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オープンイノベーションアリーナ

Open Innovation Trend②
「イノベーション都市・横浜」 官民データ活用時代における共創の推進フォーラム

Editor's Reportの第2弾として今回は「イノベーション都市・横浜」と題されて昨年11月に行われたイベントについて紹介します。横浜市で進む官民連携によるイノベーション創出の取り組みが俯瞰できるプログラム構成で、オープンイノベーションの今後の在り方を探る上でとても興味深い内容でした。横浜市でのイノベーション創出の取り組みについては、今後も注目してレポートして行く予定です。

2019年11月22日、「イノベーション都市・横浜」に向けた共創を考える、と題して官民データ活用における共創の推進フォーラム(共創フォーラム)が京セラみなとみらいリサーチセンターで開催されました。横浜市は全国に先駆けてデータ活用の推進に関する基本条例を定め、その推進計画を取り纏めています。共創フォーラムでは、各関係者によるスピーチやパネルディスカッション・フューチャーセッションを通じて、社会課題の解決や経済活性化など横浜市を舞台に取り組まれる様々な共創の事例が共有され、それを支えるオープンデータの在り方について議論が交わされました。

共創フォーラムは、NPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボを主催者として、横浜市、総務省関東総合通信局、関東ICT推進NPO連絡協議会の後援、かながわオープンデータ推進地方議員研究会などの協力のもと開催されました。冒頭、総務省関東総合通信局情報通信連携推進課長の望月俊晴氏、横浜市政策局データ活用推進等シニアディレクター岡崎洋子氏より挨拶が行われました。岡崎氏からはデータ活用の推進計画について、「横浜市、企業、大学、市民の皆様と一体になって地域課題を解決していこうということで取り組んでいます」、「庁内連携を推進するため、政策局が中心となってオープンイノベーション推進本部という会議を組織し、先進的な取り組みを共有しながら進めています」とした上で、「皆さんが一体となってネットワークを広げていくということが何よりも大切です。本日のフォーラムをきっかけとして官民の連携を更に強化してゆきたい」、と横浜における共創の推進に期待を示されました。

イノベーション都市横浜の取り組み 

横浜市で進む共創の取り組みを知る上で、横浜市経済局林局長のキーノートスピーチは興味深い内容となりました。スピーチはご自身が10年以上前に携わったコミュニティカフェ(桜茶屋)のエピソードに始まり、一人の個人、区長・局長という行政の人間として経験してきたイノベーションや共創にまつわる体験、ジレンマ等を生の声として披露するというスタイルで進みました。「このままでは町が衰退する」という危機感を持った地域の女性たちを支援して半ばボランティアでコミュニティカフェの立ち上げに携わった、人口減少にある金沢区長時代に地域活性化を目指して顔の見える地域連携ネットワークの形成を図った、山積する課題とリソースや効率というジレンマを通じてオープンデータの重要性を認識した、など草の根活動や人と人との絆、社会課題への取り組みなどから得られた知恵が具体的なエピソードと共に語られました。

スピーチはとてもわかりやすく、生活感、そして臨場感に溢れるものであっただけでなく、そのような経験から得た知見が、現在横浜市が進める共創の取り組みにどう繋がり、どう活かされているのか、政策の背景にあるコンテキストや基本的な考え方を垣間見る、とても示唆に富んだ内容となりました。

横浜が進めるオープンイノベーション

続いて、企業、アカデミア、行政の関係者によるパネルディスカッション、地域コミュニティに根差したリビングラボ関係者によるフューチャーセッション、そしてデータ活用の推進に関する基本条例制定の立役者となった市会議員によるパネルディスカッションがそれぞれ行われ、行政、企業、市民の立場から共創に対する想いや期待、取り組み活動など、率直な意見交換が行われました。

