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【連載:第3弾】「異種格闘技戦'24」"戦いの果てに闘技者たちが手に入れたもの"

格闘技は、身体でぶつかり合うことだけを意味する言葉ではありません。言葉を駆使して戦うことも、人間らしい立派な格闘技と言えるのです。
常に社会へ自らの言葉を届け続けている各界の登壇者たちが「君は何のために生きるか?」をテーマに議論を深めていくイベント「異種格闘技戦'24」。第2弾では、集まった昭和世代のメンバーたちにより、令和を生きる若者や多様性について熱い意見が交わされました。

最終回である今回はついに、免れることのできない「死」という概念と向き合います。
そして、登壇者それぞれが出した“君は何のために生きるか?”、その答えを一緒に見届けていきましょう。

【連載:第1弾】"君は何のために生きるか?"いきなり飛び交う議論は不要説
【連載:第2弾】"君は何のために生きるか?" 令和時代の若者は生きにくいのか

パネラー:

・石黒浩 大阪大学大学院 基礎工学研究科教授 ATR石黒浩特別研究所客員所長 

・小林味愛 株式会社陽と人 代表取締役社長 

・宋美玄 医学博士 産婦人科医 

・蝶野正洋 プロレスラー アリストトリスト(有)代表取締役 (一社)NWHスポーツ救命協会理事長 

・藤田一照 禅僧 曹洞宗国際センター前所長 

・四本裕子 東京大学教授 認知神経科学者・心理学者 


レフェリー:

・三遊亭鬼丸 落語家 ラジオパーソナリティ 


目次

    私たちは、死ぬために生きている?

    トークバトルがさらなる深まりを見せたのは、レフェリーの立場である三遊亭鬼丸氏より、まるで身を切るような話題の提供が始まってからでした。

    鬼丸氏「何のために生きるか?を考えたときに、その逆の『どんな死に方がいいのか?』について考えました。進行が遅くていまは大丈夫なのですが、3 年前にガンになったことがあったんですよね。正式な診断結果が出るまでのあいだ、手遅れだったらどうしようという気持ちが溢れてきて『名前が知れているいまのうちに、死んじゃったほうが良いかな』なんて思っていました。」

    これまで、軽快な突っ込みで会場を沸かせてきた鬼丸氏から語られる死と隣り合わせの言葉。話は淡々と続いていきます。

    三遊亭 鬼丸氏

    鬼丸氏「死んだときのことを想像したら、一番に『みんなに泣いてもらいたい』という願望が浮かび上がってきました。そうなるためにはどうしたら良いか考えたときに、人に優しくして、恩を売って、『いい』人だと思われる必要があるなと。なんか、ダサいことばかり言っていますが、そんな死ぬために物事を考えるのは間違っていると思いますか?」

    四本 裕子氏

    四本裕子氏「生きている意義を感じる度合いを測定する心理学があります。もちろんですが、痛みを感じていたり、終末ケアのような状態になっていたりすると、数値が減ってしまうことがわかっているんです。その研究のなかで、人間は 45~55 歳あたりが『人生で最も幸せでない』というデータが出ています。体力がなくなり、身体に不具合が出てきているのに、子育てなどでお金もかかることが原因と考えられるでしょう。」

    「45〜55 歳あたり」という具体的な発言が出たのと同時に、ざわつき始める昭和世代の登壇者たち。いま思えば、肝が据わったメンバーが集まるなか、唯一焦りの感情が見えた部分だったかもしれません。

    藤田 一照氏

    ほんの少しだけ後ろ向きな空気が流れるなか、70 歳を迎えた藤田一照氏から激励ともいえる言葉が送られます。

    藤田氏「生まれてから 2 歳ぐらいまでの赤ちゃんは、何のために生きている?などという自覚はありませんよね。でも、大人になるにつれて「ためためため」にまみれて生きていく。45 歳以上は『利益のため』『成果のため』が蓄積されたまさに仕事モードのような状態なので、疲れてしまう人が多いのかもしれません。でも、それこそ赤ちゃんのように、これからは遊ぶことを意識していってもいいのではないでしょうか。もちろん、知りたいことを知るため、やりたいことをやるための『本気の遊び』をね。」

    あらためて問う“君は何のために生きるか?”

