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Interview

仮想の発電所として
住宅同士をつなぎ、
エネルギー問題の解決に挑戦

Environment & Energy
Introduction

「家庭でつくる電力」に着目し、
地域に根ざしたクリーンエネルギーを

持続可能な社会のあり方を目指す「SDGs」でも言及されているように、再生可能エネルギーを生産・活用していく姿勢は、いまや国際社会の共通認識となっています。特に諸外国と比べエネルギー資源の乏しい日本では、エネルギー自給率を高めるための技術革新が喫緊のテーマの一つ。生活に必要な電気を自らつくり出し、家庭で使うエネルギー量との収支をゼロ以下にする「ZEH(net Zero Energy House)」も注目されています。約半世紀前から太陽電池の開発に着手し、その後、太陽光発電システムや蓄電池の開発を行ってきた京セラでは、この各家庭でつくられている電気に注目。その効率的な利用を目指す「VPP (Virtual Power Plant / 仮想発電所)」のリソースアグリゲーター(※1)として、実証実験に取り組んでいます。

※1需要家(電気の供給を受けて使用している者)とVPPサービス契約を直接締結し、蓄電池や燃料電池、発電機などの分散型エネルギーリソースの制御を行う事業者

Technology Data

VPP (Virtual Power Plant / 仮想発電所)

分散型エネルギーリソース(蓄電池や再エネ発電設備など)を、IoTを活用した高度なエネルギーマネジメント技術によって遠隔・統合制御し、仮想的に一つの発電所のように機能させる技術・仕組み。京セラは安定かつ適切なエネルギー需給の構築を目的とした経済産業省の実証事業に参画しています。

01

太陽光発電システムや蓄電池分野の実績を生かし、
日常生活も、災害時も支えていく

「VPP」とは自家発電機能を備えた工場や住宅などをネットワークでつなぎ、あたかも一つの発電所のように機能させる技術のこと。つながった蓄電池や燃料電池、発電機などの電力リソース制御を担うリソースアグリゲーターとなるべく、「VPP」事業の実証実験を担当する先進技術研究所スマートエナジーシステムラボの皆さんに、お話を聞きました。
  • 課責任者
    研究開発本部
    先進技術研究所
    スマートエナジーシステムラボ
  • 開発担当者
    研究開発本部
    先進技術研究所
    スマートエナジーシステムラボ
  • 開発担当者
    研究開発本部
    先進技術研究所
    スマートエナジーシステムラボ
  • 私は昔から環境問題に関心があり、大学でも再生可能エネルギーの研究に取り組んでいました。太陽光発電システムを他のメーカーに先駆けて開発していた京セラに対しては、デバイスという「根」の部分からエネルギー問題解決に挑んでいるという印象を持っていて、自身の関心事にも合致すると思い、入社を決めました。「VPP」は、長年培ってきた発電・蓄電のノウハウを生かし、それを発展させていくような事業だと考えています。

  • そうですね。京セラはエネルギー問題を解決するためのソリューションとして、1975年から太陽光発電システムの開発に挑み、それを社会に広げることを目指してきました。ただ、研究・開発を始めた当初は「再生可能エネルギー」や「自家発電」に対する社会の認識はまだ低く、かなり苦戦したと聞いています。住宅で電気をつくり、ためられるということを周知し、役立てていただくきっかけとなったのは、東日本大震災とそれに伴って発生した原発事故。電力不足による計画停電などを経験したことから、停電・節電対策の一つとして住宅に太陽光発電システムを付ける人が増えました。

  • まず太陽光発電システムが広がって、蓄電池に注目が集まり始めたのはその後ですよね。家庭では日中、電力消費が減って、夜間に増えるのが一般的。一方で太陽光発電システムの発電量は日中が中心で、天気や時間帯によっても左右され、一定ではありません。そのため自宅で発電した電気を、好きな時に必要な分だけ取り出して使える蓄電池が必要だというニーズが高まってきたんです。そんな社会の流れを受け、京セラは住宅用蓄電システムの開発に着手。2012年に太陽光発電連係型リチウムイオン蓄電システムの販売を開始。2019年にはクレイ型リチウムイオン蓄電池を搭載した蓄電システム「Enerezza®(エネレッツァ)」を製品化。徐々に、蓄電池が一般家庭にも普及していくようになりました。

    • 「Enerezza」、「エネレッツァ」は京セラ株式会社の登録商標です
  • 現在、京セラが「VPP」事業に取り組めているのも、太陽光発電システムや蓄電池の一般普及に尽力されてきた人たちがいたからこそなんですね。

  • 時代の流れとともに増えてきた、「太陽光発電システムや蓄電池などを所有する住宅」という「点」同士を「線」でつなぎ、自宅でつくったエネルギーを宅内だけでなく社会全体で効率よく使おうというのが、「VPP」事業の目的。端的に言えば、各家庭の発電・蓄電システムを電力網でつないで、余っている家庭から足りていない家庭へ電気を届ける「仮想の発電所」と表現できます。このように「VPP」を効率よく機能させ、全世帯にエネルギーを行き渡らせることが、私たちのミッションです。京セラでは、2016年から「VPP」の実証実験に乗り出しており、実際の住宅などに設置された太陽光発電システムや蓄電池を京セラの「VPPネットワーク」でつなぎ、実際に電力供給量を調整する試験もスタートしています。

  • 先ほども述べたように、住宅で使われる電力量というものは常に変動していて、留守が多い日中は電力使用量が減りますし、家に人がいて電気を使う機会が多い夜間や、寒い日、暑い日などは使用量が増えます。通常の電力会社では、時間帯別の電力使用量に合わせて、電力供給を変動させています。私はそのような使用量の変化を予測し、どの家庭も電気が不足しないように、しかも無駄も出さないように、供給量を調整するアルゴリズムの開発を担当しています。

  • 家庭に電気を届ける試験フェーズに入って、新たに見えてきたことなどはありますか?

