京セラ株式会社 研究開発本部 次世代基板技術ラボ 部責任者 皆川 博幸
ADASや自動運転社会の実現に向け、さまざまなセンシング関連製品やシステムの開発が進んでいる。その中でも、自動運転の目として欠かせないセンサー「LIDAR」。 京セラは、さらにその一歩先をゆく、「カメラ」と「LIDAR」を一体化した「カメラ-LIDARフュージョンセンサ」を独自開発中だ。
「カメラとLIDARのそれぞれのデータを組み合わせることにより、極めて高解像度の3D画像を作成することができます。これは京セラだけのものです。」と京セラの皆川 博幸は話す。
LIDARは、レーザーで領域をスキャンし、レーザービームが跳ね返ってくる時間を測定して、物体までの距離、サイズを特定するものだ。LIDARは1960年代から存在しており、通常は航空機や衛星で非常に詳細な地図を作成するために使用されている。さらに近年では、比較的長距離、かつ非常に正確な計測が可能であるため、 自動運転に不可欠な技術としてLIDARが注目されているのである。
視差のない一体型システムを目指して
カメラ-LIDARフュージョンセンサ(コンセプトモデル)
「LIDARは距離を測ることはできますが、見えている物体が何なのかを認識することはできないのです。」と皆川は説明する。一方、カメラは、形状と色を区別することが非常に得意だが、画像の影や質感を3次元の物体と間違えてしまうことがあり、2Dと3Dの区別はできない。しかし、この2つを組み合わせることで、どこにあるかを計測し、物体が何であるかを識別できる、本来のイメージ画像を作成することが可能になるのだ。
だが、この手法にも課題がある。「通常、LIDARとカメラは別々のユニットであるため、表示されるデータを合成してもわずかにずれてしまいます。これが、視差と呼ばれるねじれです。」と皆川は説明する。「実は人間というのは本当によくできていて、目と脳は、私たちが目に見えているものの映像視差を本能的に処理するように進化してきました。しかし機械が視差の無いデータにするためには、コンピュータによるLIDARとカメラのデータの統合・制御が必要になります。クラウドベースのシステムなら可能かもしれませんが、実際に統合するには遅延がおきてしまうことから車載用には適さないのです。」他社もこの問題に取り組んできたが、スペースや熱などの制約から、LIDARとカメラの視差をなくすことは簡単ではなかった。視差をどうタイムリーに無くすのかという問題は、カメラとLIDAR一体型システムの実現や、ひいては自動運転社会を目指す上で大きな障害となっていたのである。
カメラとLIDARのワンユニット化
「そこで当社は独自技術によりカメラとLIDARを1つのレンズでワンユニットにまとめることで、視差を無くすことを実現したのです。」と話す。これは京セラ独自のアイディアによるものだ。京セラのカメラ-LIDAR フュージョンセンサでは、2つのデバイスを1つのユニットにおさめているため、どちらも同じレンズを通し、中心軸(光軸)を一致させることが可能。そのため視差が発生しないのだ。「カメラデータとLIDARデータを統合させるプロセスが非常に容易になり、遅延がなく、車載用として活用できるようになります。カメラとLIDARを融合させることを可能にしたのは、京セラだけなのです。」
京セラ独自のセラミック技術で耐久性を向上
カメラ-LIDARフュージョンセンサの開発者たち
車載用として活用するためには、視差ずれを遅延なく解消するだけではなく、耐久性も大きなポイントとなる。「多くのLIDARは、スキャニングするためにミラーをモーターで回転させますが、それでは車の揺れや振動には耐えられません。」と皆川は説明する。
この課題を解決するために、京セラは、これまで培ってきたセラミック技術を駆使したMEMSミラーを用いた独自のソリューションを開発した。世界シェアNo.1※1であるセラミックパッケージの技術を導入。
この高度なセラミック技術により、京セラのカメラ-LIDAR フュージョンセンサは、実際の走行環境での耐久性が大幅に向上し、自動運転システムに最適な製品へ進化したのである。
※12020年2月末現在。京セラ調べ
京セラは、このユニットを次世代自動運転システムに導入することを計画している。
また、建設機械やロボットなどのモビリティのほか、人や物を認識するセキュリティシステムなど、さまざまな分野での活用も期待されているのだ。
長年にわたるファインセラミックス技術や光学技術、そして開発者たちの発想力と実現力。京セラのテクノロジーは、これからもまだまだ進化し続け、安全で安心な社会に貢献をしていく。