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「Possi (ポッシ)」開発者にインタビュー! 自ら先陣を切り、新規事業の道を拓いていく物語

ソニーが事業化を支援し、京セラ、ライオンが共同開発した、子どもの仕上げ磨き専用歯ブラシ「Possi(ポッシ)」。2019年7月、事業化に向けたクラウドファンディングを開始したところ、目標額 2,000万円に対し、1,300人を超える人たちの支援があり、見事、サクセス!しかし、そこからプロジェクトは難航。事業化は危機的状態に陥ったそうです。本年2021年5月末の一般販売開始を控え、稲垣智裕(研究開発本部 Possiプロジェクト 事業推進部責任者)に新規事業創出の難しさと「Possi」の未来について聞きました。
(インタビュー●大橋博之)

稲垣智裕
研究開発本部 Possiプロジェクト 事業推進部責任者

クラウドファンディングの成功で注目を浴び、その後はどうなった?

──「Possi」の事業化に向けたクラウドファンディングが2019年9月に終了し、1年半が経過しました。その後の状況を教えてください。
稲垣:クラウドファンディングが成功したことで、さまざまなメディアに取り上げて頂きました。我々としては熱の冷めないタイミングとして、2020年6月の一般販売を予定していました。しかし、紆余曲折があり、2021年5月末に変更となりました。

──なぜ、2021年5月末になったのですか?
稲垣:ひとことで言うと「大企業において事業化は簡単ではない」につきます。大企業がクラウドファンディングで成功した例はあります。しかし、そのまま事業化された事例はそれほど多くない。そのことでも容易ではないことは分かります。
──事業化の難しさとは?
稲垣:ベンチャーなら「やる」と決めたら自分の責任でやることができます。しかし、大企業の場合は社内はもちろん、投資家に対しても納得して頂く必要があります。そこで求められるのは1打数1安打。でも、新規事業でその打率は正直、難しい。打率3割もありえないのが新規事業です。
また、クラウドファンディングで1,300人を超える人たちにご支援頂きましたが、1,300人に売れたとしても従業員一人も養えません。では、何台売る必要があり、そのための生産体制をどう構築するかを計算し、理解を求める必要もあります。
そこで生産体制をゼロから構築するとなると設備投資や人件費もかかり、利益どころかマイナスになってしまいます。したがって、既存の枠組みの中で体制を構築するしか方法はありません。しかし、既存の枠組みを利用させてもらうには、社内各所に協力を得なければ物事は進みません。スタッフはみんな、既存の業務で余裕などありません。その状態でさらなる協力を依頼するのは、いち社員ではかなり難しい。私が社長なら話は別かもしれませんが、下から上にお願いするのはハードルが高く、時間もかかります。
──企業内で起業する難しさですよね。
稲垣:それに、新商品は途中の軌道修正が多いことも、簡単には進まないひとつの要因です。
クラウドファンディングを担当してくれていた社内の事業部門が、ペルソナ(理想のユーザー像)を変えることを提案してきました。なぜなら、当初、「Possi」は、子どもの歯磨きをあまりやらないお父さんに、積極的に取り組んで欲しいと思い開発したのですが、蓋を開けてみると反応したのはお母さんの方が多かったからです。
お父さんからお母さんにペルソナが変更となると、当然、アプローチも変わってきます。クラウドファンディングは成功したとはいえ、内部的にはビジネスの再検証を迫られました。
売り方をどう変えるのかを考え直さないといけなくなった時、新型コロナウイルス感染症 (以下、新型コロナ)が直撃し、ストップしてしまいました。
──というと?
稲垣:この事業部門の本業が新型コロナの影響を受けてしまい、「Possi」どころではなくなってしまったんです。
──計画そのものを見直さなければならなくなってきたのですね。
稲垣:クラウドファンディングの目標額2,000万円はチャレンジングな金額でした。それが達成できたら事業化する、という計画で進んでいたので、新型コロナによって計画がストップしたのは大きな誤算でした。
また、「Possi」は京セラとライオンさんの共同開発による商品です。プロジェクトを続けるならライオンさんとも販売に向けて契約を締結しなければなりません。ライオンさんからは「京セラさんがPossiを事業化するなら我々はサポートすると決めました。京セラさんはどうなんですか?」と言われ、決断を迫られていました。

社内で「Possi」の事業化が難航、社長・会長に直談判!

