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AI 時代に主流となる光通信とは? ~ 第 84 回 OPT 公開研究会を開催!

目次

    光通信に関する技術動向

    なぜ光通信なのか?

    わたしたちの一般家庭に光通信が入り始めたのは、従来のアナログ電話回線を使ったモデム(変復調器)での 14.4kbps*¹ 程度のアナログ通信からの切り替えとして、家庭まで光ファイバを引いて 100Mbps の高速データ通信が可能になった2001 年頃からの FTTH(Fiber To The Home;光回線を家庭まで)ではないでしょうか? 光方式になった途端にあっという間にネット接続できて、ノイズの影響もなくとんでもなく高速な通信が安定してできるようになり、光通信の性能に驚かされたのを覚えている方も多いと思います。

    *1 ... bps(bit per second)1 秒当たりのデータ転送量。日本語 1 文字は 2byte(8bit で 1byte)なので 14.4kbps は文字だけにすると 1 秒間に約千文字弱が送れる通信速度。100Mbps だと 1 秒間に 655 万文字を送ることができる(7千倍のスピード)


    無線通信技術と光通信技術の比較

    一方、携帯電話で使われている無線通信技術と比較してみるとどうでしょうか?
    ガラケーからスマートフォンに移り変わった 3G*² 方式は 2001 年あたりから実用化されましたが、下り(基地局から携帯への通信速度)14.4Mbps、上り(携帯から基地局方向の通信速度)5.7Mbps でした。もちろん電波を使用しているので、通信する場所の電波環境により通信速度も大きく変わります。
    しかし、3G 方式から 4G(LTE)、5G とほぼ 10 年ごとに進化を遂げ、 現在主流の 5G では下り 10~20G*³pbs、上り 480Mbps であり、3G と単純比較するとそれぞれ約 1400 倍/84 倍の進化が見られます。

    携帯電話の通信速度の変遷
    出典:「令和 5 年 情報通信に関する現状報告の概要」(総務省)
    光通信の伝送速度(市場トレンドをもとに京セラ作成)

    1 台の携帯電話の通信速度も上がっているのとともに、多数の人が同時に使う携帯端末のデータをまとめて処理するサーバ側の光回線のスピードはとてつもないスピードになってきています。
    データセンターなどの大規模サーバなどで使用されている光通信はおよそ 2 年ごとに 2 倍の容量を達成していて、現在 800Gbps になりつつあり、技術的にはその先の 1.6Tbps も見えてきています。

    *2 ... 無線通信規格の G は Generation の G … 3G は第三世代、4G は第四世代、今は 5G 第五世代
    *3 ... 通信速度の G はギガ(K:キロ→10³, M:メガ→10⁶, G:ギガ→10⁹, T:テラ→10¹²)


    消費電力

    また、速度だけではなく、データの最小単位である 1bit の信号を伝送するための電力も大きく進化してきました。高速になったがために電力が増えてしまうのでは、いくら発電しても追いつかないことになってしまいます。これは、同じ電力で情報を伝える方式が高度化されたこともありますが、電気での配線から光配線による伝送方法が大きく貢献してきた部分です。

    光配線の消費電力抑制効果
    出典:「半導体・デジタル産業戦略の現状と今後 令和5年11月29日」(経済産業省)

    実装技術の重要性

    IOWN 構想(*⁴)などでは将来像が示されていますが、光自体を使って演算処理するところまではまだまだ到達していないため、サーバ内の CPU*⁵ などは電気で演算処理を行っています。この CPU が他の役割の CPU とデータをやり取りするためには、この電気信号だけでは高速に遠くまで伝えることができませんので、その信号を光に変換して、遅延なく高速に通信相手に伝える必要があります。

    この変換に必要となるのが、電気・光の変換部分である光電気集積モジュールです。
    このモジュールでは、CPU などからの 0/1 の電気信号を受取り、光源であるレーザー光を 0/1 の状態がわかるように変調(*⁶)して高速光信号に変える役目をしています。

    電気はプリント基板に印刷された金属導体で引き回すことができますが、光は基板の上では導波路という光を導く円状や板状の素材を使って伝送する必要があります。そこを通過してきた光を基板の外部に引き出すために、光ファイバと接続するための接合部など、高速な光信号を正確にロスなく通すためには、マイクロレベルの位置合わせを必要とするなど、超高精度の実装技術が重要となります。しかも、それを安定して量産レベルで実現しなければならないため、難易度の高い実装技術であると言えます。

    *4 ... IOWN(Innovative Optical and Wireless Network) 構想:豊かな社会を創るために、光を中心とした革新的技術を活用した情報処理基盤で NTT を中心に進められています
    *5 ... CPU(Central Processing Unit): コンピュータの構成要素で、データの演算を行う装置
    *6 ... 変調:電気や光でのデータ通信のために、基本となる信号の振幅や周波数、位相などを変化させることにより 1/0 のデータとして伝送するための方法


    京セラの進捗状況

    京セラでは、この光と電気を融合させるための光電気集積モジュールの開発を行っています。すでに 512Gbps 対応のオンボード型光電気集積モジュールを開発し、AI サーバやハイパフォーマンスコンピュータ(スーパーコンピュータ)向けの展開を行っています。

