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【特集#4】ブルーカーボンとは?グリーンカーボンとの違いから読み解く、海洋生態系が担う脱炭素の役割

脱炭素社会の実現に向け、森林など陸上の取り組みに加え、「海」に目を向ける動きが広がっています。気候変動対策が本格化する中で、自然の力を生かした吸収源として注目されているのが、海洋生態系がCO2を吸収・固定する「ブルーカーボン」です。

ブルーカーボンは、脱炭素に貢献するだけでなく、生物多様性の保全や沿岸防災、地域経済とも深く関わる存在として評価が高まっています。本記事では、ブルーカーボンの基本的な考え方やグリーンカーボンとの違いを整理しながら、なぜ今この概念が注目されているのか、海洋生態系が担う脱炭素の役割を解説します。

 

目次

    ブルーカーボンとは?海洋生態系が担う脱炭素の新たな選択肢

    カーボンニュートラルの実現には、再生可能エネルギーの導入や省エネルギーの推進など、温室効果ガスの排出を減らす「排出削減」だけではなく、大気中のCO2をいかに「吸収・固定」するかという視点も不可欠とされています。

     

    そこで注目されているのが、森林などの陸上生態系だけでなく、海洋生態系が持つ炭素吸収の力です。

     

    ブルーカーボンの基本概念──「海の森」が吸収する炭素

    ブルーカーボン 外部リンクとは、海草藻場や干潟、マングローブ林などの海洋生態系が吸収・貯留する炭素を指す概念です。これらの生態系は光合成によってCO2を取り込み、生体内に固定するとともに、その一部を海底の堆積物として蓄積します。特に藻場や海草は「海の森」とも呼ばれ、森林と同様に炭素吸収源として機能します。

     

    また、ブルーカーボンが評価される理由は吸収量だけではありません。吸収した炭素を海底の堆積物に長期間閉じ込められる可能性がある点が、科学的にも注目されています。このように、ブルーカーボンは自然の営みを活用した「吸収型」の脱炭素アプローチとして位置づけられています。

     

    なぜ今、海洋生態系が脱炭素の選択肢として注目されるのか

    ブルーカーボンが注目される背景には、気候変動対策の高度化があります。現在、脱炭素は単なる環境対策ではなく、社会や経済の持続性を左右する重要なテーマとなりました。その中で、技術だけに頼るのではなく、自然の力を活用する解決策が改めて評価されるようになっています。
     
    また、日本は四方を海に囲まれ、藻場や干潟といった沿岸生態系を多く有する国です。こうした地理的特性から、ブルーカーボンは日本にとって現実的かつ親和性の高い脱炭素手法ともいえます。地域の漁業や防災、観光といった分野とも深く結びついており、ブルーカーボンは、脱炭素と社会課題の解決を同時に進める可能性を持つ選択肢として期待されています。
     
     
     

    グリーンカーボンとの違いと、CO2吸収の仕組み

    では、ブルーカーボンと森林が担う「グリーンカーボン」とは何が違うのでしょうか。

     

    グリーンカーボンとは、森林や草原などの陸上生態系が吸収・固定する炭素を指します。樹木は光合成によって大気中のCO2を取り込み、幹や枝、根に蓄積します。

     

    実際、世界各国で進められている植林や森林保全は、気候変動対策の重要な柱となっており、グリーンカーボンは脱炭素の取り組みにおいて欠かせない存在であることは間違いありません。

     

    吸収量だけでは測れない、炭素の「貯留」という視点

    一方で、炭素吸収を考える際には、「どれだけ吸収するか」だけでなく、「どれだけ長く固定されるか」という視点も重要です。森林の場合、伐採や山火事、病害などによって樹木が失われると、幹や枝に固定されていた炭素が再び大気中に放出される可能性があります。
     
    これに対してブルーカーボンは、炭素の「貯留」の仕組みに特徴があります。海草や藻類が吸収した炭素の一部は、枯死後に海底へ沈み、堆積物として埋没します。海底の堆積環境は酸素が少なく、分解が進みにくいため、炭素が長期間にわたって安定的に保持されることが期待されています。
     

    海草・藻場によるCO2固定のメカニズム

    ブルーカーボンの中核を担うのが、海草や藻場の生態系です。これらの植物は光合成によってCO2を吸収し、葉や茎、根に炭素を蓄積します。さらに、その一部は海底に堆積し、泥や砂に覆われることで長期的に固定されます。また、藻場は周辺の水流を緩やかにする役割も持ち、堆積物が流出しにくい環境をつくります。こうした生態系全体としての働きが、ブルーカーボンの炭素固定を支えています。

