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さらなる高速コンピューティングの未来に向けて!!光電気混載実装技術に関する公開研究会を開催!

2019年11月8日、京セラ株式会社「みなとみらいリサーチセンター」において、(一社)エレクトロニクス実装学会 光回路実装技術委員会の主催で、「第71回OPT (Optical Packaging Technology) 公開研究会『光電気混載実装に向けた技術開発動向と展望』」が開催されました。

登壇者はもちろん、参加者も日本を代表する大手メーカーから大学生まで、今後の科学技術を担う方々が集結するなど、注目を集めた今回の研究会。主催者によると、一般を含む110数名と、普段よりも多くの参加が得られたとのことでした。京セラからもセラミックパッケージ、有機パッケージ、実装などの関連技術に関わる関係者やこの分野に興味のある技術者が参加し、交流しました。

主催者であるエレクトロニクス実装学会 光回路実装技術委員会に関するご紹介に続き、そもそも「光電気混載」とは何なのか、講演内容や会場の様子などについてレポートします。

エレクトロニクス実装学会 光回路実装技術委員会とは?

(一社)エレクトロニクス実装学会は、産・学の第一線で活躍する研究者・技術者の会員が約2,400 名所属する団体です。主な活動内容は、エレクトロニクス産業のコア技術の「実装」をテーマに、学会誌や論文誌の発表、各技術分野の技術委員会による研究会の開催、展示会の実施、教育セミナーなどが行なわれています。

光回路実装技術委員会は、光回路実装に関する革新的新技術の創出と普及を目的に、「光回路実装技術研究会」を組織して研究会の開催やロードマップの発行などを行っています。当社、京セラからは研究開発本部の松原 孝宏が委員として活動しています。

光回路実装技術研究会では、インターネットの普及に伴う通信トラフィックの急激な増大を背景に、電気配線に代わる光を用いた配線技術である光インターコネクションに注目、機器間や機器内基板間の光配線化のみならず、近年、コンピューティングにおいてCPU等に近いところまでの光配線化についても活発に検討されています。

今回の研究会では、機器内の光インターコネクションを実現する技術として注目される光電気混載実装に関し、集積光デバイス、光・電気配線、信号処理回路にフォーカスして、この分野の技術開発を先導する講師の方々に、最新動向と今後の展望についてご講演頂きました。講演終了後には,発表スライドおよび開発中の展示サンプルを閲覧しながら、直接講師と活発に討論,意見交換を行う場も設けられました。

開催会場の京セラ「みなとみらいリサーチセンター」では、オープンイノベーション活動の一環として、企業、大学、研究機関、官公庁などと各種のイベントを開催しています。社会課題を解決する革新的技術や、それらの解決に積極的な人材が集まり、ネットワークが形成されるような交流の場の提供と情報発信を行っています。

なぜ光と電気の混載が注目されているのか

今回のテーマは「光電気混載実装に向けた技術開発動向と展望」です。そもそも「光電気混載」とはどういった意味なのでしょうか。

スーパーコンピュータや量子コンピュータといった単語を一度は聞いたことはあるでしょう。莫大な規模の計算を数秒単位で行うコンピュータのことです。これらのハイパフォーマンスコンピュータの性能を少しでも向上させるためには、コンピュータ内のサーバやスイッチなどの情報機器における信号伝送速度の高速化が必要となります。情報ネットワークでの信号伝送速度の高速化には、長距離の伝送から光が採用されましたが、より一層の高速化には短距離の伝送にも光が必要になっています。

電気と光は信号を伝送する手段ですが、従来は信号伝送の高速化に関する実装技術は、光と電気をそれぞれ分けて議論してきました。従来は光の伝送路と電気の伝送路が、光電変換デバイスを境に離れていたから、それぞれ分けて議論することが可能でした。ところが、光がCPU等の信号処理部に近づくに従い、実装に関して光と電気の両方を考える必要がでてきました。そこでエレクトロニクス実装学会の光回路実装技術研究会では、光と電気という、性質の異なるものをまぜて積載する技術、つまり「光電気混載」についての研究を進めているのです。

光電気混載技術に関する講演内容

『次世代コンピュータシステムに向けた光電気混載実装技術への期待』(富士通アドバンストテクノロジ株式会社・増田泰志氏)

次世代コンピュータシステムの実現には光電気混載実装技術により、伝送品質とコストのバランスを確保する事が重要であり、光電気混載実装技術への期待についてのご発表がありました。
・次世代コンピュータの性能は、2023年頃までに1エクサFlops(京コンピュータの100倍)に達し、さらにその10年後に1ゼタFlops(エクサの1000倍)に達するという予測が出ている。
・光電気混載技術はそれに大きく貢献できそうである。