    これまでにないほど壮大で、正解が見当たらないテーマを取り扱った本イベント。そのようななかでも、自分の軸を持ちながら議論を続けた登壇者たちが、最後にそれぞれどのようなアンサーを出したのかが発表されました。

    石黒浩氏「種としては、進化のために生きている。個としては、知識欲に制限がないなかで、また新しい何かを得るために生きている。でもとりあえずは、毎日が充実していればそれで良くて『生きるために生きる』ことが答えだと思っています。」

    四本裕子氏「私は、自分は死ぬときに惜しまれたいって思いはありません。でも、いざ最期を迎えるときに『あー面白かったと思うために生きたい』気持ちがあります。その夢を実現するべく、これからも日々を紡いでいきたいです。」

    藤田一照氏「私は『本気の遊びをするために生きていきたい』。自分の嗅覚の赴くままに、面白いことを追求する人生を送りたい。わからないことに対してもまだまだ貪欲になって、でも目的なんて気にせずに生きていきたい。とはいえ、これまでも好き勝手やってきたので、このまま逃げ切ってやろうなんて思っています。」

    会場の様子

    小林味愛氏「私は『たった 1 人でもいいから、心の底からありがとうって言ってもらえるために生きたい』。いまは、福島でサポートをしている人たちから感謝の言葉をもらえることが、何よりも嬉しい。この気持ちを積み重ねていくだけで、十分幸せになれると思います。」

    蝶野正洋氏「私は『何のために生きるのかわからないまま生きたい』。5 万人が見ている東京ドームのリングに上がったときですら、自分がベストを尽くせるのかばかり考えてしまい、生きる意味を感じられるような余裕はなかった。亡くなるときになって、ようやく『このために生きていた』ってわかるのかもしれません。」

    宋美玄氏「私は『子育てというプロジェクトを終えるために生きている』と答えます。中学生と小学生の子どもがいるので、責任を持って育てることが私の使命です。もちろん変わらず仕事でも社会へ影響を与え続け、どこかで『あの頃よりは生きやすい時代になったよね。』と言われるような一因になれたら嬉しいなと思います。」

    三遊亭鬼丸氏「私は、石黒さんの人間の知的好奇心には限りはないという言葉が響きました。今回の議論を通して『知るために生きていきたい』と思うようになりましたね。あまりにも未知すぎるテーマだったけど、しっかりと自分の身になりました。」
    「試合終了です!」鬼丸氏が掛け声を上げるとともに、ゴングを 3 回打ち鳴らし、予測不能のトークバトルは幕を閉じました。

    京セラ株式会社 仲川 彰一

    締めのあいさつとして京セラ株式会社執行役員 研究開発本部長 仲川彰一さんより一言。

    「聞いているだけなのに、もうふらふらな状態。私は『死にたくないから生きている』のかなと感じました。もちろん死んだことなんてないので、そう思えること自体が恵まれている証拠でもあると思います。紆余曲折のある議論が展開されたからこそ、それが生きることを考える糧になったのではないでしょうか。」

    京セラといえば、創業者である稲盛和夫氏が、今回のテーマを受けて「私たちが生きている意味、人生の目的は、心を高めることにあります。心を高めるとは人格を高めることです」と語っていたことを思い出しました。
    もし稲盛さんが参加していたら、どんな話題になったのだろう。そして、もし自分がリングに上がっていたら、どんな発言をしていたんだろう?いろいろな考えが頭を巡ります。

    「君は何のために生きるか?」突然そう問いかけられたとき、あなたはすぐに答えを出せるでしょうか?
    私には無理です。むしろ、急にそんなこと聞かないでほしいとすら思います。

    それでも、このバトルを観たあとの私であれば「ちょっと一緒に考えてみませんか?」と答えるでしょう。
    だって、人生を濃密に生きてきたであろう登壇者たちですら、悩み、苦しみ、笑い、結局答えはみんなバラバラだなんて。
    誰かとこの気持ちを共有したい。「その考えは自分にはなかった」なんて言ってみたい。

    そう、私はいま、生きている。

    <著者紹介>
    ライターKY
    千葉県在住 エンタメビジネスライター
    エンタメの表舞台に立つ方々だけでなく、裏方として活躍するビジネスパーソンにもフォーカスした取材をおこなっております。

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