  • やはり生活に必要不可欠な電力を制御する立場として、大きな責任を感じますね。こちらの予測精度が甘いと、「VPP」を利用してくれている家庭に迷惑がかかってしまうわけですから…。その分、AIを駆使して適切な供給量を予測し、ぴたっと必要な量に調整できたときはすごくうれしいです。グラフを見ながら「やった!」と感じる瞬間ですね。

  • 生活インフラに関わる電力供給を担うことって、本当に大きなテーマですよね。私は、電力供給網の需給調整向けのVPP技術研究を担当しているので、その責任の重さを日々感じています。今は試験段階とあって、「VPP」で制御している分散型エネルギーリソースの数は限られていますが、実用化に当たっては、その数を何万という規模まで増やしていく必要があります。ただ、家庭に設置されている太陽光発電システムや蓄電池などが、「VPP」に対応できる性能を持ったものばかりでないのも実情。京セラでは、より多くの発電・蓄電システムを「VPP」につないでいくために、機器の性能を上げる研究にも奮闘しています。

  • 現在は、大規模な発電所が担っている電力供給を、数の力で賄おうというのが「VPP」の考え方ですから、ネットワークにつなげられる発電・蓄電システムを増やす、という技術開発も実用化に向けた大切な一歩ですね。住宅という名の小さな発電所がバーチャルにつながりつつも、物理的には分散しているという「VPP」の特徴は、防災の観点から見ても優れています。これまでは、大きな発電所が災害などで被害を受けると、その電力網内にある多くの地域は停電を余儀なくされていました。そういった意味で、「VPP」は究極のリスク分散型の電力インフラシステムだと思うんです。

  • その通りですよね。「VPP」は日々の電力供給によって、暮らしに寄り添う技術であるのと同時に、災害大国ともいわれる日本の安全を守るための強力な防災ソリューションでもあります。だからこそ、「誰かを支える技術開発を行っているんだ」というやりがいを感じながら、研究に取り組むことができています。

02

再生可能エネルギーの「地産地消」が
地球環境の保全にもつながっていく

日々の生活にも、いざというときの防災にも役立つ「VPP」。使用する電気が自宅の太陽光発電システムなどによってつくられた「再生可能エネルギー」であることも、「VPP」の特徴の一つです。サステナブルな未来に向けて、「VPP」を普及させる意義を語っていただきました。
  • 「VPP」は、日々の生活や防災など、「現在」をより良いものに変えるソリューションであることはもちろん、地球環境保全という「未来」の視点から眺めても、すごく魅力的な技術だと思うんです。

  • サステナブルな生活のかたちとしてよく取り上げられる「地産地消」を、エネルギーの分野でも行っていける技術ですよね。「VPP」で制御する電気自体、元は太陽光などからつくられた再生可能エネルギー。化石燃料に頼りすぎない、エネルギー需給の新しいスタンダードになればと思っています。

  • 「脱炭素」は全世界で取り組むべき課題として、私たちの目の前に迫ってきていると感じています。このような時代の中で、「VPP」を私たちの暮らしにとって当たり前のものにしていきたいです。

  • プロジェクトの全体像を取りまとめている立場として、「VPP」が越えるべき次なる壁は何だと思われますか?

  • 試験運用で各種データも集まってきているので、技術としては実用化にかなり近づいていると思います。ただ「VPP」は、太陽光発電システムと蓄電池などの設備を備えた住宅があってこそ生きる技術。それらの導入コストを「高い」と感じられている家庭もまだ多いと思うので、導入のしやすさも追求していきたいですね。

  • 「VPP」が脱炭素の大きな一手となり、地球温暖化やそれに伴う気候変動、食糧難を防ぐことへと、将来的につながっていけるといいなと思います。次世代を担う子どもたちが、笑顔で安心して暮らしていける未来の一助になると信じて、これからも研究に向き合っていきたいです。

Message

「過去」から「未来」へ、
連綿と受け継がれていく技術のバトン

長年、京セラがメーカーとして普及に取り組み、徐々に一般化が進んできた太陽光発電システムや蓄電池。「VPP」はこれらの実績を土台に、エネルギーの未来をつくる事業です。さまざまな企業でさかんに研究が行われている「VPP」分野において、京セラのアドバンテージとなるのは、まさにこの「土台の強さ」。先人たちが築いた機器に対する知見やノウハウ、社会問題解決に向けた熱意といった「これまで」のバトンを、現在のチームが受け取り、「これから」のエネルギーのあり方を見据えて、技術探求を進めていきます。

Interviews

インタビューで紐解く、京セラの挑戦と未来