──京セラだけの問題ではないということですね。
稲垣:ライオンさんは自社で開発して販売するのが一般的です。基本的にサプライヤーはやりません。それをやろうと言ってくれているのはライオンさんも覚悟を決めてのことだと思います。
そのため、社長に直談判し、クラウドファンディングで成功している事実を伝え、ニーズのあるビジネスだと説明し、「ここまで来てやらない手はない。私に研究開発本部で「Possi」の事業部を立ち上げさせてください。私が責任を取ります」と、訴えてGOサインをもらいました。

──社長としても大胆な決断ですね。
「Possi」に対して社長と会長は否定はしていません。「やっても良い」との回答です。ただし、「会社のお金を使うということがどういう事かはしっかり考えるように」と釘を刺されましたけどね(笑)。今思えば、ちょうどその後、社長直轄プロジェクトである全社のスタートアッププログラムがスタートしたのですが、「後に続くスタートアッププログラムに勇気を与えて欲しい」という檄だったのではないかと理解しています。
──そこからこのプロジェクトがスタートしたのですね。
稲垣:それが2020年7月です。そこでようやくライオンさんとも契約の協議に入るとともに、社内も事業化にギアが入って、12月に予約受付開始のプレスリリースを発表することができました。
これでも最短で走ってきたつもりですが、これだけ時間がかかってしまったというのにはさまざまな理由があります。

自分で責任を取ってでも絶対成功させる! 自ら先陣を切る熱い思い

──自分で責任を取ってでも「Possi」を世に出したいという熱い想いがあったんですね。
稲垣:これだけやって事業化できないのなら、どのような商品を作っても事業化できないと思いました。
実は京セラでは新規事業を作る取り組みを2年前からスタートしています。「Possi」はそれよりは先のスタートなのですが、後に続く人たちの先陣を切って、道を切り開いていかなければなりません。そこに期待されていると考えています。
後に続く人たちに、いち研究者でもここまでできるんだというところを見せたいと思っています。

──新規事業に対する想いはどこから来るのですか?
稲垣:京セラのビジネスはBtoBが主なので、自分たちが良いものができたと思っても、相手がいらないといえばその商品は世に出せません。逆に相手に欲しいと言われても弊社の都合でダメになることもあります。なので、自分で開発した商品を自らの手で求める人に届けたかったのです。
──最初から稲垣さん自身で独立してベンチャー企業を立ち上げるという選択肢はなかったのですか?
稲垣:大企業から飛び出しベンチャーを立ち上げた人の中には、社内の説得を諦めて独立した人も多いと思います。今回、社内を説得できたということは大きな一歩かもしれません。親に「新規事業をやる」と言ったらめちゃくちゃ心配されましたけどね(笑)。それに、研究開発の人あるあるかもしれませんが、最初、開発部門は開発するだけ。商品化は事業部という考え方があったことは事実です。
──開発と事業は違いますからね。
稲垣:「Possi」は、ソニーのスタートアップの創出と事業運営を支援するSony Startup Acceleration Program ("SSAP")の大企業向け第1号案件です。私はそこに出向いて新規事業創出の方法を学び、「Possi」を開発しました。クラウドファンディングを立ち上げる前に、"SSAP"のメンターであるOさんという方から、「ちょっと話がある」と呼び出されました。何を言われるのだろうと思っていたら、「この事業をどうするつもりですか?」と聞くのです。「クラウドファンディングの成功後に事業部門に引き取ってもらう予定です」と返事をすると、「それではたぶん、失敗します。稲垣さんが事業をやるという腹積もりがないのなら、クラウドファンディングはやめておいた方がいいですよ。今ならごめんなさいで何とかなります」と。その時は「ここまで来て何を言い出すんだ」と唖然としました。
でも、今考えると私の覚悟を試していたのです。その時、「もし既存の事業部門が引き受けないなら自分でやる」という気持ちになりました。とはいえ「そうはいってもどうにかなるんじゃないか」という気持ちも残っていましたけどね。
──新規事業の難しさをわかっている方だったのですね。
稲垣:Oさんの言葉は私の覚悟を確かめるだけでなく、企業にある問題点をわかっている上での発言だったと思います。たぶん、頓挫した商品はソニーにもいっぱいあると思います。聞くと京セラにもお蔵入りになった商品が山のようにあるようです。
──自分で事業化すると決めたわけですが、勝算はある?
稲垣:そもそも、「Possi」という商品の魅力を伝えれば勝算があると考えてのクラウドファンディングでした。その想いは変わっていません。身の丈に合ったビジネスを構築するのなら成功すると考えています。財務の勉強も"SSAP"のプログラムに含まれていたので、投資額に対して最低限何台売らないと事業は黒字にならないか、は理解しています。最低限の人数で回せば不可能ではないと考えています。
──ようやくスタートラインに立った?
稲垣:そうですね。まずは地に足の着いた事業にすることが重要だと思っています。今までのようないち研究者ではありません。
「Possi」は消耗品なので、例えユーザーが1人になったとしても、その人が使い続けている限り、商品を提供し続ける義務があります。そのためにも事業を継続させることが一番の目標です。
継続するためには売上を出し続けなければいけないので、それを実現するためには何でもやろうと思っています。

