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「Possi (ポッシ)」ターゲットの心に響くマーケティングに試行錯誤の日々

京セラ、ライオンが共同開発した子どもの仕上げ磨き専用ハブラシ「Possi(ポッシ)」。2021年5月末の一般発売に向けてプロモーションを展開しています。しかし、事業の中心がBtoBである京セラにとって、PossiのようなBtoC事業は難しさがあるとのこと。稲垣智裕(研究開発本部 Possiプロジェクト 事業推進部責任者)と有光真奈(研究開発本部 Possiプロジェクト 事業推進部 事業推進課1係責任者)に「Possi」のプロモーション戦略について聞きました。
(インタビュー●大橋博之)

稲垣智裕
研究開発本部 Possiプロジェクト 事業推進部責任者
有光真奈
研究開発本部 Possiプロジェクト 事業推進部 事業推進課1係責任者

いかに小さなお子さんを持つご家族の心に響くか。

──2020年8月に新体制を作ったのだとか。
稲垣:実際に起動したのは10月です。なので、組織ができてからまだ日は浅いのですが、2021年5月末の発売当初からフルスロットルで動けるよう、準備をしているところです。
──有光さんはマーケティング担当とのことですが、どのようにして関わることになったのですか?
有光:実は私はマーケティングが専門ではありません。研究開発本部の研究企画部と兼任で「Possi」のマーケティングを担当しています。
──それは大変ですね。

有光:ある日、研究開発本部長(当時)から「ボトムアップで新規事業を立ち上げるには、どのような方法が良いのか、研究企画部で考えて欲しい」と言われました。稲垣がスタートアップの創出と事業運営を支援するSony Startup Acceleration Program ("SSAP")に関わる少し前のことです。
そのため研究企画部では、ソニーで社内ベンチャーを立ち上げた経験のある方をお招きして、新規事業を立ち上げるためのテーマ探索、事業を推進する方法、最終的には新規事業を行う上でのメンターや伴走ができるようなプログラムを受け始めていました。
そうする間に、稲垣が「Possi」を始め、ソニーを起源とする新規創出支援プログラムおよび支援者育成プログラムが同時進行で実行されているような形になりました。その関係で「Possi」の進捗状況は耳に入っており、私自身も子どもの歯磨きで悩んでいた時期があったので、陰ながら応援していました。

──「Possi」に関わるようになるとはその時は思わなかったのですね。
有光:思いませんでした。ある日突然、「自分が「Possi」を売るとしたらどのような企画提案をするのか考えなさい」と言われたんです。いろいろ考えて提出したら、上長にプレゼンすることになりました。今考えると、それが「Possi」プロジェクトへのメンバー入りのテストだったようです(笑)。
オープンイノベーションによる新規事業の立ち上げ支援は社内にも経験がありません。このプロジェクトをやり遂げないと次の新規事業も生まれてきません。京セラにとってコンシューマー向け商品は、あまり多くない領域なので、どのようにしてお客様に情報を届ければいいのかと試行錯誤の日々ですが、とても勉強になります。もちろん勉強でなく成果を求められるので、費用対効果を見ながらプロモーションを考えています。

──具体的には?
有光:女性の購買意欲を掻き立てる手法とか、通常、どのようなところから購買につながるかを研究しています。一般的な方法ですが「やっぱりSNSだよね」などと議論を重ねながら。
──SNS運用もされているのですか?
有光:プライベートでSNSはやっていますが、仕事として運用するのは初めての経験です。SNSが一般消費者によく見られる時間帯のひとつが帰宅時や夜間なんです。会社の就業時間後になるため、タイマーで夜間に投稿したりしています。私では手が回らないところは外部の会社に協力をいただくことも必要だと考えています。
──SNS運用は難しさもあるのではないですか。
有光:会社のSNSは会社のリリースや企業活動など幅広く発信しています。しかし、Possiに関してはそれではダメだと感じています。いかに小さなお子さんを持つご家族の心に響くか、そこからいいねやリツイートをしてもらって口コミを広げる。堅苦しいことを発信しても食いついてきません。そこに難しさはあります。

──企業として運用ルールは決まってるのでしょうか?
有光:もちろんSNSの運用ルールはありますが、主には「会社のブランドイメージを落とすことは発信しない」「炎上することは避ける」「万一、炎上した場合はすぐに報告する」などで、ポジティブな発信に対しての反対はありません。とはいえ、自由度が高い分、担当者が十分に気をつけて会社のブランドイメージを損ねることなく発信しなければならず、怖い部分はあるので気を付けながら取り組んでいます。

