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核融合とは? 世界が注目するエネルギー革命

世界のエネルギー供給の革新として期待される核融合発電は、太陽の中心で起きている反応を地上で再現し、クリーンで安定したエネルギーを生み出そうとする技術です。日本がリードする形で、世界中で開発が進み、将来的には発電だけでなく小型の動力装置や宇宙船の推進機など、多様な用途での実用化が期待されています。本記事では、核融合エネルギーの基礎から将来性と課題まで、分かりやすく解説します。

記事監修
安藤 晃

一般社団法人 プラズマ・核融合学会会長。
東北大学大学院工学研究科教授などを歴任し、
現在は東北大学高等大学院機構特任教授。

主な著書に『高電圧工学 (電気・電子工学基礎シリーズ 5)』(朝倉書店)などがある。

                   

目次


    核融合の基本:太陽のエネルギーを地球上で再現

    核融合反応とは、軽い原子核が結合して重い原子核になる現象です。例えば、水素のような軽い原子核同士がくっつき、ヘリウムなどのより重い原子核に変わる際に、莫大なエネルギーが放出されます。この反応は、まさに太陽の中心部で絶え間なく起きている現象であり、太陽のエネルギー源となっています。


    核融合発電は、この原理を地球上で再現し、エネルギーを取り出そうとする試みです。
    1グラムの燃料から得られる核融合エネルギーは、石油約8トン分に相当し、これは約12トンの石炭が燃焼した際に得られるエネルギーに匹敵します。

    核融合反応の原理

    現在研究が進められている核融合発電では、水素の同位体である重水素(陽子1つと中性子1つ)や三重水素(陽子1つと中性子2つ)を高温・高圧のプラズマ状態にし、これらの原子核同士が激しい勢いで衝突することで核融合反応が起こります。プラズマを加熱し1億度以上の高温状態を維持することで反応する数が多くなり、膨大な熱エネルギーが生成されるのです。この熱エネルギーで蒸気を発生させ、その蒸気がタービンを回すことで電気エネルギーに変換されます。これは従来の火力発電と類似したプロセスですが、核融合を起こすためには1億度を超える高温環境、あるいは1000億気圧もの超高密度状態を作り出す必要があります。

    これには、磁場やレーザーを利用した方法が用いられます。例えば、超伝導マグネットが作る強力な磁場によって1億度以上の超高温プラズマを閉じ込め、核融合反応を起こすことができます。さらに、将来的には、電荷を持ったプラズマ状態を利用し、高速で動く荷電粒子(電流)を電場や磁場を使って直接発電する方法も検討されています。

    核融合発電のメリット・デメリット

    核融合発電の最大の特徴は、その燃料供給の安定性です。現在の原子力発電(核分裂)で使用されるウランは有限資源であり、将来的な枯渇が懸念されていますが、核融合発電で燃料となる重水素は海水から取得可能で、事実上無限に存在します。

    また、もう一つの核融合燃料である三重水素は放射性物質で、半減期が12年程度と比較的短寿命のため、自然界にはわずかしか存在しませんが、核融合反応から出てくる中性子を利用し、リチウムとの核融合反応で生成、供給することが計画されています。

    海水から取得可能な重水を分解し重水素にする

    核融合反応では、中性子の他に主にヘリウムが生成されるため、長寿命の放射性廃棄物がほとんど発生しません。これは、数万年単位で管理が必要な核分裂反応の廃棄物と比べて大きな利点です。温室効果ガスの排出も極めて少なく、地球温暖化対策としても有効になります。また、理論上では、核融合反応は核分裂反応よりもエネルギー効率が高いとされており、長期的な経済性向上につながる可能性もあるのです。

    さらに、安全性の面でも大きな利点があります。核融合反応は、燃料供給を停止すれば自然に停止するため、原子力発電所のようなメルトダウンのリスクがありません。放射性物質の大量漏洩の可能性も極めて低く、安全性が格段に向上します。

    しかし、実用化に向けては依然として大きな課題が存在します。超高温プラズマの安定的な制御や、過酷な環境に耐える素材の開発など、多くの技術的課題を克服する必要があります。特に、現状では核融合発電炉の建設コストは極めて高く、経済性の向上が大きな課題となっています。これについては、技術革新や量産効果によるコスト削減が期待されています。

    日本が核融合発電に注力する理由

    日本がこの技術開発に注力する背景には、いくつかの重要な要因があります。
    まず、日本は資源小国であり、エネルギーの大部分を輸入に頼っているという現状があります。核融合発電は、豊富に存在する水素を燃料とし、重水素やリチウムも海水から抽出できるため、エネルギー自給率を大幅に向上させる可能性を秘めています。

    また、上でも触れたとおり、核融合発電は温室効果ガスの排出が極めて少なく、放射性廃棄物も従来の原子力発電に比べて大幅に少ないクリーンエネルギーです。環境問題に取り組む日本にとって、重要な選択肢となっています。

