THE NEW VALUE FRONTIER
D&I TALK社員座談会

現場で育まれる、多様性の輪

国分工場の前で手話で対話する社員たちの写真

京セラの工場のなかでも国内最大規模を誇る、鹿児島国分工場。ここで製造された製品を全国に送り出す役割を担っているのが、物流課です。物流課では年齢や性別、障がいの有無など、互いの違いを理解し、活かし合いながら働ける環境を整えようと、数年前からさまざまな取り組みを実践しています。課のメンバーは、全員で38名。そのうち5名が聴覚障がいを持つ社員です。また、全体の16名が女性で、うち11名が育児との両立をしています(2021年3月現在)。今回は、その物流課に所属する7名で座談会を開催。D&I実現をめざすために必要な考え方や具体的な取り組み、社員同士のつながりの大切さについてお話を伺いました。

MEMBER

座談会参加メンバー

  • 堀之内 三男さん

    国内物流部の責任者。女性登用や障がいのあるメンバーとのコミュニケーション促進に積極的に取り組んできた。課のメンバーを見守るお父さん的存在。

  • 松元 里美さん

    課責任者。ダイバーシティ推進委員。ダイバーシティ関連のセミナーや、物流事業部の女性責任者が集まる「なでしこ会」に参加し、課内で情報を共有している。

  • 中山 由紀さん

    副係責任者。課内手話担当として、メンバーと協力しながら手話を学び、現在手話技能検定に向けて勉強中。

  • 楠原くすはら さおりさん

    班責任者。課内のコミュニケーションを円滑にするため、手話を習得中。女性責任者として活躍しているうちの一人。

  • 瀬戸口 浩二さん

    班責任者。ろう学校を卒業後、1988年に京セラに入社。聴覚障がいを持つ後輩メンバーの指導にも主体的に取り組む。

  • 四枝よつえだ 直樹さん

    業務支援を担当。聴覚障がいが有りながらも話せることを活かし、障がいを持つメンバーと健聴者メンバーとの橋渡し役として活躍している。

  • 徳永 強さん

    納品管理を担当。聴覚障がいを持つメンバーのなかでも一番の若手。「デフ・ファミリー会議」の名付け親。

TALK-01

国分工場では聴覚障がいを持つ方と、健聴者メンバーの交流を活発化
するために、どのような取り組みを実践されているのでしょうか?

松元:
毎日行っているのは手話を取り入れた挨拶運動です。聴覚障がいを持つメンバーが考えた「今月の手話」と、「おはよう」「ありがとう」「お疲れ様でした」という手話を、朝礼時にみんなで練習しています。また、若手社員が手作りした手話のテキストを使い、毎週木曜日に手話勉強会も行っています。
堀之内:
毎月第一稼働日には、聴覚障がいを持つメンバーが中心となった「デフ・ファミリー会議」を開いて、業務を行う上で困っていることを責任者である私と共有し、解決方法を話し合っています。
楠原:
私と中山さんは、課内の手話担当として手話を勉強中。コミュニケーションをスムーズにできるよう、日々頑張っています。
TALK-02

たくさんの取り組みは、どういった経緯で実施に至ったのでしょうか?

瀬戸口:
私が入社した30年前は、主に筆談で会話をしていました。筆談はコミュニケーションスピードが遅く、感情を共有できないのが難点。情報がうまく伝わらないと業務上のミスにもつながりますし、周囲の人にも手話を覚えてもらいたいと考えるようになりました。そこで、手話教室を開けないかと会社に直談判してみることに。上司も理解を示してくれて、2006年頃実施するようになりました。この時から少しずつ、聴覚障がいや手話に対する理解が進んで、みんなで手話を学ぼう!という空気が広がっていったことを覚えています。現在のように、たくさんの取り組みを行えるようになったのは、堀之内さんのご協力のおかげです。
堀之内:
私は2014年に国分工場に赴任してきたのですが、赴任直後、聴覚障がいを持つメンバーが全員とても明るく、朗らかなことに驚きました。例えば僕の歓迎会でカラオケに行ったときのこと。歌ったり、聞いたりできないのに、彼らはとても楽しんでくれたんです。これが本当に嬉しくて……。こんな素敵な部下たちと会話ができないなんてもったいない、なんとか交流を深めたいと思うようになり、取り組みを推進していくようになりました。
瀬戸口:
みんなが積極的に手話を学ぼうとしてくれるのは、本当にうれしいことです。挨拶運動は、確か自然と始まった取り組みでしたよね?
四枝:
そうですね。特に何か決めたわけではないのに、いつのまにか皆が挨拶に手話を付けるようになったんです。日常に手話を取り入れる雰囲気が自然と広がったことは、素晴らしいと思っています。朝礼でやっている「今月の手話」も、健聴者の若手から「もっと手話を学びたい!」という声が上がって始まった取り組みです。
手話通訳を入れた座談会の様子の写真
堀之内:
この良い流れを止めないために、細かな問題点を洗い出そうという観点で始まったのが、「デフ・ファミリー会議」。会議では、聴覚障がいを持つメンバーが業務を行う上で困っていることやお願いごと、連絡事項などを話し合っています。僕はこの集まりを最初「聴覚障がい者会議」と名付けていたんですが、あまり良い響きではないと感じていて。それで、徳永くんに名前を考えてもらうことにしました。
徳永:
堀之内さんにお声がけいただいて「デフ・ファミリー」という名前を考えました。聴覚障がい者中心の会議ではあるんですが、その内容を健聴者のメンバーにも共有して、皆で課題に取り組んでいく。そんな連帯感を表したくて、聞こえない・聞こえにくい人を表す「deaf」という言葉に「family」という言葉を組み合わせています。
四枝:
「デフ・ファミリー会議」があることで、困っていることを遠慮なく発信し、改善方法を提案できるようになりました。直近では会話を文字起こしする文字認識ツールを導入していただき、会議内容の把握が容易になりましたね。
社内で手話によるコミュニケーションを取る様子の写真
TALK-03

