N-Sports tracking Lab合同会社様

選手の位置情報を秒間隔で取得してリアルタイム表示。
広大なフィールドで姿が見えなくても、
手元のスマートフォンで健闘ぶりや駆け引きが伝わる――

業種:ソフトウェア業
ニーズ:位置情報を1秒ごとに取得して送信
製品:GPSマルチユニット

N-Sports tracking Lab合同会社導入事例
N-Sports tracking Lab (ニュースポーツトラッキングラボ)合同会社
代表 横井愼也氏
    【背景・課題・ニーズ】
  • ●GPSデバイスを自社で開発できても量産が難しい
  • ●「位置情報を1秒ごとに取得して送信」というスペックを実現できずにいた
    【施策・成果】
  • ●京セラのGPSマルチユニットなら大量生産も可能
  • ●データ収集は1秒ごと、送信は5秒ごと規定

N-Sports tracking Lab (ニュースポーツトラッキングラボ)合同会社が提供する秒間隔のリアルタイム位置情報表示サービス「HAWKCAST(ホークキャスト)」に、京セラの「GPSマルチユニット」が採用されました。その経緯や、デバイスの評価、そして今後の展望などについて、代表の横井愼也氏に話を伺いました。
※2021年11月現在

1秒を争うスポーツの世界。その瞬間を伝え切るデバイスが存在しないから自分で作った

海や河川をはじめ、広大なフィールドを舞台にタイムや技術を競うセーリング(風力を利用するヨットなどの競技)や、ローイング(人間が漕ぐボートなどの競技)。大自然の中、風や波の強さや向き、水流の変化などを予測してのダイナミックな駆け引きが見どころの競技です。

しかし一方で、「選手たちの戦う姿が遠くて分からない」という声も挙がっていました。そうしたなか、元大手SIerのエンジニアであり、現役のウィンドサーフィン選手でもある横井氏は、新たな観戦方法を創り出しサービス化しようと起業。各艇や選手のユニフォームにGPSデバイスを付けて位置情報を取得し、視覚化して観客や大会運営者の元に届けています。

「例えば日本で開催されるウィンドサーフィンの国際大会は、2万人や3万人を動員します。これだけの規模にもかかわらず、観客はレースを肉眼で見られないため、今ひとつ盛り上がっていないと感じていました。そこで選手の位置をデジタルで可視化しようと思いついたのです」(横井氏)

『HAWKCAST(ホークキャスト)』
『HAWKCAST(ホークキャスト)』
イメージ

同様のGPSデバイスはすでに数多く商品化されていたものの、ほとんどが子どもや高齢者の見守りを目的とし、位置情報の取得は数分おきが限度でした。しかしスポーツの世界では、選手たちは1秒を競い合い、その一瞬でドラマが生まれます。

「だから『1秒間隔で位置情報をトラッキングする』を最大のテーマとしました。しかもレースを実況中継するには、データ取得および送信が遅延してはなりません。そんなデバイスは前代未聞でどこにも存在しないため、自分で作ることにしました」(横井氏)

イメージ

こうした背景から「ホークキャスト」を開発。取得した位置情報を基に、選手の移動速度や前後の間隔、コース取り、順位などを解析し、ビジュアルを作成してインターネットに配信。そのため観客は、手元のスマートフォンなどでレース展開の詳細が分かるようになりました。

「リリースして最もうれしかったのは、あるセーリング競技に出場した学生のご両親がスマホを手に『うちの子ここにいる!』と喜んでくれたことです。それまではきっと、漠然と遠くの帆船を眺めているだけだったんでしょうけど、そのときには、健闘するわが子をきちんと確認して応援していたんですよ。そんな喜んでいる姿を見て、達成感を覚えましたね。こうした方々を増やすのが我々の仕事なんだと、あらためて実感しました」(横井氏)

さらに大会関係者の端末には、スタッフの位置情報も表示。海上にいても各自の位置が正確に把握できるので、コース設定のためにブイを置き直したり、船舶が破損した際や負傷時の選手救護が迅速になったりするなど、運営が円滑になると評価されています。

