少子高齢化が加速し、労働力の減少や消費・経済力の低下が大きな課題となっている日本。その一方で、近年は地球規模で気候変動が進み、各地で甚大な被害を引き起こしている。原因の1つとされるCO2の排出量削減などの環境問題も喫緊の課題といえるだろう。
山積する課題を解決し、誰もが住みやすく、持続可能な社会をつくるためにはどうすべきなのか。その切り札となるのが「スマートシティ」である。効率的な都市管理が実現すれば、ガスや電気、水道といった公共インフラの効率的な運営が可能になり、環境に配慮した持続可能な社会を実現できるからだ。
例えば、街全体で電気の使用量を管理することもその1つ。昼間の明るい時間帯は、電気をあまり使わないと自動で判断し、太陽光発電による蓄電やその分の電気を公共交通機関に使う。街を走る自動車それぞれが街のネットワークとつながり、渋滞を自動で判断して迂回ルートを選択するなど、生活にかかわるすべてのものが互いに作用し合い、無駄なエネルギー消費を抑える。こうした積み重ねで、環境に配慮した持続可能な社会を実現することができるわけだ。
もちろん、道路や公共交通機関などの混雑状況などを可視化すれば、住む人の利便性も向上する。スマートシティは、私たちの生活をさらに豊かにし、便利で暮らしやすい社会の実現にもつながっているのである。
京セラが注力する4つの重点市場
スマートシティの実現に向け、既に多くの企業が様々な施策を進めている。その中でも積極的な取り組みを見せる企業の1つが京セラだ。「当社では、クルマを中心に人やモノの移動の自動化・最適化を実現する『モビリティ(自動車関連)』、太陽光発電や蓄電池、燃料電池などの『環境・エネルギー』、健康増進や医療・介護の高度化に貢献する『医療・ヘルスケア』、そしてこれらの運用を支える『情報通信』を重点4市場と位置付け、様々な技術や製品・サービスの開発にチャレンジしており、各市場におけるスマートシティの実現に向けた取り組みも行っています」と同社の福島 勝は語る。
まず環境・エネルギー市場では、経済産業省が実施する「バーチャルパワープラント(VPP)」構築実証事業に参画。VPPは蓄電池や再生可能エネルギー発電設備などの分散型エネルギーをIoT技術で遠隔・統合制御し、仮想的に1つの発電所のように機能させる技術である。京セラは第1次オイルショック以降、地球環境問題とエネルギーの重要性をいち早く認識し、太陽光発電システムの開発・製造に力を入れてきた。その中で培った豊富な実績と技術を生かし、電力の見える化など、高度なエネルギーマネジメントシステムを構築して蓄電技術を組み合わせ、VPPの実現に貢献している。
自動車関連市場においては、公道での自動運転を支援する路側機「Smart RSU(Smart V2I RoadSide Unit)」を開発中だ。位置情報を基に信号の今の状態を正確に予測し、交互通行区間への優先権処理を行う。JR東日本らが実施する同社管内でのBRT(バス高速輸送システム)の実証実験に京セラはこの技術で参加しているという。
医療・ヘルスケア市場では、テレビ電話や健康機器と連携した健康管理プログラムのシステムを提供したり、高齢者世帯の見守りサービスなどを提供している。最近では世界初※となる「糖質ダイエットモニタ」の開発を進めている。食事による脈波パターンの変化を利用して糖代謝状態を推定しスマートフォンで確認することができる。これが商品化されれば食事による健康管理、糖質制限ダイエット管理、糖尿病予備軍チェックなどを自分で簡単に行えるようになるわけだ。
糖質ダイエットモニタをはじめとするヘルスケア製品やサービスも「人々の生活の質の向上に貢献する」というものであり、それはスマートシティの重要な1つの要素である。
そして最後の情報通信市場の通信に関しては、アナログ第1世代から携帯電話端末を開発・提供しており、第2世代以降は基地局やシステムの提供も開始。海外向けにワイヤレスブロードバンドシステムも開発・提供するなど、長年に渡る事業経験の中で様々な要素技術の向上に努め、多くの人材やノウハウを蓄積している。
※京セラ調べ(2019年10月15日現在)。ジャイロセンサを用いた橈骨動脈脈波センサとして
長年培った通信技術で「ローカル5G」を実現
4つの重点市場の中で、特に“つなぐ”を支える「通信」は重要な役割を担っている。2020年春に「第5世代移動通信システム」(以下、5G)の商用サービスが開始されるからだ。
5Gは既存の4G(LTE)をはるかに凌ぐ超高速通信と低遅延、多地点同時接続を実現するモバイル通信規格。高精細な動画データもよりスムーズに視聴でき、高速移動時でも途切れることなく安定した通信が可能になる。大量のIoTデバイスのデータもリアルタイムに処理できる。スマートシティの可能性を広げる新しい社会インフラとして期待が高まっている(図1)。