    このモジュールでは、電気を使った伝送では世界中で使われている PCIe® 5.0(Peripheral Component Interconnect express)規格に準拠した電気-光を変換するモジュールとなり、高速大容量のデータ伝送とともにサーバ機器などの省電力に貢献しています。何よりも 90℃ までの温度範囲に対応できるとともに、大規模データセンターの次世代冷却方式である液浸(専用の液体に直接サーバを浸して冷却する方法)にも対応できる特徴を持っています。この光電気集積モジュールを皮切りに、次世代モジュール開発にも取り組んでいきます。


    光回路実装技術研究会の概要

    前回2019年の開催からコロナ禍を経て、今回5年ぶりに光回路実装技術 (OPT) 研究会 第 84 回 OPT 公開研究会を京セラみなとみらいリサーチセンターにて開催いただきました。
    光関連の研究・技術者のみならず、光に携わる電気、機械などの他分野の方々も対象に、最先端技術情報の提供及び技術をリードする専門家との意見交換を行うことを目的とした公開研究会であり、例年 3 回程度開催されています。さまざまな光関連技術に関する内容をタイムリーに取り上げ、わかりやすく講演いただくスタイルが受けています。




    会場の様子

    今回は、世界から大きな注目が集まる生成 AI を中心とした 「AI と光インターコネクトがもたらすコンピューティングの新時代」 と題して、4 名の著名な講演者から最新情報に基づいてのご講演がありました。
    リアル参加者 120 名、オンライン 100 名という大変盛況な熱い会合になりました。
    研究会の冒頭では光回路実装技術委員会委員長である CIG Photonics Japan の松岡康信氏より開会のご挨拶があり、続いてアイオーコア株式会社の竹村浩一氏より今回の企画についての説明がありました。

    松岡康信 氏
    竹村浩一 氏

    講演内容のご紹介

    講演会では、AI やデータセンターの進化に伴う光インターコネクト技術の重要性について解説いただきました。高井氏は新しいアーキテクチャの登場とその展望を、平木氏は AI 向けプロセッサと光スイッチングの要件を解説いただきました。弊社赤星は、PCI express®の光伝送技術とその進化を紹介し、鯉渕氏は光コンピューティングの最新研究動向について説明しました。

    ①「大規模AI/ML システム応用光インターコネクトの展望」 LitAhead 光技術コンサルタント 高井 厚志 氏

    AI 時代の幕開けとともに、その膨大なデータを処理するためのデータセンターは大規模化が進んでいて、新しいアーキテクチャが採用されつつあります。特にディス・アグリゲーテッドシステム(従来のように CPU とメモリを搭載したプリント基板をたくさん並べて大規模化するのではなく、CPU は CPU、メモリはメモリなどの機能ごとに配置する技術)のような高速なインターコネクト(相互接続)ならではの構成が出てきています。
    まさに AI がドライブする光インターコネクト技術について、現在の動向や将来展望まで幅広い内容をご講演いただきました。

    高井厚志 氏

    ②「AI 向けアクセラレータと光インターコネクト開発」株式会社 Preferred Networks (東京大学名誉教授) 平木 敬 氏

    ChatGPT を始めとした大規模言語モデル(LLM)の出現により、これまでは通信やメモリバンド幅があまり問題にならなかった推論処理に対して、大量のデータへのアクセスが求められてきています。ここでは学習と推論の各処理における必要な要件を Preferred Networks 社が開発するプロセッサを例に解説いただくとともに、それらに必要となるインターコネクトの構成や帯域幅、ネットワーク構成などについて掘り下げていただきました。また、光コンピュータを実現するための光スイッチングデバイスにも触れながら、AI アクセラレータのために必要となる光インターコネクト要件についてもご提示いただきました。

    平木敬 氏

    ③「PCI express® 光伝送の技術動向とオンボード光電集積モジュールの開発」京セラ株式会社 赤星 知幸

    長い歴史のある信号伝達方式 PCI express® も時代を先取りして高速化により世代を重ねています。現在の主流は第 5 世代ですが、第 6 世代も仕様策定が完了し、現在は第 7 世代が検討されています。
    しかし、ここに来てコンピューティング領域での信号速度の高速化に伴い、従来の電気伝送から光伝送への変換が検討されています。この PCI express® の技術動向と、コンピューティング内の光伝送実現に向けて弊社が開発している光電気集積モジュールの詳細を紹介しました。

    赤星知幸

    ④「光×コンピューティングの研究動向」国立情報学研究所 鯉渕 道紘氏

    AI 用のインターコネクトの高速化手法のアルゴリズム、ネットワーク、デバイスの紹介や、データセンター/スーパーコンピュータで使われる光サーキットスイッチを用いたネットワークと構成、光コンピューティングの将来動向として、最新のコンピューティング技術などに関する研究動向を解説していただきました。

    鯉渕道紘 氏

    PCI Express®、PCIe®は、PCI-SIGの登録商標です。

    まとめ

    AI が使用する膨大なデータ処理や、大規模データセンターの環境対策など、近年ますます取り上げられることが多くなった光伝送ですが、熱心に講演に聞き入る姿勢や、講演者に対しての多数の質疑応答などからも、会場に集まった方々からの注目度の高さがうかがえました。

    今後も弊社では光回路実装技術研究会とも連携しながら、光関連の開発を加速させ、光コンピューティングの世界を広げるべく邁進していきます。
    ご興味のある方はぜひお問い合わせください。

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