「センシング」「フィルター」「加熱によるリセット」という異なる動作を一度に行う「多孔質アルミナヒーター」。
「ゼロからの開発で何もかもが手探りでした」と語る開発担当者に開発ストーリーを伺うとともに、
この多孔質アルミナヒーターのこれからを探りました。

ノウハウゼロからの開発スタート
今回開発に携わった「多孔質アルミナヒーター」について教えていただけますか?
もともと京セラには30年以上ものセラミックヒーターの歴史があります。セラミックヒーターの一種である窒化ケイ素ヒーターは、1秒で800度の高温になるという特性を生かし、ディーゼルエンジンの着火アシストとして使われるほか、別の種類であるアルミナヒーターは、ヘアアイロンや温水洗浄便座などにも採用されています。セラミックヒーターはこれまでのプロダクトのなかで様々な進化を遂げてきましたが、そのうちのひとつが今回紹介する「多孔質アルミナヒーター」です。
具体的にどういったプロダクトなのでしょうか。
分かりやすくいうと、多孔質フィルターとセラミックヒーターが一体になったものです。多孔質のフィルターで粒子をキャッチしながらセンシングを行い、ある一定量を超えたらセラミックヒーターが作動してその粒子を飛ばす(リセットする)という仕組みです。
センシング、フィルター、加熱によるリセットという3つの動作をこのひとつで?
はい。ただ、このプロジェクトの担当になったとき絶対に実現できない、と思いました(笑)。誰もやったことのない領域だったのでノウハウもゼロだったんです。
それをどうやってクリアされたんですか?
ヒーターの知見はたくさんあったのですが、多孔質体を一体化させた知見はなかったので、まずは他の部署を渡り歩いて情報収集からスタートです。社内にある様々な部署と連携しつつヒントをもらい、1つずつ形にしていった感じです。


多孔質アルミナヒーターの可能性
一番難しかったポイントはどこでしょう。
多孔質フィルターとセラミックヒーターという異なる性質のものを一体化させるというところです。もともとセラミックの原料は粉を練ったものをシートにして積んでいくんですが、焼結の段階でわずかに収縮するんです。その収縮の度合いが、多孔質フィルターとセラミックヒーターでは異なるので、負荷がかかって割れてしまうことがあります。それをクリアするために材料の添加物や配合比率を調整しつつ、寸法的に何mmがベストなのかを探り続けました。
気の遠くなるような作業ですね…。
そもそも多孔質フィルターを作るノウハウもなかったので、フィルター機能を持たせつつ強度を確保するという点にも苦労しましたね。あとは、多孔質フィルターで粒子をキャッチするために、中にガスを通す必要があります。そのガスの通り道を作るために中空にしなければいけないんですが、これも通り道を確保しつつ強度を持たせ中は中空にするという、とにかく気が遠くなる作業の繰り返しでした。
あちらを立てればこちらは立たずという状況。
どういう寸法にするかを設計するチーム、実際にサンプルを作るチーム、それを炉に入れて焼いて評価するチームがあって、毎日トライ&エラーをひたすら繰り返しました。

仮説と検証を繰り返す日々ですね。
こうすればいいんじゃないかという仮説がピタッとはまり、それを繰り返すことで「絶対に無理だろう」というものに少しずつ希望が見えてくる。ゼロだったものが突然100になるのではなく、本当に1つ1つの積み重ねでした。様々な分野のスペシャリストたちの感覚を集約してようやく1つの形になったんです。
そういったチームプレイで開発が行えるのも京セラの強みの1つですね。
この多孔質フィルターは、今後どういったところで使われるイメージでしょうか。
もともとセンシング用途として開発を行ったので、やはりそこでの活用事例を見出したいですね。世の中は様々な箇所にセンサーを付けて情報を収集し、何かしらのアクションを起こすという流れになっているので、検知しつつヒーターで自己再生するといった用途に使えると思います。
湿度センサーにも使えそうですね。
はい。フィルターに付着するのがゴミではなく水でもいいわけです。そのほか自己再生機能付きフィルターや、自己活性機能付き触媒などにも応用がきくでしょう。これまでヒーターという分野で長い間ビジネスをしてきましたが、この多孔質アルミナヒーターのように、ヒーターに「センシング」という新しい付加価値を付けた展開ができるといいですね。この開発でできたことは、まだ入り口だと思っています。難しいことにも積極的に挑戦していき、さらに技術力を高めていきたいです。もし何かアイデアをお持ちの方がいたら、ぜひ私たちまで問い合せてもらえるとうれしいです。