『ハイブリッド集積シリコンフォトニクス技術の最新動向』(技術研究組合光電子融合基盤技術研究所(PETRA)/国立研究開発法人産業技術総合研究所(AIST)・堀川剛氏)

超小型のシリコンフォトニクス集積チップは、データセンタ応用を中心に開発が進められていて、光インターコネクトの新しい市場を形成しつつある。その最新動向についてのご発表でした。
・PETRAから新設分割され、2017年4月に設立されたアイオーコア社により、100Gbps光トランシーバが製品化されている。
・生産開発は、有力シリコン半導体製造メーカー、ファンドリーに移行しつつある。

『光通信用100Gbit/s超コヒーレントDSP研究開発の最新動向』(日本電信電話株式会社・岡本聖司氏)

コヒーレントDSP技術の現状、基本構成技術から今後の展望、最新動向についてのご発表でした。
・従来困難だった長距離光ファイバ伝送での光波形のひずみ補正をデジタル信号処理(DSP)により解決し、1波長当たりの信号伝送容量100Gbpsを実現、商用化されている。
・今後100Gpsを超えるために、変調信号の多値化の程度を高める等の技術開発が進められている。


『パッケージレベル光電気配線基板』
(京セラ株式会社・中臣義徳氏)

データセンタの高速化と低消費電力化の要求からラインカード内のパッケージ間やLSI間の短距離通信でも電気信号伝送に限界が近づいており、パッケージレベルの光インターコネクトへ期待が高まっている。パッケージ基板上で光信号と電気信号の光電変換を可能とする光電気配線基板の今後について、
・マルチモード導波路付き基板については、試作と量産体制の構築を進める。顧客サンプル開発対応も継続する。
・シングルモード導波路付き基板については、基礎評価と市場ニーズ調査を続ける。

光と電気の関係

私たちは日常生活で「光と電気」とどう関わり合っているのでしょうか。エレクトロニクス実装学会の光回路実装技術委員会の委員長である慶應義塾大学教授の石榑崇明さんと副委員長である古河電気工業主幹研究員の那須秀行さんは光と電気のそれぞれの特徴とともにこう説明します。

「電気を用いる場合は、機器内のプリント配線板などに高密度な配線が形成可能で、デバイス間や配線間の接続が容易です。一方、光には長距離を高速にかつ小さなエネルギー消費量で通信ができるという特徴があります。用途によって、それぞれの特徴が活かされています。光通信の代表例は、データセンタ間やサーバ間の通信です。たとえば某SNSのサーバは海外に存在しています。日本で友達の投稿に「いいね」を押すと、海底ケーブルを介してデータが海外に行き、また海底ケーブル通って日本に返ってくるんです。「いいね」以外にもありとあらゆるデータが光を使って世界を飛び回っています。したがって、地震などでケーブルが切れた場合、あらゆる情報の伝達に大きな障害が生じるようにもなっており、通信は水道、電気、ガスに続くインフラストラクチャーといえるでしょう。光と電気の特長を活かした実装技術ができれば、機器の性能を飛躍的に向上させられるのです。」

たしかに、一昔前までインターネットを使用する際は、電線を使用していました。しかし現在は、光回線が主流となっています。光電気混載が実現すると、半導体デバイス間などミリ単位の距離でも光通信の優位性が増してくると考えられてます。

質疑応答が盛り上がった研究発表会!終了後のワーキングも白熱

各発表後の質疑応答では、参加者から多くの質問が寄せられました。なかには、登壇者と参加者がお互いの意見を求め合う、インタラクティブな会話が繰り広げられる場面も。発表会の終了後には、会場内に展示されている発表スライドや、開発中のサンプルを閲覧しながらのネットワーキングが行われました。ネットワーキングでは、発表会の登壇者との意見交換・討論のみならず、同じ目的を持って会場にやってきた参加者同士の意気投合した様子も見られました。

オープンイノベーションを推進するため、今回のようなイベントを開催している京セラ・みなとみらいリサーチセンター。みなとみらいは、企業と研究機関だけでなく、官公庁や、市民が一体となってオープンイノベーションに取り組んでいます。興味を持たれた方はぜひ一度足を運んでみてください。

今回のテーマである光電気混載実装技術に関しては、社会課題として、例えば、交通渋滞の解消、災害復旧の早期化といった組み合わせ最適化問題への適用が期待される量子コンピューティングの分野の発展にも貢献が期待されるのではないでしょうか。社会課題を中心に様々な技術や人のネットワークが拡がっていくことを期待しています。