トレーサビリティシステムにおける
    IoTの活用例

    近年、トレーサビリティを支える仕組みは飛躍的な進歩を遂げています。
    ここでは、トレーサビリティシステムとは何か、導入するとどのようなメリットを得られるのか、また、トレーサビリティシステムにIoTを活用するとどのようなことができるようになるのか、といったことについて紹介します。
    トレーサビリティシステムにおけるIoTの活用方法や、新しいトレーサビリティシステムの形を考えるヒントにしていただければ幸いです。

    トレーサビリティシステムとは

    「トレーサビリティ」とは、「trace(追跡)」と「ability(能力)」を組み合わせた造語で、「追跡可能性」を意味します。原材料や部品の生産からはじまり、それらを集め、加工し、卸売、小売を経て、消費者のもとに届き、廃棄されるまでのすべての流れを追跡し、記録する仕組みのことです。
    2000年頃から、諸外国の法令や国際規格(CODEX、ISO)などで求められるようになり、それ以降、いかにトレーサビリティを担保するかということが工夫されてきました。
    「トレーサビリティシステム」とは、トレーサビリティを担保するための仕組みのことを言いますが、おもに次の2つの意味で用いられています。
    • ・広義のトレーサビリティシステム トレーサビリティを実現するための仕組み全体(法制度・物流の仕組み・情報管理システムなど)のこと
    • ・狭義のトレーサビリティシステム トレーサビリティを担保するために開発されたソフトウェアなどの管理ツールのこと。「生産流通管理システム」「生産流通情報把握システム」などの名称がつけられている場合もある

    ここでは、特に前者の(広義の)トレーサビリティシステムについて解説します。

    トレーサビリティシステムの仕組み

    日本では、2001年の国産牛BSE(狂牛病)問題を契機に、トレーサビリティに対する意識が高まり、法整備なども行われました。現在、牛・牛肉、米・米加工品に関して、トレーサビリティの取り組みが義務付けられています。
    トレーサビリティシステムがどのような仕組みでできているのか、この牛肉を例に解説しましょう。

    ・出生の届出
    牛の管理者は、牛が出生したら(または輸入されたら)、生年月日や性別、母牛の個体識別番号などの情報を農林水産省へ届け出ます。
    ・個体識別番号の付与・データベース登録
    農林水産省は、管理者からの届出内容をデータベースに登録し、個体識別番号を付与して管理します。また、個体識別番号が記された耳標を発行し、管理者に牛の耳に装着させます。
    ・譲渡し・譲受け・死亡・輸出などの届出
    譲渡しや譲受け、死亡、輸出などがあった場合は、その発生日や相手先などについて届け出を行うことで、いつでも過去の履歴をたどれるようにしておきます。
    ・と殺の届出と帳簿の備付け
    と畜者は、譲受けの相手先やと殺年月日を、個体識別番号とともに届け出なければなりません。また、販売業者などへの引渡しの年月日や重量、相手先などを、個体識別番号とともに記録した帳簿を備付けておく必要があります。
    ・販売記録等の帳簿の備付け
    販売業者(および特定料理提供業者)は、仕入れおよび販売の年月日や重量、相手先などを記録した帳簿を備付けておく必要があります。

    消費者は、精肉などに表示された個体識別番号を、独立行政法人家畜改良センターが運営する「牛の個体識別情報検索サービス」から検索することで、データベースに登録された情報をいつでも閲覧することができる仕組みになっています。

    トレーサビリティシステムを構成する2種類のトレーサビリティ

    トレーサビリティは、次の2種類に分類することができます。
    ・チェーントレーサビリティ ・内部トレーサビリティ
    トレーサビリティシステムを構築する場合、2種類のトレーサビリティを両方とも含んでいることが望ましいとされているのですが、それぞれどういう意味なのでしょうか。