「横浜が進めるオープンイノベーションとは?」と題して行われたパネルディスカッションでは、アカデミアから横浜国立大学の真鍋誠司教授、企業側から株式会社アイネット執行役員企画部統括部長の伊藤美樹雄氏、株式会社富士通エフサスイノベーション&フューチャーセンター長の桶谷良介氏、そして横浜市からは経済局新産業創造課長の高木秀昭氏、政策局共創推進室長の梅沢厚也氏が登壇しました。本パネルディスカッションには、京セラ株式会社研究開発本部室オープンイノベーション推進部の高橋聡も参加しています。NPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボ代表の杉浦裕樹氏のモデレーションのもと、企業、アカデミア、行政という立場から横浜が進める共創やオープンイノベーションの取り組み、今後の展望や期待について意見が交わされました。

株式会社アイネットは古くからみなとみらいを拠点に活動する企業で、情報処理やシステム開発に携わってきました。オープンデータを活用して横浜市の保育施設の情報や入所状況などを知らせる閲覧サイトを運営しており、官民データ活用の先進事例の一つとなっています。株式会社富士通エフサスは、2013年にイノベーション&フューチャーセンターをみなとみらいに設立、社内で展開していた活動を公開して、今はガジェット祭りとして横浜市のオープンイノベーション活動の中心的な役割を担っています。京セラは2019年5月にみなとみらいリサーチセンターを開所し、7月にオープニングイベントを開催して横浜におけるオープンイノベーションを始めたばかり。共創フォーラムを含め、横浜市や関係団体、企業との連携推進のため、様々なイベント開催に協力しています。

横浜ベイエリアは比較的コンパクトな地域に企業の研究開発拠点が集り、行政の後押しもあってオープンイノベーションや地域における共創が目に見えるカタチで進む、とてもユニークなエリアと言えます。パネルディスカッションでは、横浜市が進めるスタートアップの集積やリビングラボの現状、そして企業、アカデミアの視点からオープンイノベーションによる連携を通じた共創コミュニティの実現に大きな期待が寄せられました。

コミュニティの原動力「リビングラボ」の今

横浜で進む共創の大きな特徴は、市民が主導するコミュニティ活動がその原動力の一つとなっている点ではないでしょうか。リビングラボは主にヨーロッパの地方コミュニティを発祥とする社会課題解決の手法といわれますが、横浜市には15~20のリビングラボが既に存在しています。18の地域行政区数に比べても大きな数字と言え、社会課題の解決に対する意識、リビングラボやサーキュラーエコノミーといった先進コンセプトの受け入れなど、市民感度の高さが伺えます。

横浜市のリビングラボの特徴は、商店街や自治会など地域に根差した経済活動を行っている企業が本業を通じてその活動を展開している点です。続いて行われたフューチャーセッションでは、横浜市におけるリビングラボの現状と今後の展望について、横浜市共創推進課係長の関口氏を中心に6名のリビングラボ関係者を交えてディスカッションされました。

フューチャーセッションに参加したリビングラボは、井土ヶ谷リビングラボの河原勇輝氏(株式会社太陽住建)、とつかリビングラボの川口大治氏(株式会社横浜セイビ)、青葉台リビングラボの齋藤瞳氏(アオバ住宅社)、SDGs横浜金澤リビングラボの堀川壽代氏(合名会社光栄堂薬局)、そして都筑リビングラボの男澤誠氏(株式会社スリーハイ)の5名。加えてリビングラボの連携を推進するサポートオフィスより、一般社団法人YOKOHAMAリビングラボサポートオフォスの野村美由紀氏が参加しています。上記法人名の記載にもあるように、各リビングラボの関係者は実業をベースとしてその活動を展開しています。

全てのリビングラボに共通している点は、人口減少、障害者支援、老齢化、雇用創出など各コミュニティが抱える問題を地域経済の活性化につなげて考えてゆこうという姿勢です。例えば井土ヶ谷リビングラボでは、空き家問題に対して建築業を本業とする太陽住建が中心となって地域コミュニティとの会話を推進し、集まった関係者の連携を通じて事業化をしながら解決してゆこうと取り組んでいます。また青葉台リビングラボの代表である齋藤氏も本業である宅地建物取引を通じて住宅確保要介護者と呼ばれるさまざまな困難を抱える人たちの社会的な生活環境を地域コミュニケーションの活性化や自治体など関係者への働きかけを通じて改善しようという活動に取り組んでいます。SDGs横浜金澤リビングラボでは、商店会の活性化を目指して有志によるワークショップを開催、地域名産を生かした唐辛子をベースに金沢八景に因んだ八味唐辛子を商品化し、地域経済の活性化につなげています。