「選手の安全も守りたい。だからこそ信頼できる企業と共に」(横井氏)
「可能性を秘めたパートナー」(京セラ)

GPSデバイスの開発に際し、横井氏は複数のメーカーに相談しました。しかし「非常に高価なハードウェアが必要になる」「前例がないのでコストを計算できない」などと、なかなか前向きな返事は得られなかったそうです。そのような状況のなか、2019年のSATEX(衛星測位・位置情報展)で、京セラと出会いました。

「ちょうど当社ブースの正面に出展していたので相談にいきました。やがて担当の圃中(はたなか)さんとつながり『チャレンジングな案件ですが、過去に似たような事例があるのでやってみましょう』と言っていただきました。そのときは本当にうれしかったですね」(横井氏)

「見えないパフォーマンスを可視化し、スポーツの魅力を向上させるという横井様のビジョンに共感しました。こうした話は立ち消えになってしまうことも多々ありますが、『可能性を秘めている』と感じ、サポートさせていただこうと決めました」(京セラ担当者 圃中)

製品化に至るまでの過程を熱く語る横井氏。
製品化に至るまでの過程を熱く語る横井氏。

こうして京セラのGPSマルチユニットをベースにしたデバイスの開発がスタート。じつはこのとき、京セラはすでに「数秒ごと位置情報を取得して30秒間隔で送信する」というモデルは開発済みで、横井氏の要望には既製品のカスタマイズで応えられると判断していました。

「1秒ごとの位置情報取得は、技術的には問題ありませんでした。しかしLPWA向けLTE Cat.M1は帯域幅が狭く、1秒ごとのデータ送信はデバイスとネットワークに負荷が掛かり、通信の安定という意味でリスクがありました。そこで、1秒ごとに取得した位置情報データを5秒間隔で送信し、横井さま側のサーバーで調整する方針に切り替えたのです」(圃中)

絶えずデータを取得、送信するためバッテリーが消耗するものの、レースに耐えられるよう12時間以上の稼働を実現。しかも小型で、かつ軽さも追求しました。ウィンドサーフィンの大会では、選手が着用するユニフォームの首元にポケットを付けて、そこにデバイスを装着できます。まだ防水仕様ではないため、ジッパータイプの食品用保存袋で密封して選手に渡しているとのこと。

「そもそも京セラさんに任せようと決めたのは、デバイスの質の高さです。レースの正確な記録はもちろんですが、もし選手が負傷したら直ちに位置を把握して救助に向かわなければなりません。そんな緊急性の高い事態が起きたとしても、『京セラの機器なら、確実にデータをクラウドにアップしてくれるから安心だろう』と期待を込めて採用しました。実際に使用して『実績のある企業の製品は信頼できる』と感じさせてくれましたね。また、同じスペックで他社に相談すると既製品のカスタマイズでは済まず、新モデルの開発になるためコストが増えてしまいます。この点でも非常に助けられました」(横井氏)

世界に通用すると分かった今、HAWKCASTを、そして選手としての自分をさらなる高みへ

2021年夏、ホークキャストは4年おきに開催されるスポーツの祭典において、海上で行われる競技の位置情報取得を担うことに。選手が乗る約200艇のデータは世界的な時計メーカーが管理し、審判やコーチ、メディアなどが使うおよそ400艇分は横井氏に任されました。

「『当社のほうが倍のデータを扱っている!』と、グローバルで戦える確信が持てましたね。その後、ほかの国際大会でも実績が出てきて、今では確実に世界で求められていると感じています。しかも京セラのGPSマルチユニットがあれば量産が可能。圃中さんも私の要望に真摯に応えてくださり、実際の野外フィールドでデバイスを検証したと聞きました。『一緒にモノを作る』という姿勢が非常にありがたかったです」(横井氏)

「ロジック上で完成したデバイスが実際に使えるのか、徒歩やランニング、自転車、車の移動で検証し、問題があれば修正、また検証をする…を繰り返しました。京セラの哲学には、自分達がつくる製品は、「手の切れるような製品」でなくてはならないというポリシーがあります。何としても横井さんの要求仕様に応え、広域スポーツにおけるIoTサービスに貢献したい想いで、取り組んできました」(圃中)