    チェーントレーサビリティ

    「チェーントレーサビリティ」とは、原材料、加工、生産、物流、小売までの複数の段階でその移動が把握できる状態を指します。各段階は複数の事業主体の取引関係で構成されることになるので、品番やデータベースの大規模な連携が必要となり、実現の難易度は高くなります。
    チェーントレーサビリティが実現すると、消費者は、その製品がどこで、どのようにつくられたかを知ることができます。また、生産者やメーカーは、自分たちが生産したり加工したりした製品が、どういう工程でどこに渡り、最終的にどのように消費者の元に届いているかを把握することができるようになります。

    内部トレーサビリティ

    「内部トレーサビリティ」とは、生産拠点や物流拠点など特定の施設内におけるトレーサビリティのことを言います。
    チェーントレーサビリティと比べ、より複雑な工程に対してトレーサビリティの実現を目指すので、管理すべき領域はより深く、より細かくなるのが普通です。
    たとえば、製造工場であれば、次のような情報が対象になります。

    ・いつ、どこから、どのような状態の原料を入荷したか
    ・いつ、どのラインで、どのような加工をしたか
    ・いつ、どこで、どのような検査をして、検査結果はどうだったか
    ・いつ、どこに、どのような状態で保管していたか
    ・いつ、どこに向けて、どうやって出荷したか

    なぜトレーサビリティシステムが必要か

    万が一不良品や欠陥品が発生した場合、いち早く原因を特定するとともに、リスクのある製品を回収・交換し、再発防止の対策を講じなければなりません。もし、こうしたリスク対応に不備があり、消費者に何か被害を与えてしまうような事態が起きれば、企業としての存続が危うくなるだけでなく、経営陣は個人的な責任を追及される可能性さえあります。
    トレーサビリティシステムは、このような事態を未然に防ぎ、万が一のことが起きた場合にも、最悪の事態になる前に対処できるような体制をつくるためのシステムなのです。

    トレーサビリティシステムを構築・導入するメリット

    では、トレーサビリティシステムを構築し、運営していくことには、どのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、トレーサビリティシステムを導入するメリットについて解説します。

    リスク管理の強化

    トレーサビリティシステムを整備すると、生産物がどこで、どのような状態にあるかを、常に把握できるようになるので、万が一不良品や欠陥品が発生したときには、迅速かつ正確に対応することができ、結果的にリスクに対するコスト低減につながります。

    品質の向上

    全行程において、生産物の状態を追跡し、それをデータとして蓄積することができるので、製品に対する責任の所在が明確になります。責任の所在が明確になると、現場スタッフの製品に対する意識向上につながります。

    消費者からの信頼向上

    SNSが普及した現代において、ただ安全性を訴えるだけでは信頼を得られなくなりつつあります。なぜ安全なのか、消費者が心から納得・共感できるようにすることが、重要になっています。トレーサビリティシステムを整備すれば、原材料や生産方法、いつどこで加工されたかなどの情報を可視化することができるようになるので、消費者に「なぜ安全なのか」を、透明性をもって伝えることができるようになります。

    顧客満足とマーケティング強化

    原材料の生産者や供給者、加工メーカーなど、バリューチェーンの川上に位置する事業者は、通常、販売される最終製品の顧客情報や購入傾向などの情報は得られません。しかし、トレーサビリティシステムを整備することができれば、原材料生産者や加工メーカーでも、最終消費者や中間業者の情報にアクセスできるようになり、顧客情報や購入傾向などの分析が可能になります。関わっているすべての事業者が、最終消費者の情報を把握することで、より精度の高いマーケティングが可能となり、顧客満足度の高い製品やサービスの提供につながります。

    トレーサビリティシステムが抱える課題

    さまざまなメリットがあり、必要性も高いトレーサビリティシステムですが、課題もあります。
    完璧なトレーサビリティシステムを実現するためには、原材料や部品などの生産者、加工業者、物流業者、卸売業者、小売業者など、携わるすべての事業者が連携しなければなりません。そのためには、実際に全事業者が連携し、機能するシステムを構築することが必要です。
    バリューチェーンのどの部分を担う事業者であっても、複数の製品やサービスに携わり、複数の取引先を持っており、統一ルールや基準をつくることに大きな労力と時間が必要になります。
    また、連携してシステムを整備するにあたり、必要となるコストを、誰が負担するかという問題もあります。直接的に利益に結びつきづらいコストは軽視されてしまいがちです。

