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「量子アニーリングミニシンポジウム」を開催!

2019年10月18日、「量子アニーリングミニシンポジウム」が、京セラ株式会社のけいはんなリサーチセンターで開催されました。

本シンポジウムはオープンイノベーションを推進する京セラ株式会社が、量子アニーリング研究開発コンソーシアムのメンバである東北大学の大関先生と株式会社デンソーの寺部様と共に、関西を中心とした企業・大学に向けて開催したイベントです。会場には企業の事業責任者から日本の将来を担う大学生まで、約50名の方々が来場しました。量子アニーリング研究開発コンソーシアムは、社会に潜む最適化問題の解決を目的とし、量子アニーリングマシンの日本における効率的運用・研究開発の促進を目指した大学や企業が参加する団体です。当社、京セラは今年7月よりメンバとして本格的に参加しております。

今回は“量子アニーリングを使った研究のための第一歩”をテーマに、量子アニーリングが織りなす未来と、人と人の新たな繋がりを映し出す“場”となった模様をお伝えします。

量子アニーリングでは何ができるのか?

最初に登壇したのは東北大学大学院情報科学研究科准教授の大関真之先生。「量子アニーリングが示す未来の情報科学」というテーマで基調講演が行われました。

「情報科学は現代を支える社会基盤です。社会基盤とは物流、製造、農業、防災など、私達人間を支える必要不可欠なもの。社会基盤は科学の発展によって高度化しましたが、それに伴い大規模化、複雑化していきました。」(東北大 大関先生)

例として物流業界の「配達ルート」が挙げられます。「荷物の配置はどうすればいいのか」「どのルートが効率的なのか」「各家の不在率はどうなっているのか」など、考慮すべき要因が数多く、人間の頭脳や既存のコンピュータでは最適解を出すことが難しいのが実情です。

「こういったパズルのような問題を『組合せ最適化問題』と言います。物流業や製造業に限らず、日常生活にも『組合せ最適化問題』が潜んでいます。2、3日分の食材を買ったとき、余分なものが出ないようにレシピを組みますよね。こういった単純な問題であれば機械を使わなくても大丈夫なのですが、例えば『人材配置』となれば話は変わります。『この人はあの部署に、あの人はこの部署に』と効率よく割り振りたいですが、社員が数千人規模の会社でこの作業を人手で行うのはとてつもない時間がかかりますよね。この問題を一瞬で解決したい、そんな願いを叶えるのが“量子アニーリング”です。」(東北大 大関先生)

量子アニーリングとは、量子力学の原理を活用した技術です。物理学の「重ね合わせの原理」を利用して、世の中に数多とある組合せ最適化問題の解決を目指します。

「みなさんが通われていた学校は“問題の解き方”を教えてくれましたが、量子アニーリングは問いを与えれば、その問題を自然の力で解いてくれます。解き方を任せることで、我々人間は『課題、問いを考える』ということに集中できます。さあ皆さんはどんな問題を抱えていますか?どんな問題を解きたいと思いますか。改めて問われると戸惑うことでしょう。知らず知らずのうちに解き方を考えることに集中していたり、できないことだから、と諦めていて、本当に向き合うべき課題から離れていませんか。量子アニーリングに解くことを任せて、本当に解きたい課題を思い起こす時です。」(東北大 大関先生)

「量子力学の世界では、様々な原子・分子が重なり合っています。会場にいる方々にも量子力学のように、人脈を作って欲しい」と大関先生は呼びかけられました。

どのようにして量子アニーリングは利用されているのか?

2部では、株式会社デンソー 先端技術研究所の寺部雅能氏と京セラ株式会社 けいはんなリサーチセンター先進マテリアルデバイス研究所の増子貴子が登壇。量子アニーリングをどのように活用しているのか、実例を紹介していただきました。まずは寺部氏がデンソーで行っている取り組みについてです。

「私は量子アニーリングマシンが得意な“最適化”によって、世界が変わると思っています。例えば、車に乗るとみんな自分が早く目的地につきたいですよね。けどそれだと、最短ルートが混んでみんな早くたどり着けないジレンマがあります。一方で『“個人”ではなく、“全体”で最適化する』という発想に立つと渋滞が減って早く到着できる人が増えます。こういった最適化計算が速くなると社会が変わる。それを実現してくれる可能性があるのが量子アニーリングマシンです。」(デンソー 寺部氏)

そんなデンソーが始めた挑戦が“Optimize the Moment”です。
「“Optimize the Moment”、これは量子アニーリングマシンという最適化を超高速に解いてくれる可能性のある計算機によって、世の中を瞬間瞬間で最適化することで新しい価値を生み出す、というコンセプトです。このコンセプトに沿ってタイでの渋滞解消や工場での無人搬送車の稼働率向上といった数々の実証実験を行ってきました。無人搬送車の稼働率はシミュレーション上で従来手法よりも15%向上させることができました。」(デンソー 寺部氏)

自動車システムサプライヤーであるデンソーがなぜ量子アニーリングマシンを活用した実証実験に取り組むのか、寺部氏はこう言います。

「自動車業界は“100年に一度の変革期にある”と言われています。車がインターネットに繋がる事によって、車の価値が『モノ』から『モノ+サービス』に転換しつつあります。また、工場も同様にインターネットに繋がることでリアルタイムな変化に応じて生産を変更することができる時代に変わりつつあります。そういった大きな世の中の変化に必要な技術を誰よりも早く提供したい。そういった思いで取り組んでいます。」(デンソー 寺部氏)

「たくさんの要素が繋がり全体で大きな価値を生み出す社会のためにも、より多くの方々に量子アニーリングを活用した挑戦に加わって欲しい。」と寺部氏は締めました。

続いて実例を紹介したのは京セラの増子貴子。現在取り組んでいる材料設計シミュレーションについて説明します。

「京セラが量子アニーリングマシンを本格的に使い始めたのは昨年からです。現在、京セラ全体では素材部品や制御システム・サービスの研究開発、そして、製品の生産技術の場での利用を社内で検討しています。けいはんなリサーチセンターは材料研究開発を行う研究所です。私は新規材料設計における量子化学計算を行っており、量子アニーリングマシンをその分野で利用しようとしています。」(京セラ 増子)

実例紹介として、新規材料設計における量子化学計算での大規模計算の計算コストを下げるために、量子アニーリングマシンを下処理段階に使う事例が報告され、最後には、増子から次の発表がされました。「量子アニーリングマシンを一緒に使い倒してくれる仲間を募集します。またインターンシップの受け入れも行っており、すでに秋には2名の学生インターン生を短期で迎えました。今後も今回のようなイベントの開催を考えていますので、楽しみにしてください。」(京セラ 増子)
そして、本取材に対して、「本稿を読んで量子アニーリングに興味を持たれた方は是非ともご連絡ください。」(京セラ 増子)とのことでした。

京セラは日本のイノベーションを進める架け橋となる

イベントの後半では大関先生への質問タイムや、来場者と登壇者が自由に交流し合うネットワーキングが開かれました。会場は大いに盛り上がり、登壇者の一方通行な情報の提供ではなく、来場者も積極的に参加するインタラクティブなイベントとなりました。

最後に、当社はコンソーシアムの一員として、量子アニーリングの発展を応援してまいります。つきましては、この新しいコンピューティングの世界に関心があり、何らかの貢献の可能性をお感じになる方の積極的なご参加をお待ちしております。

お問い合わせは下記より、よろしくお願い申し上げます。