図1 5Gで広がるスマートシティの可能性
5Gはこれまでのモバイル通信をはるかに上回る超高速・低遅延な通信を実現し、様々なモノもネットワークにつながる。
環境に配慮したエネルギーの安定供給、暮らしを豊かにする生活支援サービス、子供や高齢者の見守りサービスなどが可能になる
しかし、5Gは電波の特性上、広範なエリアをカバーすることが難しい。この課題を補完するため、京セラは自営の5G網を実現する「ローカル5Gシステム」を開発・提供していく考えだ。これは新しい通信規格に沿って、工場やオフィス、イベント会場など限られたエリアのネットワークを5G化するもの。「これをコミュニティのネットワークに活用すれば、様々な地域で先進的なスマートシティの取り組みが加速します」と福島は語る(図2)。
図2 教育シーンでのローカル5Gの活用イメージ
AR/VRを活用した教材を利用すれば、分かりやすく臨場感のある授業を行える。他校の教室をつなげば遠隔授業も可能。
教師不足に悩む学校でも、生徒は質の高い授業を受けられる
このローカル5Gと併せて、5Gの価値をフルに引き出す「5Gコネクティングデバイス」の開発にも注力している。これはIoT機器のデータを受け渡しする5Gコネクティングデバイス内でデータを処理するエッジコンピューティング機能を実装することで、センター側のシステムに伝送するデータ量を最適な形へ減らし、処理を分散するもの。通信のリアルタイム性・安定性が大幅にアップし、サービスの付加価値が向上する。さらに、センター側のシステム(主にクラウドを想定)で保管すべきデータ量を減らすことになり、サービスコストを下げることも可能だ。「どのようなデバイスをコネクティングし、どんなサービス提供が可能になるか。多様なパートナーとの連携による開発と検証を進めています」(三輪)。
オープンイノベーションで新価値創出に挑む
地域の人々に寄り添う身近なところからスマートなサービスを提供する。スマートシティの第一歩はそこから始まると京セラは考えているという。「まずは街や村といった小規模な単位で労働力不足を補い、高齢者や障がいがある人にも優しいコミュニティをつくる。小さな取り組みが広がりを見せ、コミュニティ同士がつながっていけば、自治体レベル、さらに日本全体のスマート化が可能になるでしょう」と福島は先を見据える。その点、ローカル5Gなら、小さな単位からでも始めやすい。
ローカル5Gとコネクティングデバイスを活用して次世代のスマートシティをつくる。この実現に向け、京セラは戦略的な構想も持っている。例えば、先に紹介したVPPにローカル5Gとコネクティングデバイスを活用すれば、電力の需給バランスをより速く、正確に把握でき、一層安定的な仮想発電所の運営ができる可能性を視野に研究を進めている。
BRTを支える路側機についても、信号機情報に加え、車載カメラがとらえた人や自動車などの情報も付加し、危険回避能力を高めていくことも可能だ。「大容量のデータ送信を超高速かつ低遅延で行えるようになれば、安全レベルとサービスレベルのさらなる向上につながります」と三輪は期待を寄せる。
どんな環境にも左右されず、安定して途切れないネットワークが実現すれば、大きな病院のない地方都市でも高度な医療サービスを受診できる遠隔医療の可能性も広がるはずだ。
こうした未来に向けた取り組みのために、組織や体制の整備も進めている。その象徴ともいえるのが、2019年7月より稼働を開始した「みなとみらいリサーチセンター」だ。グループのシナジー効果を高めるため、組織横断的な連携を数年以上前から加速。その一環として、先の重点4市場を担う研究開発部門や事業部門をこのセンターに集約したという。
「新しい技術や先端ソフトウエアの開発体制を強化するとともに、ローカル5Gを活用したスマートシティの取り組み、これを支えるコネクティングデバイスの開発を推進し、企業の枠を越えたオープンイノベーションにも積極的に取り組んでいます」と福島は話す。
このように京セラは重点4市場を中心に革新的な技術・サービスの開発を進め、社会課題の解決と誰もが快適かつ安全・安心に暮らせるスマートシティの実現に貢献していく考えだ。
この記事は、日経BPの許可により、2019年11月14日から12月11日まで「日経ビジネス電子版SPECIAL」に掲載された広告から抜粋したものです。
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