横浜市の関口氏はこれらの事例を踏まえた上で、「地産地消、空き家活動、遊休農地の活用、といった今まであまり活用されていなかった、廃棄されていたものを上手くつないで、いわゆる持続可能な取り組みにする。障害を抱えていても学校や会社にとらわれない働き方を地域の中で作り、もう一つのキャリア形成の仕組を作っていく。このようなサーキュラーエコノミーという考え方が世界的に広がり、日本にもやってきはじめています。地元を元気にする、雇用を生む、地域課題を解決する、本業を通じてこのような活動を進める、サーキュラーコミュニティを作る、という事がこれからのリビングラボの在り方に成りつつあります。」と総括して、フューチャーセッションを締めくくりました。

横浜のリーダーシップ

共創フォーラムの最後のパネルディスカッションは、「議会からオープンイノベーションの政策を考える」と題して、横浜市会議員の鈴木太郎氏、藤崎浩太郎氏、そして安西ひでとし氏の3名を迎えて行われました。鈴木太郎氏は、5期目の横浜市会議員で戸塚区選出。かながわオープンデータ推進地方議員研究会を5年前に立ち上げ、その代表を務めています。藤崎浩太郎氏は、青葉区選出。かながわオープンデータ推進地方議員研究会の役員、青葉台リビングラボの活動推進にも携わっています。そして安西ひでとし氏は、3期目の港南区選出。民間企業においてプラント建設や車、バスなどの設計に携わった経験を持っています。「横浜イノベーション」の著者、そしてイノベディア代表の内田裕子氏から、「皆さんはオープンデータ推進ということで横浜を良くしていくためにこれまでご尽力されてきた議員の方々です。オープンデータを活用して、横浜がいかに良くなったのか、良くなっていくのか、ということに見識を持っておられると思います。本日はその様な観点でお話を展開してきたいと思っています」、とパネルディスカッションの口火を切りました。

パネルディスカッションでは、オープンデータ推進に関する各議員のこれまでの経験や考え方等が内田裕子氏の軽快なモデレーションのもと展開されました。横浜市におけるオープンデータ推進の取り組みは、当初、市役所内でのゲリラ的な活動であったが、オープンデータの意義を敏感に感じ取った議員が、「きちんと政策的にやっていくためには活動をメインストリームに載せていかないといけない」、と会派政党を超えて連携し、議員主導で条例を制定した経緯があります。「データを公開することが何につながるのか」という指摘に対しては、「まずは動かして実例を作り、その実例を見て次に転換していく」、とまだ方向性を模索するフェーズにあります。オープンデータの取り組みは世界的な流れですが、まだ始まったばかりで具体的な事例はあまり在りません。横浜は、いわばリーダーシップを持って新たな分野への挑戦を始めた、と言えるかもしれません。

「社会課題を解決するために必要と思われるようなデータがまだまだオープン化できていない」、「何でもかんでもオープンにすれば良いという事でもない」、「オープンイノベーションに関する政策は成果が求められる」。この他にも、「データの透明性」、「活用方法や分析手法の在り方」、「投資対効果」など、検討すべき側面は多く、一筋縄ではいかないというのが現状かもしれません。データから見えるものもあれば、データからはわからないこともある。官民連携してリビングラボという現場でより具体的な現実に向き合い、そして必ずしもオープンデータにとどまらないもっと広い意味で都市経営のビジョンを生み出す活動にできればよい、としてディスカッションは締めくくられました。

最後に横浜市最高情報統括責任者補佐監(CIO補佐監)/最高情報セキュリティ責任者の福田次郎氏から挨拶が行われました。「みなとみらいだけでも10以上のフューチャーセンターがあります。施設間のネットワーキングを通じて人脈や経験、ノウハウの共有などが進み、オープンデータの取り組みがオープンイノベーションへ、そして社会課題や企業課題の解決へとつながるような循環をつくり、横浜を盛り上げていきたい」、とコメントされ、横浜におけるサーキュラーコミュニティの形成に期待を示して共創フォーラムは閉会となりました。

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