スリープテックが日本を救う!? 個人向けだけでなく企業の活用も広がる「睡眠×テクノロジー」
テクノロジーで睡眠改善を図る「スリープテック」に、近年大きな注目が集まっています。ITやAIなど最新の技術を用いて睡眠の誘発や分析を行う製品やサービスが数多く登場しており、業種を問わず多くの企業がスリープテック市場に参入しています。
この記事では、スリープテックとは何か、なぜ睡眠が注目されているのかをはじめ、今後のスリープテック市場の展望などについても解説します。
目次
スリープテックとは?
スリープテックとは、「Sleep(睡眠)」と「Technology(技術)」を組み合わせた造語で、睡眠改善を図る製品やサービス、あるいは科学的な視点からAIなどを用いて睡眠を分析することを意味する言葉です。スリープテックの例には、眠りを誘発する光や音などの刺激を与えてくれるアイマスクや、眠りの状態を把握・分析できるアプリやスマートウォッチ、睡眠の状態に合わせて照明やエアコンの設定を制御する装置などがあります。
スリープテック市場は海外を中心に年々拡大しており、日本においても同様に市場が拡大する見込みで、スリープテックに関する製品やサービスが増加の一途をたどっています。近年では、後述するウェルネス経営に取り組む企業向けに、従業員の睡眠状態を分析し従業員のパフォーマンスをより改善できるよう、情報提供を行う企業向けのソリューションも開発されています。
睡眠が注目されている背景
このように睡眠が注目されている背景には、先進国を中心とした睡眠不足問題があります。睡眠時無呼吸症候群や不眠症など、睡眠が健康に与える影響は看過できないものです。日本では、厚生労働省が「健康づくりのための睡眠ガイド2023」を公表するなど、政府も国民の睡眠状況を重要視しています。
睡眠不足は、日中の眠気や疲労に加え、頭痛や情緒不安定、注意力・判断力の低下による作業効率の低下など、さまざまな面に影響を及ぼすものです。さらには、問題の慢性化により肥満や高血圧、糖尿病、心疾患、脳血管障害を発症するリスクを高めるといわれています。

また、厚生労働省による2019年の「国民健康・栄養調査」では、1日の平均睡眠時間が6時間未満の割合は男性で37.5%、女性で40.6%と、多くの人が睡眠不足であることがわかっています。さらに年齢別にみると、睡眠不足に陥っている人の多くが30~50歳代と、働き盛りの年代です。慢性的な睡眠不足は、睡眠負債による心身の不調を引き起こします。睡眠負債とは、一時的ではなく数日にわたり睡眠不足が続いている状態のことです。日本では、休日に平日の睡眠不足を取り戻すかのように「寝だめ」をする人も少なくありません。
しかし、休日の寝だめは体内時計をくるわせてしまうため注意が必要です。睡眠負債と体内時計の乱れは注意力の低下を引き起こす可能性があるほか、免疫力の低下や気分障害のリスク増加にもつながるといわれています。これらのことから、適正な睡眠時間の確保や睡眠休養感の向上は、健康寿命延伸の面からも重要課題として位置づけられています。

睡眠に関するさまざまな課題解消に役立つスリープテック
一般的に、睡眠不足や睡眠の質は、日光浴や食生活の工夫などで改善できるものです。しかし、それでも睡眠を改善できないケースもあり、このようなときに活用できるものがスリープテックなどのテクノロジーです。
スリープテックでは、睡眠の導入から睡眠状況の可視化、覚醒促進など、睡眠に関するさまざまな課題解消をサポートするアプリ、製品、サービスが開発されています。今やスリープテックに進出する企業は寝具メーカーにとどまらず、大手家電メーカーや住宅関連企業、食品メーカーと幅広い業界から注目されています。
スリープテックの製品やサービスの例
このように、スリープテックではテクノロジーによって睡眠の課題解決をサポートします。ここからは、実際にどのような製品・サービスが登場しているのか見ていきましょう。

仮眠起床AIシステム「sNAPout®」(京セラ開発品)
「午後に集中力が続かない」「昼食後に強い眠気を感じる」という場合には、短時間の仮眠「パワーナップ」が有効とされています。
「sNAPout®」は、パワーナップのためのソリューションです。sNAPoutのイヤホンから特別な音を鳴らして入眠を誘導したり、血流量センサーによってAIが睡眠の深さを判定しつつ、最適な起床タイミングを判定し、アラームで覚醒に誘導したりすることで入眠までの時間短縮や起きるタイミングの最適化を実現します。
※「sNAPout」は京セラ株式会社の登録商標です。
関連記事:自分にとって最適な仮眠を提供してくれる仮眠起床AIシステム『sNAPout®』