HAWKCASTの装着イメージ。ウィンドサーフィンの大会ではユニフォームの首元にあるポケットに装着する。
HAWKCASTの装着イメージ。ウィンドサーフィンの大会ではユニフォームの首元にあるポケットに装着する。
イメージ

そして横井氏は、自らの選手としての可能性もホークキャストを使って高めています。これまで感覚的に捉えてきたトップ選手の位置取り、風の読み方、レースで仕掛けるポイントなどを視覚化し、自分の動きと比較して日常的に改善。タイムも短縮して国内のアマチュア部門で3位にランクインし、ワールドチャンピオンやプロへの道も視野に入れています。

「私の研究が後輩の役にも立てたらいいですね。がむしゃらに練習するだけでは勝てない時代を迎え、欧米ではスポーツにおいてデータが重視されています。競技者は自分の結果を可視化して現状を知り、ギャップを分析してPDCAを回していくことが重要になりました。日本はまだ気合と根性の体質が抜けきらないので、小回りの効く我々が技術的に支援できればと思っています」(横井氏)

イメージ

水上スポーツで手ごたえを感じた今、横井氏は陸上の競技にもホークキャストを導入できないか模索しています。トライアスロンやマラソンもその一つで、選手の位置を正確に把握できるうえ、大会のために道路を閉鎖する時間も細かくコントロールできるようになると考えています。

さらにスポーツ以外では、例えばツーリング客がGPSデバイスを携行することで、宿泊施設は彼らの到着に合わせて作りたての温かい料理や飲み物を用意できます。また、海外からの旅行客にトラブルがあってもすぐに居場所を特定できるなど、ホークキャストの可能性は広がりつつあります。

「社名の頭にあるNは、正式にはギリシャ文字のν(ニュー)で『今までにない新しいものを自分で作っていこう』という思いを込めました。あとは大好きなロボットアニメの中で、主人公が開発・搭乗した機体にもνの文字が入っています。私もウィンドサーフィンのいわばパイロットです。自分で装置を作り、自らを高めていけるよう、これからも取り組んでいきたいですね」

京セラ担当者より

通信機器事業本部 IoT営業部 IoT営業課 1係責任者 圃中 成一郎
通信機器事業本部 IoT営業部 IoT営業課 1係責任者
圃中 成一郎

IoTやDXが登場して久しい中、横井様は新しい発想で一つのデバイスを生み出しました。当社では、実際の制作はエンジニアが担当しますが「このIoT 機器をどう展開させていくか」を考えるのは私の仕事です。こうした意味で今回のご依頼は好奇心やモチベーションを高めてくれて、純粋に楽しかったです。

また、横井様のような姿勢の会社は仕事に対して真剣で、エンタープライズの企業には考えられないようなアイデアもお持ちです。我々もデバイスメーカーとして、可能性のあるサービスを提供しようと考えている方々と組み、スモールスタートで一緒にチャレンジしていけたらと願っています。もちろん、求められる仕様にデバイスを高めていくので、ぜひWin-Winの関係を築きましょう。

お客様の概要

社名 N-Sports tracking Lab 合同会社
本社所在地 〒238‒0004 神奈川県横須賀市小川町19‒5 富士ビル3階 16Startups内
事業内容 秒間隔リアルタイム位置情報表示サービス「HAWKCAST」の開発・提供
WEB サイト https://n-sportstracking-lab.com/
※LTEは、ETSIの商標です。
※その他の社名および商品名は、それぞれ各社の登録商標または商標です。

こちらの事例に関連する商品

IoTで手軽にトラッキング
GPSマルチユニット

内蔵のGPSと3つのセンサーで人・物の位置追跡や状態監視が手軽に実現できます。
ご利用いただくシーンにあわせた、柔軟なカスタマイズを想定して設計されています。
GPSマルチユニット

詳細情報へ

導入事例TOPへ戻る