今まで支えてくれた方のためにも!

クラウドファンディングが終わって、消費者から「どこで買えますか?」という連絡を頂いていました。また、「販売されたら絶対に買います」と言って頂いている方もいました。京セラ社内でも研究開発本部のトップまでちらし配りに参加してくれるほど多くの方に支援を頂きましたし、京セラが変わるキッカケとなることへの期待の声ももらいました。だからこそ、どういう形であれ、世に出さないとダメだと思いました。
「このような問題に対して、このような解決方法がありますよ」と提示しておいて、世の中に出さないという選択肢は私の中にありません。そこに関してはやり切ろうと腹をくくりました。

──新規事業を始める人へのメッセージをお願いします。
稲垣:新規事業は大企業の方がさまざまな意見に左右されやすいものです。個人や中小企業がゼロから立ち上げるよりも社内調整が大変で、相当なエネルギーが必要だと思います。資金調達の面では、大企業のメリットはありますが、周囲からのプレッシャーも非常に大きい。そこが難しいところでもあり、やり甲斐を感じるところです。
──ありがとうございました。

「Possi(ポッシ)」事業化までの道のり

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2019/07

京セラ、ライオン、ソニーの3社でPossiの開発とクラウドファンディングの開始、1,300人を超える方々に支援いただき、目標金額2,000万円を達成

2019/10

CEATECでPossiを展示。
横浜市主導アクセラレータープログラムYOXO Accelerator Program参加の布石とし、横浜ガジェットまつりでポッシ展示。

2019/11

テーマ報告会で社長・会長にクラウドファンディング結果報告。

2019/12

YOXO参加、キックオフイベント。
京セラ内の事業部門における設計審査実施(クラウドファンディングの返礼品出荷に必要)。

2020/02

ライオンと事業化に向けた水面下調整キックオフ。

2020/03

YOXO 3自治体合同デモDay参加(Possiの事業化に向けた発表)。
~コロナ禍の影響が本格的に現れだす~

2020/04

Possiで社長特別賞受賞。
クラウドファンディング返礼品出荷、ライオンと事業計画協議。
ライオンはサプライヤーとしてPossi事業化に協力すると宣言。

2020/06

コロナ禍の影響で当該事業部門の業績悪化、Possiの事業移管先が白紙に。

2020/07

研究開発本部でPossiを事業化させて欲しい、と社長・会長に提案。事業化OK。
ライオンに対して事業化GOを連絡。楽天ECサイト準備開始。

2020/08

新組織体制検討開始。

2020/09

京セラ-ライオン社長トップ面談。
Possi事業化に向けた社内オペレーション協議開始。ライオンと取引基本契約検討開始。OEM製造委託先選定。

2020/10

新組織「Possiプロジェクト 事業推進部」設立、新体制スタート。

2020/12

事業化、予約受付開始をプレスリリース。