いつものトイレがあなたの健康管理をお手伝い。におい計測ヘルスケアシステム
京セラは2017年から、におい計測ヘルスケアシステムの開発を行ってきました。
この取組は、様々な健康の指標となる腸内細菌の状態を表す腸内フローラを日常的に測定し、健康改善に役立てることを目指すものです。
2020年までに成功した便のにおいのガス組成を推定することに加えて、2025年実証実験では、そのガス組成から、腸内フローラを推定。推定の正解率75%以上を達成しました。
そこから導き出した健康スコアによって、健康改善のアドバイスを提供することで、スコアの改善も見られました。
今回は、2020年に掲載した内容をもう一度おさらいするとともに、現在の最新情報をお届けします。
目次
あなたの腸は健康ですか?
「腸活」という言葉を聞いた事がありますか?
腸の状態は健康や美容、ダイエットなどと深い関連性があると言われており、腸の状態を向上させる様々な活動のことを腸活(ちょうかつ)と呼びます。腸内環境改善の為の食品、食事方法、腸の捻じれを改善する運動やウォーキング方法など様々な腸活が提案されています。
しかし例えば同じ食事でも効果には個人差があります。もし食事が腸に与えた影響を確認出来れば、自分の腸に最適な食事が分かるのではないでしょうか?
そこで注目されるのが便のにおいです。便のにおいは食べた物、腸内環境(腸内フローラ)により変化し、またその腸内環境は食事、ストレス、病気などで日々変動しています。毎日のトイレで手軽に無意識のうちに腸内環境をチェックできれば、「腸活」をもっと身近で自分に合ったものにできると思います。
腸内フローラ
腸内の細菌については以前から多くの研究がなされてきましたが、近年ますます注目が集まっています。主に大腸に生息している腸内細菌は1,000種類で、その数は10兆~100兆個以上とも言われています。腸内細菌は消化できない食べ物(主に食物繊維など)を身体に良い栄養物質に作り変えたり、腸内の免疫細胞を活性化させたり、病原菌などから身体を守るなど、私たちが健康でいるための重要な役割を果たしています。腸内細菌は種類毎に集団を形成して住み着いているため、顕微鏡で見るとその様子がまるでお花畑(フローラ)のように見える事から腸内フローラと呼ばれています。

におい計測ヘルスケアシステム
京セラではお腹の中のお花畑(腸内フローラ)の状態を予測するため、トイレで便臭組成を計測して健康をチェックする製品の開発に取り組んでいます。
このシステムは、トイレで便のにおいを感知するデバイスとクラウド/データベースからなり、腸内フローラの検査結果と便臭組成を結びつけてデータベースを構築し、AI技術により腸内フローラの傾向を予測します。
におい計測ヘルスケアシステムの概要
このヘルスケアシステムを簡単にご説明します。
まず、食事をすると、あなたの腸の中で腸内細菌が食べたものを分解します。腸内細菌の数や種類によって腸内代謝物質濃度が変化しますので、腸内環境が整っているかどうかの指標となります。このことにより、トイレで便臭を計測し腸内環境を推定することができ、その推定結果に基づいた食事・食品へのアドバイスを提供し、便臭、食事、腸内環境のサイクルを回すことで無意識のうちに継続的な腸内環境管理が可能となります。
京セラは腸内環境から栄養状態/太りやすさ/筋肉の付きやすさを可視化することを目標とし、その後、現在ニーズが高まっている、免疫力やストレス負荷へと適用範囲を拡大していきます。
ガス組成推定について
便臭は非常に多くの混合ガスから構成されています。
食事・食品へのアドバイスを行う為には、例えば善玉菌や悪玉菌に関連するガスの濃度を把握する必要があります。そのためには非常に多くの種類のガスに対応したガスセンサが必要になります。
ところが、多くのガスセンサを搭載した機器はとても高価で大きくなります。その問題を解決するために、京セラでは複数種の異なるガスを検知するセンサを組み合わせ、その組み合わせのパターンを学習し、AI技術で個別のガス濃度を推定します。

図は模式図となりますが複数種のセンサから複数の波形が測定された事を示します。便臭と外気を交互に取り込む事でそれぞれのセンサの反応と復帰が波形となって表れます。そのセンサ波形をAIに学習させることで、便臭ガス組成を推定し、便臭ガス組成から腸内フローラを推定できるようになります。
(2020年結果)プロトタイプ機での取得データ
複数のガスセンサ、ガス流路、制御回路、通信機能などにより構成されたプロトタイプ機でデータを取得し、ガスセンサは、検出対象ガス組成に合わせて、自社/他社センサの中からAI技術を用いて選定しました。
グラフのガス濃度推定結果について説明いたします。
腸内細菌の善玉菌が生成すると言われているガスA/Bと、悪玉菌が生成すると言われているガスC/Dの濃度推定結果を示しています。横軸は便臭を模擬した7種の混合ガス中に含まれる各ガスの濃度設定値、縦軸はセンサシステムで計測した濃度推定値です。緑丸が推定値で精度良く濃度推定ができています。
他の高濃度ガス共存下でも低濃度ガスの濃度推定ができており、モデル適合度を示す数値(決定係数)も0.9を上回る1に近い値を得ることができました。
湿度変動のような高濃度ガス共存下での低濃度ガスの濃度推定や、類似ガス共存下でのそれぞれのガス種の濃度推定も実現可能です。
(2025年実証実験)便臭からの腸内フローラ推定実証実験結果
表は、2025年に実施した実証実験において、便臭から腸内フローラを推定することで取得できた情報を示したものです。
便検査の結果を正とし、便検査と便臭測定の結果を1組とした308組のデータを用いて比較を行ったところ、今回のガスセンサーによる便臭からの腸内フローラ推定値は、対象とした指標において正解率75%以上を示しました。
本実証実験では、ビフィズス菌やフィーカリ菌といった菌の比率や菌の多様性の度合い、さらに酢酸、酪酸などの菌が生成する代謝物質の比率について、数値化して示せることを確認しました。
また、これらの菌の情報に基づき、「免疫力」「太りにくさ」「ストレス緩和」「安眠力」「美肌力」などの腸活スコアについても、推測値として算出できる可能性が示唆されています。
これらの結果は、限られた条件下で実施した実証実験に基づくものであり、今後さらなる検証が必要ですが、便臭測定を通じて腸内フローラに関する情報を取得できる可能性が示されました。
腸内フローラ推定により健康を改善する実証実験結果

グラフは、今回の実証実験において、生活習慣に関するアドバイスを参考にした結果、スコアの改善が見られた一例を示しています。
赤色のデータは利用開始直後の状態、青色のデータは、実証用アプリに送られてくるアドバイスに従って行動した、約3カ月後の状態を示しており、一部の指標において変化が確認されました。
将来的には、このガスセンサーによる無意識・非接触・リアルタイムな「におい測定」を活用し、食事・運動・睡眠などに関するアドバイスの提供につなげていくことが考えられます。
本実証実験で得られた技術および知見は、便臭計測と腸内フローラ推定に関する研究開発上の技術的検討結果として整理されており、関連分野における技術活用や応用検討に資するものとして位置づけられます。
今後の展望
採択論文(2024)
国際会議:2024 IEEE International Conference on E-health Networking, Application & Services (HealthCom)
論文名:High-Accuracy Fecal Odor Gas Detection Using a Gas Sensor Device and Machine Learning
著者名:Shingo Teranishi; Daisuke Ueyama; Hiromichi Sadamoto; Hirotaka Koike; Shinichi Abe
共同研究(2022~)
本研究は、AuB(オーブ)株式会社との共同研究です。