午後に集中力が続かない、ケアレスミスが多い、昼食後に眠くなって授業や仕事に集中できない、こういった経験はないでしょうか?実は、日本人は世界一睡眠時間が短く、睡眠不足の傾向があるといわれており、こうした睡眠不足に起因する勤務中の眠気により、業務中の作業効率が4割も減少してしまうとの報告もあります...
以下は一般的な事例をご紹介します。
入眠サポートデバイス
パワーナップの話題の次は、睡眠の導入をサポートしてくれる入眠サポートデバイスです。例えば、天井に光を映し出し、それに集中することで光の点滅に呼吸を合わせられ、自然に睡眠できるようになるデバイスや、入眠にいざなう音を収録したデバイス、超低周波を発することで脳波を同調させ眠りに誘導するデバイスなどがあります。
これらのデバイスにより、心身をリラックスさせることで「なかなか寝付けない」といった入眠に関する課題解消をサポートしてくれます。
睡眠の質を向上させる住宅
さらに、スリープテックを活用した、睡眠の質を向上させる環境を整えた住宅の実証実験が2024年に行われ、一般の住宅と比較して睡眠の質が向上したことが確認されています。
この住宅では、内装壁面の木質化など睡眠によいとされる要素を取り入れたほか、就寝時の睡眠解析を行うコイン型機器から取得した睡眠の質のデータをスマートホーム機器と連携して家電を制御するなどの方法で、睡眠改善をサポートします。本実証実験で用いられた技術を取り入れた賃貸住宅も登場しており、今後は同様の住宅が増えていく可能性があります。
その他の睡眠デバイス
睡眠時間や睡眠の状態を記録できるスマートフォン用アプリも数多くリリースされています。無料で利用できるものも多くあるため、自分の状況や利用方法にマッチする、課題解消につながるアプリを探せます。指輪型のデバイス(スマートリング)もあり、装着が簡単です。また、特定のマットレスでは、睡眠中に利用者の睡眠状態をデータとして取得してAIがグラフ化し、毎朝レポートと適切なコメントを「専属トレーナー」のように送ってくれます。
ウェルネス経営にも着目してみよう
人々の睡眠を改善するスリープテックは、近年注目されている「ウェルネス経営」にも役立てられています。
ウェルネス経営とは、「従業員が健康的かつ幸福感を持ちいきいきとした状態で働ける職場環境を整備すること」を指す言葉です。ウェルネス経営においては、安全衛生におけるリスクマネジメントに加え、従業員の不調予防などにも取り組んでいきます。似た言葉に「健康経営」があり、従業員などの健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することを意味し、ほぼ同じ意味で使われています。

スリープテック領域のサービスの中には、このようなウェルネス経営や健康経営の施策に寄与できる企業向けのサービスもあります。睡眠の改善への取り組みによって体調不良による休職や退職などが発生する可能性を低減できるだけでなく、心身が健康な状態を保つことで業務効率化や生産性、モチベーションの維持・向上が期待できます。
従業員の不調予防のための取り組みにはさまざまな施策が考えられますが、睡眠に焦点を当てた各種施策を取り入れ、従業員の健康増進に取り組むことが肝要です。
企業におけるスリープテックの導入事例
では、企業ではどのようにしてスリープテックを導入しているのでしょうか。
大手化学メーカーでは、脳波計測デバイスを用いて、睡眠検査を受診できる仕組みを作りました。脳波計測デバイスは自宅などで利用可能で、睡眠時の脳波をAIが解析することで、睡眠指標が算出されます。この検査結果をもとに、医療機関への受診を勧めるほか、受診料の一部を会社が負担することで睡眠改善を支援しています。

また、あるITソリューション企業では、スマートウォッチを用いて睡眠を計測し、不眠の度合いが強い従業員を対象として分析結果の提供や、睡眠に関する研修会を実施しています。
前述したとおり、睡眠の質は業務パフォーマンスにも大きく影響するものです。日中の眠気や疲労感の予防、業務中の集中力の維持のためにも、睡眠改善への取り組みは重要です。しかし、従業員に手間や時間をかけさせてしまう施策では取り組みを長期的に継続することは難しいでしょう。デバイスを身につけて眠るだけで睡眠の分析や改善を実現できるスリープテックの活用で、従業員に大きな負担をかけることなく生産性やモチベーションの維持・向上を図れます。
今後のスリープテック市場は?
テクノロジーによって睡眠改善を図るスリープテックは、健康寿命をのばす観点からも大きく注目されている領域です。睡眠不足に陥りがちな現代の社会人にとって、スリープテックは生活に欠かせない製品・サービスの一つとなっていくのではないでしょうか。
人々の健康的な生活に寄与できるスリープテック市場には、今後も注目です。