若手社員が挑むモノづくり:4年目の社員が語るユニークなアイデアと挑戦
みなさんも若手社員だったころがあったと思います。入社3年目研修を経験したこともあるのではないでしょうか。新入社員からの脱皮を象徴する節目であり、3年間の業務内容や自分の成長を先輩の方々の前で発表したりすると思います。京セラでも様々な事業部でそのような発表会を実施していますが、われわれ研究開発本部は毎年「課題研究ものづくり」と題したイベントを開催しています。
今回OiA編集部は、その発表会の運営にも携わったため、この研修で発表された若手社員の独自な発想やアイデアをピックアップしてお届けしたいと思います。
この発表会は2日間にわたって開催され、みなとみらいリサーチセンター、けいはんなリサーチセンター、きりしまR&Dセンターの3拠点から計55テーマが集まりました。その中に「実現できるなら面白いかも」と思う発表もあれば、「こんな発想は今までなかった」と気づきを得られる発表もありました。若手社員が仕事を離れて、身近な課題に一生懸命取り組む姿がとても印象的でしたので、ぜひ記事を最後までお読みいただければと思います。
目次
「課題研究ものづくり」の基本方針と狙い
「課題研究ものづくり」の基本方針は、自身の研究開発テーマの探索を目指すのではなく、驚き・規格外を尊重しながら、昨今のデジタル技術を使わなくてもアナログで結構という一風変わったものとなっていて、20年後の京セラ研究開発をリードする人材を育てることを目的としています。この中には、実務テーマと無関係の題材を選び出し、予算15万円程度で、誰からも指示されず、自分で考えて実現するものであり、必ず将来リーダーになった時に役立つという思いが込められています。
その狙いは下記4つ:
①創造力:手を動かして物を作る経験
②価値コンセプト:課題への共感、考え尽くす
③チャレンジ精神:専門を超えた広い知識、視野
④短期決戦:素早いプロトタイピングとピボット
では、若手社員たちがどのような斬新なアイデアを生み出したのか、さっそく見ていきましょう!
ものづくり体験の紹介
占い風アドバイスによるダイエットサポート~うらないっ師~
「今まで挫折したことはありますか?」石田さんの発表はこの問いから始まりました。彼女には何度も「ダイエット」に挫折してきた苦い経験があります。原因を探るため、うまくいった人と話し合う中で、自分が「べき思考」に陥り、完璧を求めすぎて、失敗するとネガティブに感じてしまうことに気づいたそうです。
さらに、彼女にとっての「挫折」は、継続できる人にとってはただの「休憩」にすぎないことが判明し、衝撃を受けた石田さんは、ポジティブに取り組むための「占い風ダイエットサポート」を考案しました。コンセプトは、できたことをほめ、できなかったことは「ちょっと運勢が悪かっただけ」と誤魔化し、運勢を良くするアドバイスやラッキーアイテムで楽しみながら緩く続けられる仕組みです。


具体的には、当日夜に入力された達成度を元に、翌朝は、その成果を褒めると共に「運勢アップの秘訣」や「ラッキーアクション」を提案。たとえば、「昨日は筋トレができましたね!ストレッチもできるとさらに◎。今日はウォーキングがおすすめです!」というように、日々の行動を占い風にポジティブに促します。
社内で行ったトライアルでは、占いを信じない人でも「継続して使いたい」と好評だったそうです。もし、このアプリが開発されたら、みなさんも試してみませんか?
エンタメカードゲームツール Magical Card Reader
「カードゲームって楽しい!」というスライドから発表を始めた金谷さん。カードゲームが高い戦略性やレアカードのコレクション性を持っていて、近年高い需要と幅広い年代に人気がある一方で、ゲームをしているプレイヤー以外の第3者が楽しめない、カードゲームの「エンタメ」性の乏しいことが(金谷さんは)課題に感じていたそうです。(確かにポケモンワールドチャンピオンシップス2023 カードゲーム部門決勝の動画を見ると、いやー熱い展開でしたね!皆さんも手に汗握るほど熱くなったかと思い・・・あれ?そうではない・・・?)
カードゲームを分からない人もビジュアル的に分かりやすくする開発・演出が必要そうということが分かり、それを踏まえて、「個性」と「演出」でプレイヤーも観客も楽しめるカードゲーム支援ツールの開発に着目したんだそうです。

構成は、カードそれぞれにRFIDのタグを仕込んでいて、ゲーム盤に実装しているアンテナと通信した際のログを元に、ゲーム盤にどんなカードが出ているかを認識し、画面上にカードに応じたキャラクターを召喚。簡単なコマンド選択をデスク上にあるミニキーボードで入力すると、コマンドに合わせて相手を攻撃したり、画面上のキャラクターを操ることができます。
また、相手に与えるダメージの大きさによってよりド派手な演出を設けて、「あの攻撃がすごかったね!」など見どころが分かりやすいように設計をこだわったそうです。ゲームやアニメなどではキャラクターたちが戦うビジュアルに引き込まれますが、わたしたちもカードの演出を楽しみながら、カードゲームでみんなが熱くなる世界はもうそこまで来ています。次にはVRゴーグルも使って3次元で対戦できるものも見てみたいですね。
はじめてのま~じゃん
大学時代に麻雀に熱中していた津江さんは、入社後も麻雀を楽しみたいと考えていましたが、同期に経験者がおらず、麻雀に興味はある未経験者が多い一方で、ルールの複雑さやプレッシャーがハードルになっていると感じていたそうです。
このハードルを下げるため、津江さんは「光る麻雀牌」によるシステム開発に着手しました。光る麻雀牌は、プレイヤーの動きに合わせて自動的に光って指示を出してくれるので、初心者でもスムーズに麻雀ができるシステムです。開発では、赤外線通信とBLEモジュールを活用し、牌の位置をリアルタイムで把握しながら、適切なタイミングで牌を光らせることができます。3Dプリンタで麻雀牌を作成し、コンパクトながら高機能なPoCが実現されています。