     

    森林が担う陸上の吸収と、海洋生態系が担う吸収・貯留は、それぞれ異なる特性を持ち、相互補完的な関係にあります。脱炭素社会を実現するためには、排出削減に加え、こうした自然由来の吸収源を多層的に活用することが重要です。

     

     

     

    脱炭素だけではない、ブルーカーボンの多面的な価値

    ブルーカーボンの意義は、CO2削減にとどまりません。生物多様性の保全や沿岸防災、地域経済の持続性など、さまざまな社会課題と深く結びついています。近年、ブルーカーボンが注目される理由のひとつは、こうした多面的な価値を同時に生み出せる点にあります。
     

    国際的な評価が進む「自然を基盤とした解決策(NbS)」

    ブルーカーボンが世界的に評価されるようになった背景には、気候変動対策の考え方そのものの変化があります。この流れを整理・発信しているのが、「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)」 外部リンクです。IPCCは、世界中の科学的知見を集約し、気候変動の現状や将来リスク、対策の選択肢を評価・報告する国際的な枠組みです。

     

    IPCCの報告書では、森林や湿地、海洋生態系などを活用する「自然を基盤とした解決策(NbS:Nature-based Solutions)」 外部リンクが、気候変動対策として有効であることが繰り返し示されており、ブルーカーボンは、このNbSの代表例として位置づけられています。

     

     

    生物多様性と漁業資源を支える海洋生態系

    ブルーカーボンを担う藻場や干潟は、多くの海洋生物にとって重要な生息・繁殖の場です。稚魚や小型生物の隠れ家となり、食物連鎖を支える基盤として機能します。こうした生態系が健全に保たれることで、漁業資源の回復や持続可能な漁業の実現にもつながります。つまり、ブルーカーボンの保全は、CO2削減だけでなく、海の生態系、および漁業関係経済の全体を支える取り組みでもあるのです。
     

    沿岸防災や地域経済にももたらされる効果

    さらに、藻場や干潟は波や潮流のエネルギーを和らげ、沿岸侵食や高潮被害を軽減する役割も果たします。これは、気候変動によって激甚化が懸念される自然災害への「適応策」としても重要な意味を持ちます。

     

    また、海洋環境の回復は、漁業や観光といった地域産業の基盤強化にもつながります。ブルーカーボンは、脱炭素というグローバルな課題と、地域の暮らしや経済を結びつける接点となり、気候変動対策・自然保全・防災・地域振興を同時に支える多面的な価値を持っています。

     

     

     

    失われつつある海の生態系と、ブルーカーボンを育てる取り組み

    ブルーカーボンが持つ多面的な価値が注目される一方で、その担い手となる海洋生態系は、決して安定した状況にあるとはいえません。
     

    藻場減少や磯焼けがもたらす機会損失のリスク

    日本を含む世界各地で、藻場や干潟の減少が報告されており、ブルーカーボンの基盤そのものが揺らいでいます。その要因として指摘されているのが、海水温の上昇や水質悪化、食害などが重なって発生する「磯焼け」です。磯焼けが進行すると、海草や海藻が定着できなくなり、生態系のバランスが崩れます。その結果、CO2吸収能力の低下だけでなく、漁業資源の減少や沿岸環境の劣化といった問題が連鎖的に発生します。
     
    つまり、ブルーカーボンを担う生態系が失われることは、脱炭素の機会損失であると同時に、地域社会や産業にとっての大きなリスクでもあるのです。
     

    保全から「再生・創出」へ広がる取り組み

    こうした課題に対し、各地では藻場の再生活動など、ブルーカーボンを「育てる」ための取り組みが進められています。海藻の種苗を育成・移植する取り組みや、人工構造物を活用した藻場造成などです。
     
    また、漁業者や自治体、企業、研究機関が連携し、地域ぐるみで海洋環境の改善に取り組む事例も増えています。こうした協働は、ブルーカーボンの吸収量を高めるだけでなく、地域の理解と継続性を確保するうえでも重要な役割を果たします。
     

    「育てる脱炭素資源」としてのブルーカーボン

    ブルーカーボンは、自然に任せるだけで成立するものではありません。人の関与によって環境を整え、長期的に維持していくことで、はじめて脱炭素資源としての真価を発揮します。

     

    ブルーカーボンを、海と共生しながら未来を築くための重要な選択肢のひとつとして課題を正しく理解し、保全と再生に向けた取り組みを積み重ねていくことが、持続可能な脱炭素への道につながっていくのです。

     

     

     

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