高齢者の移動問題を解決に導いた先進的なDX事例
「まちのクルマアプリ」と京セラ製タブレットによる、新しい交通支援のかたち
イツモスマイル株式会社様
高齢者の移動問題を解決に導いた先進的なDX事例
イツモスマイル株式会社様
高齢化が進む地方社会で欠かすことができない交通支援。そのあり方が、いま大きく変わろうとしています。イツモスマイル株式会社が提供する「まちのクルマアプリ」は、地域の移動をより便利で快適にするアプリ。高齢者や交通困難者のサポートはもちろん、サービス提供側の業務負担も軽減する仕組みが特長です。地方の移動問題をデジタルの力でスマートに解決する試みとして、「Digi田(デジでん)甲子園2023※2」で内閣総理大臣賞を獲得し、全国的にも注目されました。今回はイツモスマイル デジタルソリューション事業部の駒形氏に「まちのクルマアプリの取り組み」と「京セラ製品を活用した今後の展望」について伺います。
徳島県の中山間地域に位置する神山町。ここで今、革新的な交通DXが進められています。その中核を担っているのが、「まちのクルマアプリ」。開発を手がけたのは、徳島県を拠点に介護・福祉サービスを幅広く展開するイツモスマイル株式会社です。同社は2022年にデジタルソリューション事業部を立ち上げ、デジタル技術を活用して高齢者の暮らしを支援する取り組みを本格化させています。
神山町は高齢化と人口減少が進む過疎地域です。町民の移動を支えてきたのは1974年から運行していた町営バスでしたが、利用者の減少を受けて2023年3月末に廃止されました。代わって導入されたのが、町独自の交通制度「まちのクルマLet’s」。地元のタクシー会社と連携し、家の軒先から目的地まで安価に移動できるオンデマンド型の公共交通サービスです。「バス停まで遠くて使えない」「免許を返納したら病院にも行けない」といった町民の声に応えるかたちでスタートしました。
そして、この新制度を地域に根づかせ、住民にとって本当に使いやすいものにするために、神山町役場とともに並走してきたのがイツモスマイルです。
「一人ひとりがどんな課題を抱えているのか、暮らしの実態を理解するところから取り組みました。どんなシステムやツールなら現場で実際に使っていただけるのかを検討し、仕様の確定に1年、開発と実装に半年かけました」(駒形氏)
開発過程ではプロトタイプを作成し、実際に町民やタクシー会社・自治体のスタッフに使ってもらいながら使用感を確認。得られたフィードバックをもとに何度も調整を重ねていったと駒形氏は話します。
「地域の方と一緒につくる、という意識を常に持っていました。それは、きちんと『使えるもの』を届けたかったから。少しずつマイナーチェンジを繰り返しながら、完成形に近づけていきました」(駒形氏)
「まちのクルマアプリ」は、①予約する、②予約を受け付ける、③乗車する、④運行する、⑤データを見る、という5つの基本機能を備えたアプリです。スマートフォン1台あれば移動手段が確保でき、高齢者にも迷わず使えるシンプルなUXが特長。さらに、サービス提供側であるタクシー会社や自治体の業務負担を減らす工夫も随所に盛り込まれています。
「自治体の職員も日々の業務で手がいっぱいです。そこに新たな業務が加わるとなると負担が増えてしまう。しかも人口減少が進む地域では、職員数も減らしていかなければならない現実がある。だからこそ、できるだけ効率的に使える仕組みであることが重要でした」(駒形氏)
アプリ導入前、特に手間がかかっていたのが利用履歴の管理業務でした。利用者の乗降記録は紙で運用され、自治体とタクシー会社がそれぞれ目視で確認するという、二重チェックが日常的に行われていたといいます。この状況を改善するため、イツモスマイルはマイナンバーカードを活用した仕組みを導入。予約・利用履歴の管理・補助金の精算までをデータで一元管理できるようにしました。
「開発段階では自治体の担当者と何度も話し合い、小さな不満や現場の困りごとまで丁寧に拾いました。システムで解決できることはすべて盛り込んでいます。結果的に紙の記録が不要となり、補助金の精算業務も格段にスムーズになったと聞いています」(駒形氏)
町民とサービス提供者の双方にとっての使いやすさを徹底したこのアプリは、導入から1年で町民の半数近くが利用するように。バス・タクシーチケットの利用実績は、以前の町営バス、高齢者タクシー助成の利用者に比べて184%※1に増加し、まちの移動の活性化に大きく貢献しました。
こうした成果が高く評価され、「Digi田(デジでん)甲子園2023※2」で内閣総理大臣賞を受賞。
「地域の生活にしっかりと根づいた現場発のデジタルソリューションとして評価されたのではないかと思います。地域の皆さんと一緒につくってきたアプリが、こうして評価されるのはとても嬉しいですね」
こうして開発された「まちのクルマアプリ」は各社のスマートフォンでの利用が可能です。乗客がマイナンバーカードをドライバーに手渡し、ドライバーのスマートフォンで認証を行います。しかし、ドライバー自身の高齢化も進む中、「読み取り位置がわかりにくい」「読み取りに手間取って乗客を待たせてしまう」といった課題も聞かれています。またマイナンバーカードを手渡す乗客側の心理的なハードルも否定できません。そのような中で、駒形氏は京セラ製NFC搭載タブレットの存在を知ります。
京セラ製タブレット「DIGNO® Tab2 5G」は外付けリーダーが不要で、前面NFC読み取り機能を搭載した法人向け5Gタブレット。読み取り位置を示すガイドを画面上に表示できるため、利用者は画面のどこにカードをかざせばよいかを把握できるので、スムーズに読み取りできます。
「まちのクルマアプリ」に京セラ製タブレットを組み合わせることでさらなる利便性向上につながるのです。また、こういった製品の機能性に加えて、京セラのエンジニアと直接コミュニケーションを取りながら、アプリとの相性や現場の要件を細かく相談できる点も、大きな安心材料になっていると言います。
「公共交通を支える以上、トラブルや不具合は許されません。『なぜ動かないのか』をすぐに検証・対応できる体制があることは、運用の安定性につながります。相談できる相手がいるかどうかで、現場の安心感はまったく違いますね」(駒形氏)
「まちのクルマアプリ」の運用が始まって3年。イツモスマイルは日々寄せられる利用者の声をもとに、細やかな改修を続けています。
「地域の声に耳を傾けながら、現場の負担を減らし、利用者の方がもっと自由に移動できるようサポートしていきたいと考えています。これからは京セラのタブレットを活用しながら、より良い環境をつくっていきたいですね」(駒形氏)
イツモスマイルの強みは、あらかじめ決まった仕組みを提供するのではなく、地域ごとの実情や課題を丁寧に聞きとりながら「本当に使える仕組み」を構築していく姿勢にあります。こうしたアプローチを取っているからこそ、地域によって異なるニーズにも柔軟に対応できるのだと駒形氏は話します。
「神山町でつくった仕組みは、他の自治体にそのまま横展開できるわけではありません。現在も他の地域で実証実験を行っていますが、それぞれの自治体が抱える課題を把握し、丁寧にチューニングしていく必要があります。ただ、神山町での経験によってノウハウも蓄積されており、以前より短期間での開発も可能になっています。また、端末のプロである京セラが後ろにいてくれるのはとても心強い。運用体制を説明する場面でも、『安心してください』と自信を持ってお伝えできます」(駒形氏)
これからも「まちのクルマアプリ」は、地域交通を支える存在として進化を続けていくでしょう。地方の交通課題をデジタルの力で一つずつ解決していく。イツモスマイルの挑戦に、今後も注目が集まります。