システムの核となるのは、専用の麻雀マットで、各牌の位置情報を赤外線LEDを使って検知し、BLEデバイスがその情報をPCへ送信します。PCからの指示により、目的の牌が光ることで、初心者でもリアルタイムにアシストを受けながらゲームを進められます。
デモでは10人中9人が麻雀に興味を示し、システムの有用性が証明されましたが、ハードウェアの改善点も浮き彫りになったそうです。今後は、初心者向けアプリの実装や、麻雀の実力に合わせた育成システム、さらにはアニメのような超能力麻雀の再現など、さらなる可能性を追求していく予定だそうです。
1枚で何度もおいしいお洋服
「突然ですが、皆さんは自分のクローゼットにどんな服が入っているか覚えていますか?消費者庁の調査によると、50着以上の服を持っている人は男性で30%、女性で50%にのぼるそうです。収納の悩みや衣替えの手間を感じつつも、バリエーションを楽しみたいという声も多いのが現状です。」
そんなジレンマを解決するために、小村さんは「色や柄を自由に変えられる服」というアイデアを思いつきました。これなら、たった1枚でも多様なスタイルを楽しめるのです。


既存技術の温度で色が変わるインクを応用し、柄を自由に変えられるスタンプシステムを開発しました。スタンプには、温冷を切り替えられるペルチェ素子を搭載し、ハンドプレス機で布に押せるように設計。実験では、加熱で青が透明になり、冷却で青に戻る現象を確認できました。この技術で1枚の服のデザインを何度も変えられることが可能になりました。ビジネスプランとして、服とスタンプアタッチメントを個別販売し、スタンプはサブスクリプションで提供。家庭で服の色を簡単に変更できるので、環境にも優しいものとなりました。
家飲みが華やかなBarに変わる ~Home Bartender~
コロナ禍の間に家飲みを始めた方は多いのではないでしょうか?ある調査によると、コロナ禍中に一時的に家飲みにハマったものの、飽きてしまった人が多いことが分かっています。これに対し、北乾さんは「規制緩和になっても家飲みから離れるのではなく、家飲みをさらに進化させたい」というコンセプトのもと、新たな取り組みをスタートしました。
社内でのワークショップ(ワイガヤ)では、家飲みをもっと楽しくするためのアイデアが数多く出され、その中でも「高クオリティなお酒を一人でゆっくり楽しむ」という意見が多く集まりました。そこから生まれたのが、「ホームバーテンダー」という発想だそうです。


BARでのカクテル注文時のやり取りを再現する装置には、生成AIを実装していて、お客様がオーダーすると、AIが気分やシチュエーションに合ったカクテルを提案。提案されたカクテルのレシピに基づき、ポンプが自動でお酒を注ぎ「テキーラサンライズ」が美味しく仕上がりました。今後はシェイクやステア機能を追加し、家飲みをさらに楽しく進化させたいと考えているそうです。未来のカクテル体験にご期待ください!
動く加湿器 ~Next new normal~
新型コロナウイルスに感染した経験から、健康の重要性を痛感した西田さんは、人々の健康をサポートする製品作りを目指すようになりました。ジム通いを始めた際、広い空間では加湿器の効果が限られることに気づき、設置場所にも制約があることから、「蒸気機関車のように動く加湿器があれば面白いのでは?」というアイデアを元に、課題研究に取り組み始めたそうです。


この加湿器の仕組みは、加湿用の貯水タンクを蒸気機関のシリンダー部分に配置し、超音波振動子を用いて煙突部分から蒸気を噴射させる設計です。また、障害物を検知するために前方に障害物センサーを配置し、その可動範囲を拡大するためサーボモーターも組み込みました。これらの設計はまずCADで形状を決定し、3Dプリンターで試作を進めたそうです。
試行錯誤を重ねた結果、壁や人の足をスムーズに回避できることを確認でき、図書館や保育園、スポーツジム、クリーンルームなど、幅広い場面での活用が期待されるビジネスプランになりました。
編集部後記
以上ご紹介しましたが、いかがでしたでしょうか?
普段の社内会議では、開発プロセスや技術の改良に関する発表が多い中、今回の「課題研究ものづくり」発表会では、若手社員が身近な課題に着目した点が印象的でした。麻雀の楽しみ方、家での優雅なカクテル体験、デート回数による恋愛格差の解消、若手社員の苦労を可視化するツール、猫背検知システムなど、思わずくすっと笑ってしまうユニークな発表がたくさんありました。また、システムエンジニアもPoCを作成する際、手を動かすことで「ものづくり」の大変さや醍醐味を実感したという声が多く寄せられました。審査員の先輩方も、この発表会を通じて若手社員の関心事を知り、将来の製品開発に活かせるヒントを得たのではないでしょうか。
京セラは引き続き、若手社員のユニークな発想を大切にしながら育成していくとともに、イノベーションが生まれやすい環境づくりに注力していきます。