こういった取り組みを、職場の皆さんはどのように受け止めていらっしゃいますか?
また、取り組みを通じて、どんな変化が起こっているのでしょうか?

中山:
元々手話を学びたいと思っていたので、こういった取り組みが始まるのは嬉しかったですね。手話ができるようになったことで、聴覚障がいを持つメンバーとの距離がグッと縮まり、「こんなことを感じていたんだ!」という相手の思いや考えにも気付けるようになりました。業務もスムーズに進みますし、職場全体の雰囲気が以前にも増して明るくなりました。本当に良い取り組みだと感じています。
瀬戸口:
やはり仕事をする上で、一番大切なのはコミュニケーション。手話が上手でなくても、スピードが速くなくても、手話が全て分からなくても良いのです。伝えようとする心が大切です。そういった心が職場全体に広がったことで、必要な情報がスムーズに手元に届き、より良い仕事ができるようになりました。
楠原:
中山さんや瀬戸口さんの言う通り、手話を学んだことでコミュニケーションの幅が広がりました。業務の話だけでなく、趣味の話などもたくさんできるようになって楽しいです。また、耳が聞こえない方は、目で見て周りの状況を把握されているので、私たちが見逃してしまうようなことにも、気付いてくださることが多いです。こうやって、お互い補い合いながら仕事ができているのも、一連の取り組みがあってこそ。もっと上手に手話で話したいので、わからないことは四枝さんたちに積極的に質問しています。
四枝:
知りたい手話や疑問があれば、いつでも答えられるように受け付けています。健聴者の方々が自発的に参加してくれているのが嬉しいですね。皆で取り組むことで、手話にチャレンジする気恥ずかしさや抵抗感が減りますし、会話が活発になって職場の風通しが良くなったと感じています。
TALK-04

皆さんが楽しみながら取り組みに参加されていることが伝わってきますね。
今後「更にこういったことに挑戦したい!」という目標などはありますか?

瀬戸口:
手話に積極的に取り組んでいるのが今のところ物流課だけなので、この動きを国分工場全体に広げていけるといいな、と思っています。
四枝:
瀬戸口さんがおっしゃるように、工場全体、ひいては会社全体に活動の輪を広げていきたいと思っています。そのためには、この座談会のように障がいについての知識や、障がい者の想いを知っていただける場を増やすことが重要。僕自身も障がいを持っている側の視点を活かして、知識や想いの発信活動を積極的に行っていきたいと考えています。
堀之内:
障がいを持つメンバーとの相互理解も深めつつ、女性がいきいきと働ける職場づくりも、もっともっと進めていきたいですね。物流課の男女比はほぼ5:5で、工場全体でみても女性の比率が非常に高い部署。彼女達の仕事ぶりをずっと見てきて、細やかな気遣いや丁寧さ、仕事に対する真摯な姿勢を感じています。女性社員が長く働けて、しっかり上のポストをめざせる環境を整備するのが、今後の目標です。
TALK-05

「女性の働きやすさ」という言葉も出てきましたが、
実際に責任者として活躍されている女性の皆さんは、いまの環境をどう思われていますか?