方法は限られるが、チャレンジングな売り方ができる

──他にはどのような施策を考えているのでしょうか?
有光:イベントを開催して親子で実際に「Possi」を体験してもらうのが効果的だと考えています。しかし、コロナ禍ではそのようなこともなかなかできません。いかに効率的に情報を届けることができるか。女性は特に口コミが効果があると考えているのでママ友の声を活用できればと考えています。
──体験イベントは予定されていたのですか?
有光:春からいくつか予定していました。
稲垣:今実施しているのは、ダイワロイヤルホテルとのコラボレーションです。ダイワロイヤルホテルの一部のホテルで、子どもとの宿泊に不安を感じているご家族のために「ウェルカムベビーのお宿」というプランを展開しています。そこに「Possi」を提供しています。

「Possi」は歯から音楽が聴けるのですが、屋外のイベントスペースで常に音楽が流れている環境だと「Possi」のメリットを感じてもらいにくいという危惧がありました。しかし、ホテルだと静かなので効果を実感していただけます。また、コロナ禍ではイベントはできませんが、むしろ在宅の方に良さが伝わる良いチャンスだと、追い風のつもりで考えています。
有光:ママ友の声としては、ママインフルエンサーさんに動画を発信してもらう予定です。それを見た人たちが共感してくれればいいなと思っています。
子どもが感想を言っている動画は「Possi」の良いところをちゃんと捉えてくれています。子どもが「おおっ」と反応する表情もとても良いので、それが伝わればと思っています。
あと、「Possi」のwebサイトは特別に京セラらしからぬポップなデザインにしてもらいました。今までの京セラのイメージに合わせると、どうしてもかたくなり、「Possi」に合わないと考えたからです。
稲垣:よく許されたなと思っています。
有光:私も最初はダメかなと思っていました。良くも悪くも浮いています(笑)。それを許可していただいたのはありがたいと思っています。

楽しみながらの前進姿勢

──手探りなのがよくわかります。
有光:今まで経験のないことを勉強をしながら進めています。それは私だけではありません。「Possi」のメンバーはみんな、勉強しながら、走りながら推進させています。
それをやらない限り、絶対に成功もありません。成功しなければ次につながらないので、チャレンジではありますが、みんなで「楽しみながらやろう」を合言葉にしています。なので、可愛いキャラクターを作ったり。

──キャラクターも作ったんですか!
有光:「Possi」が生き物みたいだから、キャラクターにして前面に出して行こうということで生まれました。最近は果物をモチーフとしたぬいぐるみを作成し、CMに登場させたりしていますよね。キャラクターに人気が出て商品に火が付くということもあります。京セラがやるというギャップで認知が上がればいいなと思っています。
インスタグラムも可愛い子どもの写真を使ったり、キャラクターでノベルティを作ったり、小さなお子さんがいるご家族を引き付けるようなPRを始めたところです。
──細かい活動は大変ですね。
有光:もちろん、手間がかかることです。不特定多数にアプローチできないので、方法は限られますが、売り方もチャレンジングなことができると考えています。「なんでもやってみよう。ダメならやめればいい」という気持ちで取り組んでいます。

稲垣:それなりに宣伝費は投下しています。何もやらなければ何も売れません。最低限の認知を得るには、これくらいの費用感はなければだめだろうと、計算しています。その宣伝費を回収して、黒字化できるよう施策を打って行かないと、この事業に未来はないと思っています。
今、やっていることは全て、自分たちの経験につながると思うので、できるだけ自分たちでやってみて、ノウハウを残していきたいと思っています。ある程度事業が大きくなって、任せられることがあったら外部にお願いすることもあるでしょう。ただ今はリソースも限られているので、やれることに集中して進めています。

新しい展開も模索しながら

──一般販売までのプロモーション戦略が重要となりますね。
稲垣:不特定多数が見る媒体でのパブリシティを重要視しています。そのためTVにも出演します。よく、「TVは見なくなっている」と言われていますが、やはり認知は上がります。商品の情報を何度も目にすることで、ユーザーの購入意欲が掻き立てられることもあると考えています。なので人の目に触れることが重要です。雑誌やメディアなど、幅広く散らばる領域で多く露出することを考えています。

