少なく済むこともあって、消費電力が少なく、バッテリーも長時間持ちます。

    さらに、Bluetooth® Low Energyを使った各種センサービーコンから得られた情報を送り出す機能もついていますので、その場所の位置情報とともに、温度や湿度、照度などのセンサー情報も同時に送り出すことが可能になっています。

    どのように登山者の動態を調査するのか

    これまで数回行われてきた「富士山チャレンジ」では、登山者にBluetooth® Low Energyなどの電波を発するビーコンを配布し、登山道の各所にビーコンの電波を受信するスマホを使ったレシーバーを設置。レシーバーがビーコンの電波を受信すると、携帯電話回線を経由して、クラウドにビーコン情報を定期的に送ることで集計を行っていました。
    この受信情報を地図上にマッピングすることで、登山道のどの位置に人が集まっているのかが見える化できるというわけです。また、時系列に集計していけばどの時間帯にはどの辺りに登山者が多いのか、なども簡単に可視化できます。
    また、富士山チャレンジでは、ビーコンにQRコードが貼り付けてあり、そのQRコードをスマホで読み取ると、自分がたどってきたルートを見ることや、専用のURLを共有して、家族に自分の位置を知らせることができるサービスなども実験として行われてきました。

    「那須岳チャレンジ2020」ではビーコン対応GPSトラッカーを使った新しい実験を実施

    そして2020年10月3、4日、栃木県の那須岳において登山者2000名にビーコンを配布して登山者の位置情報把握の実証実験を行う「那須岳チャレンジ2020」が開催されました。

    この那須岳チャレンジにおいて、京セラは新しい取り組みを行いました。それがGPSトラッカーを使った実証実験です。

    那須岳チャレンジ2020では、2つの実験を行いました。一つ目は「移動レシーバー」としての実験です。主催者である富士山チャレンジのスタッフがGPSトラッカーを持って登山路を巡回しました。巡回するスタッフが登山者の持つビーコンの電波を検知すると、GPSトラッカーが起動し、3分ごとに位置情報とともにビーコン受信情報をクラウドに送信します。この実験では、ビーコンの受信精度やバッテリーの持ち時間などの中心とした検証が行われました。

    もう一つは、センサーゲートウェイ機能を使って、温湿度、気圧、音圧、照度などを移動しながら計測する「移動環境観測」の実験でした。リュックに計4種のセンサービーコンを取り付け、それらの測定データをリュックに入れたGPSトラッカーで受信、定期的にクラウドサーバに位置情報とともに計測データを送出します。
    こちらは2名の京セラ社員が持って巡回しました。

    リュックにつけられた各種センサービーコン(左)とリュック内のGPSトラッカー(右)



    出典:国土地理院ウェブサイト(https://maps.gsi.go.jp/)/ 地理院地図を加工して作成

    センサービーコンから得られた計測データ例、およびGPSトラッカーから得られた位置情報

    シンプル・軽量ながら確実にデータを送り出し、本領を発揮

    2日間の実証実験の間、計12台のGPSトラッカーは日中にバッテリー切れを起こすこともなく、安定した動作を続けました。
    また、実際に持ち歩いたスタッフに話を聞くと、長時間歩いても負担にならない軽さや操作不要な手軽さがよい、という感想が聞かれました。
    なお、登山道に設置された固定型のレシーバーは、京セラの高耐久性スマホ「TORQUE®」シリーズが使われました。

    使い方次第では、高いレベルで登山者の安全を守るツールとして、あるいは山の仕事にも活用できる

    電波を発するだけのビーコンとは異なり、集めたデータを送受信できるGPSトラッカーはさまざまな用途が考えられます。

    例えば、これまで固定型レシーバーとして使われていたTORQUEに代えて、設置することも可能です。携帯電話と比較してIoT機器はコストも抑えられる為、導入のしやすさもメリットとなります。
    また、登山パーティーのように人数の多いグループでは、1~数名のメンバーがGPSトラッカーを持つことで、他のメンバーが持つのはビーコンであっても、まとめて情報をクラウドにアップして、小グループとしての安否確認用としても使うことができます。キャンプ場やスキー場の管理者が、利用者の持つビーコンを受信して、危険なところや立ち入り禁止となっているところに立ち入っていないかを確認する安全確保ツールとしても使うことができるでしょう。


    TORQUEを使った固定型レシーバー。

    もちろん、登山者同士や登山管理者だけではなく離れたところにいるご家族も高い精度で登山中の位置が確認できます。

    また、林業に従事される方や、高圧送電線の保守作業をされる方などは、センサーゲートウェイ機能を活用し、山中の気象情報を収集し、植林の研究や、天気予報に役立てることも考えられるでしょう。

    今回の実験を通して、GPSトラッカーの有効性や機能性が証明されました。ぜひ、このような特長を生かして、登山者の安全確保にとどまらず、さまざまな現場に活用の場を広げたいと考えています。



    ※LTEは、ETSIの商標です。
    ※Bluetooth®ワードマークおよびロゴは、Bluetooth SIG,Inc.が所有する登録商標であり、京セラ株式会社は、これら商標を使用する許可を受けています。
    ※「TORQUE」は京セラ株式会社の登録商標です。

    こちらの事例に関連する商品

    ビーコン対応
    GPSトラッカーGW

    屋内外の動態管理を実現!
    GPS・GLONASS・みちびきとビーコンによる屋内外での動態管理に加え、センサーゲートウェイ機能によりセンサーデータの遠隔モニタリングを可能にした、IoTデバイスです。
    GPSトラッカーGW

    詳細情報へ

    IoT活用コラム