    最新テクノロジーでトレーサビリティシステム構築のハードルがさがる

    こうした課題を解決する仕組みとして、トレーサビリティシステムにIoTやブロックチェーンなどの最新テクノロジーを用いる方法が注目されています。ここでは、京セラのIoT通信機器を活用してトレーサビリティシステムを構築する場合を例に、なぜハードルがさがるのか解説します。

    京セラのIoT通信機器を活用したトレーサビリティシステムの構築例

    加工食品のトレーサビリティシステムを構築する場合を考えてみましょう。
    加工食品のバリューチェーンを構成する主な事業者には、農家などの原材料生産者、一次加工業者、卸売業者、食品商社、食品メーカー、小売店などがあります。IoT通信機器を活用すれば、これらの事業者から必要な情報を手軽に集め、データベースをつくることができるようになります。

    まず、IoT通信機器を活用するとどのようなことができるようになるのでしょうか。事業者ごとに、一例を紹介します。
    青の矢印はIoT通信機器のセンサーデータの送信、赤の矢印はその他のデータ送信を表します。

    農家
    • ・ハウスに設置し日々の温度や湿度などのデータを収集
    • ・農業管理用のクラウドツールなどとの連携による、収穫日や病害の発生状況など別途収集したデータとの紐づけ
    一次加工工場
    • ・洗浄時の水温などのデータ取得
    • ・輸送時の温度や湿度、移動ルートなどのデータを収集

    食品メーカー
    ・生産ラインの温度や冷凍処理の温度などのデータを収集

    小売店
    • ・輸送時の温度や湿度、移動ルートなどのデータを収集
    • ・店舗の倉庫や商品陳列棚の温度などのデータを収集

    IoT通信機器が収集した情報は、内蔵された通信モジュールによって自動的にクラウドに保存されます。この情報を基にデータベースを構成し、各事業者が備えている各システムで収集したデータを合わせて活用することで、たとえば、消費者が店頭に並ぶ商品のパッケージに印刷されたQRコードを読み込みと、その商品ができるまでの各工程の詳細な情報を閲覧できる、というようなトレーサビリティシステムを構築することが可能になります。

    また、こういった手法に、ブロックチェーン技術を組み合わせることで、記録したデータを改ざん不能にする仕組みについても、研究が進んでいます。

    こういった複数業者間をまたぐトレーサビリティシステムの構築に、京セラのIoT通信機器を活用することが可能です。

    通常、バリューチェーンを構成する事業者は、それぞれ異なる加工ラインや輸送機材、システムを備えています。こうした状況では、機材やシステムを大規模に改修しなければ実装できないような製品は、導入のハードルが非常に高くなってしまいます。大規模な改修なく、後付けで簡単に組み入れることができる京セラのIoT通信機器であれば、どの事業者も、導入に際して社内でのコンセンサスが取りやすくなります。

    京セラのIoT通信機器が開くトレーサビリティシステムの未来

    消費者からの信頼や共感を勝ち取ることの重要性が増している今、トレーサビリティの実現は欠かせない要素になりつつあります。にもかかわらず、事業者をまたぐトレーサビリティシステムの構築は、多くの障壁に阻まれてきました。
    その課題解決に欠かせない役割を果たしているのが、IoT機器です。
    中でも京セラは、長年にわたる国内外通信キャリア向け携帯電話や車載モジュールの開発経験を活かし、手のひらサイズのコンパクトなIoT通信機器を開発しました。
    京セラのIoT通信機器で、透明性と信頼性の高い社会を切り開いていきましょう。

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