中山:
責任者に任命されたときは「私に務まるだろうか?」という不安もありましたが、周囲の女性社員の存在が励みになって、頑張ることができていますね。松元さん、楠原さんをはじめとした女性メンバーが活躍されている姿からは、いつも良い刺激をもらっています。
楠原:
国分工場の物流課には女性社員が多いので、仕事のことはもちろん子育ての悩みなども相談しやすいです。こういった周囲の支えがあるからこそ、責任ある仕事に打ち込みつつ、育児とも両立できているのだと思います。
松元:
楠原さんがおっしゃったように、社員同士の絆が強いのが物流課の魅力。私自身子どもが2人いて、今日は残業ができないな、という日もあります。そういう場面では若い世代の女性メンバーが「代わりにやっておきます」と声をかけてくださるんです。本当にありがたいですし、彼女たちが子育てなどで忙しくなったら、絶対恩返しをしよう!と思えます。こういった支え合いの精神が根付いているからこそ、女性も責任者として活躍できているのではないでしょうか。
TALK-06

国分工場物流課のようなD&Iのかたちを、京セラ全体に広げていくためには、
どのような姿勢や取り組みが必要だと思われますか?

四枝:
私自身は、D&Iという言葉だけにとらわれすぎない方がいいと考えています。障がいの有無や男性・女性など、強調しすぎるとそれが逆に隔たりにつながるので。必要なのは、自分が無意識に持っている思い込みや固定観念を手放して、お互いに理解し合おうと努力し続ける気持ちです。私たちのような障がい者がマイノリティであること、マイノリティが不利な立場に立たされやすい存在であることを、事実と認めた上で、常に考え続ける。その姿勢を持つことに尽きるのではないかと思います。
徳永:
四枝さんがおっしゃったように、障がいや性別に関係なく「みんな同じ人間なんだ」という意識を持つことが必要です。それができれば多様性というものがもっと受け入れられやすくなり、多くの人に広がるのではないかと思います。
堀之内:
多様性を受け入れるためには、やはり相手を思いやり、感謝をする気持ちが大切だと思っています。京セラフィロソフィにある「利他の心」ですね。今の自分があるのは周りのおかげだという意識があれば、お互いの個性を認め合うことができるのではないでしょうか。
社員7人で仲良く座って手話でコミュニケーションを取る様子の写真
TALK-07

ここまでのお話を通じ、一丸となってD&Iに取り組む物流課の強い絆を感じました。
最後に、皆さんにとって国分工場物流課はどんな存在だと言えるでしょうか?

中山:
私は高校を卒業してから、ずっと国分工場で働いてきました。長く続けられているのは、良い同僚と職場環境にめぐまれたからだと思っています。感謝の気持ちを忘れずに、ずっと勤め続けていきたいと思える場所です。
松元:
勢いがあって、活気があって、とても働きやすい場所です。他の工場から異動されてきた社員の方に「いい職場だね」と言ってもらえると、誇らしい気持ちになりますね。
瀬戸口:
障がいがあるからといって遠慮をしなくても良い場所です。今まで色々悩み、苦労もありましたが、皆さんのおかげで少しずつ聴覚障がい者を理解してくださる環境が整ってきました。今では仕事も円滑に進むようになったし、やりがいのある仕事も任されるようになってきています。家族のようなメンバーと支え合いながら働けて、本当に幸せです。
楠原:
子育てや介護など、社員を取り巻く状況を理解し、働きやすい環境について真剣に考えてくれている職場です。お互いを思いやれる、温かい環境があるからこそ、長く働いていけるのだと思います。
徳永:
国分工場物流課は、私の居場所であり、家族のような存在です。この職場をより良いものにしていけるよう、同僚たちと協力しながら、私自身も一層頑張っていきたいと思っています。入社して本当に良かったです。
四枝:
心身ともに糧となっている場所であり、本当にこの職場からさまざまなことを学ばせていただいています。この場所に身を置けていることに感謝し、もっともっと成長していけるように、精進していきたいと思っています。
堀之内:
このメンバーと一緒に仕事ができて良かった、と日々感じています。仕事やプライベートの枠を超えて仲が良く、風通しのいい雰囲気。業務に真面目に打ち込む姿勢。男性、女性、障がいのある人、健常者、若手、ベテラン関係なく、多様性を受け入れ、協力する団結力。さらにみんなが切磋琢磨して高め合える雰囲気。どれをとっても最高の職場だと断言できます。私は今年で還暦を迎えますが、この国分工場で定年を迎えられて良かった、誇らしいなと感じています。今後もシニア社員として、もっと働きやすく、もっと笑顔溢れる物流課をつくるお手伝いをしていきたいと思っています。