ただ口コミで広げるには時間がかかります。しかし、時間はかかっても効果は徐々に現れると思っています。商品価値を正しく伝える努力をしなければなりません。
──プロジェクト内の情報共有も重要だと思うのですが。
稲垣:宣伝に関しては有光と二人で相談し、それを「Possi」のメンバーで共有しています。
また、会社の広報部とも関係は良好です。発信する情報は基本、広報部のチェックが必ず入ります。しかし、「Possi」の世界観を理解してくれているのでとてもやりやすいです。
もちろん、広報部や宣伝部が情報発信してくれることもあります。本社機能も上手に使いながら認知を高めたいと考えています。

有光:さまざまな媒体で宣伝してきましたが、「これは効果がなかった、ここは効果があった」と濃淡があります。それほど莫大な費用はかけられないので、効果が出るところに絞って打って行くことを準備しているところです。
BtoCのビジネスにおいて、情報を届けることが商品購入に繋がる重要なプロセスだと考えているので、初期段階でどうしても販促費や広告費がかかってしまうことに対し、社内で認知してもらう難しさもあります。

稲垣:在庫を持たないと、このビジネスは始まらないのですが、会社の資金を使っている以上、作った分の売り上げが立たなければなりません。「Possi」はクラウドファンディングでしか売れた実績がありません。「本当に売れるのか?」といった社内外の疑問に対して、我々は売れることを証明しないといけないんです。いくらでも予算をかけてもいいというのなら派手な広告を打ちますが、それはありえません。投資した広告費をいつまでに回収すると計画を立てたうえでの広告費です。そのため、ユーザーがいるところに対して集中的に資金を投下することを考えています。
──マスを上手に活用していく方針なんですね。
稲垣:それだけでなく、個人のつながりも大切にしています。名刺をもらった人にはメールを送っているのですが、そのおかげで横浜の自閉症協会が会報で紹介してくれたり、子育て支援センターでの告知を検討してくれるようになった、ということもあります。
──新しい展開もあるのですね。
稲垣:実は切実だと感じたのが、発達障がいのある子どもを持つご家庭なんです。子どもたちの歯磨きはどこも苦労されていますが、発達障がい、知的障がいのある子どもの歯みがきは更に大変な苦労がある、とお聞きしたのです。Possiがそのようなご家族の助けにならないかと考えています。困っておられる方々へのお知らせに加え、モニターもやっていただいて効果を測定し、メリハリの利いた情報発信等を展開したいと考えています。
最初はこれくらい売れれば事業は成立するという計画を立て、必要とする人が反応して欲しいという思いを込めてピンポイントに広告を出すことを考えています。それが外れたら大変なことになる、という責任感と危機感をもちながら取り組んでいます。
──海外展開も視野にいれているとか。
稲垣:まだやっとスタート地点に立ったところなので、大きなことは言えませんが、子育ての課題は日本特有ではないと思います。中国の富裕層などにもヒットするのではないかと考えています。
とはいえ、まずは確実に国内での事業のスタートを切って、軌道に乗ってきたところでマーケティングをして次の展開をしていきたいと考えています。
──ここからスタートですね。
稲垣:ようやく戦う準備が整ったところです。プレス発表はスタートの段階なのですが、ここから加速して、ようやくもう少しでトップスピードに乗れるかなというところまで来ました。販売を開始する5月末まで少しは時間がありますが、一般販売前の予約の段階でどれだけ伸ばせるかが、とても重要だと考えています。
クラウドファンディングが終わって1年半が経過して、認知が消えたところから本格的な事業の立ち上げをやっているので、改めて認知してもらえるようイチから挑戦しているような感じです。
その努力が報われたら伸びていくでしょうし、的外れなことをやっているなと思えばすぐに方向転換をしないといけません。一般販売までの間に試行錯誤していく必要があります。挑戦はまだまだ続きます。
──ありがとうございました。

──編集部より
 2019年にソニーのクラウドファンディング「First Flight」で見事目標金額を達成して、社内でも順風満帆に見えた「Possi」プロジェクト。一般発売が決まった現在もコロナ禍という逆境に立ち向かいながら進んでいます。そこで今回は事業の軸となる二人にインタビューし、その熱い思いを語ってもらいましたが、いかがだったでしょうか。研究開発本部としても新規事業の立ち上げ方、そしてBtoCの新たなマーケットの作り方など後に続く人たちの先例となるように支援をしていきます。頑張れ!「Possi」