    このような背景から、日本は核融合技術の研究開発に力を入れており、世界をリードする立場にあります。現在、世界の国々が協力して核融合発電の実現可能性を実証するための国際プロジェクトとしてITER(イーター)計画が進められています。フランスに大型の核融合実験炉を建設中で、2034年に本格運転開始を目指しています。ITERの建設において、日本は超伝導コイルなどの重要機器の製作を担当し、高い技術力を発揮しています。

    「ITER鳥瞰図」国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構HPより引用(2025年5月23日引用)

    一方、日本国内においても、茨城県に日欧が共同建設したトカマク型核融合実験装置JT-60SAが完成し、プラズマ体積160立方メートルという世界でも「最大のトカマク型装置」としてギネス世界記録に認定されました。2023年10月には初プラズマ生成に成功し、世界的に注目される成果を上げています。なお、トカマク型装置とは、ドーナツ型の容器内に磁場でプラズマを閉じ込める方式で、実用化を目指した核融合装置の主流となっています。

    「JT-60SA鳥瞰図」国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構HPより引用(2025年5月23日引用)

    さらに、岐阜県の核融合科学研究所では、トカマク型とは異なった磁場閉じ込め方式の大型ヘリカル装置(LHD)実験が進められ、高温高密度状態のプラズマを長時間維持することに成功するなど、世界最先端の研究成果を挙げています。ヘリカル型とは、ドーナツ形状の容器内でらせん状にねじった磁場中にプラズマを閉じ込める方式で、長時間安定にプラズマを閉じ込めることができます。

    「LHD鳥瞰図」(提供元:核融合科学研究所 )

    そのほか、大阪大学では大型レーザー核融合実験装置(激光XII号)を用いて、世界最先端のレーザー核融合研究を進めているなど、国内においても多くの核融合研究が進められています。

    最近では民間の研究開発体制として、京都フュージョニアリング社やHelical Fusion社をはじめとする核融合スタートアップ企業も次々と起業し、核融合の実用化を目指して活発に活動を初めています。日本の核融合関連のスタートアップ企業数は米国やEUに次いで、世界でもトップクラスの規模です。それぞれ独自の技術や方式で核融合エネルギーの実用化に取り組んでおり、日本の核融合技術発展の一翼を担っています。

    核融合発電実用化への道のり

    現在、世界中で核融合発電の実用化に向けた研究開発が進められています。ITERの成果を踏まえ、原型炉の建設を経て、段階的に実用化が進展していくでしょう。文部科学省核融合科学技術委員会は、2030年代のチェックアンドレビューにおいて原型炉建設段階である「核融合研究開発第4段階」への移行を判断することを目指し、以下のようなロードマップを策定しています。

    このロードマップでは、各段階での目標と、それを達成するために必要な技術開発項目が示されています。現在も早期の実用化を目指し、計画を見直しながら研究開発が進められています。

    「原子炉研究開発ロードマップ」(引用元:「松浦重和 他:プラズマ・核融合学会誌 Vol. 94, 575 (2018)」)

    安定した核融合反応の維持には、超高温プラズマの制御が不可欠です。大型装置での磁場によるプラズマの閉じ込めや、プラズマ不安定性の抑制など、さらに技術的な進展が期待されています。

    また、核融合炉の内壁材料は、超高温と強力な中性子照射に耐える必要があります。タングステンやセラミックス複合材料など、新素材の開発が進められています。例えば、京セラは大口径1.56mの高純度ファインセラミックリング(アルミナ)の開発に成功し、ITERの重要部品として採用されています。

    このような技術革新を伴いながら、今後さらに核融合の実用化に向けた動きが加速度的に進められていくことでしょう。

    核融合発電の未来予測:エネルギー革命の到来

    核融合発電が実用化されれば、クリーンで安定したエネルギー供給が可能になり、地球温暖化問題の解決に大きく貢献すると期待されています。また、核融合研究で培われた技術は、材料科学やプラズマ応用など、様々な産業分野に波及効果をもたらす可能性があります。

    核融合発電の実現には国際協力が不可欠です。同時に各国が技術的優位性を競う状況も生まれており、協調と競争のバランスが重要になっています。

    将来的には、革新的な核融合炉が実用化され、核融合炉の小型化が進み、より身近なエネルギー源として地域社会の中で実用化される可能性も考えられます。このような小型の核融合炉が実現すれば、余剰エネルギーを近隣地域と共有する「エネルギーシェアリング」が可能になり、地域全体がクリーンな電力を共有する時代が到来するかもしれません。また、発電と推進力を同時に生み出せる核融合を利用した宇宙推進機も将来実用化されることでしょう。

    このように、エネルギーに関する根本的な概念を変えうる核融合技術は、今後も目が離せない技術革新です。

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