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オープンイノベーションアリーナ

Open Innovation Trend①
オープンイノベーションの父:Dr.Henry Chesbrough

オープンイノベーションに本格的に関わり始めたのは2016年の秋ごろだったでしょうか?当時はオープンイノベーションというとまだバズワード的な印象を強く持っていましたが、今では企業のみならず、大学や行政、地域コミュニティまでを巻き込む大きなグローバルトレンドとなりました。オープンイノベーションに関わる者としては、今更ながら、その流れや背景をある程度は押さえておく必要がある、との思いからOpen Innovation Trendと称して気になるトピックスや動向を不定期でまとめることにしました。関心ある皆さんの参考になれば幸いです。

Open Innovation Trendの第1弾として、先ずは「オープンイノベーションの父」と呼ばれるヘンリー・チェスブロウ博士を取り上げてみます。オープンイノベーションについては様々な書籍や文献が出ており、アカデミックなリサーチも数多く存在しています。またアカデミアと企業、ポリシーメーカーを結び付けようというグローバルな動きも様々な場所で始まっています。その火付け役であり、オープンイノベーションという言葉を世界的に広めた立役者として有名なヘンリー・チェスブロウ博士の活動を振り返り、オープンイノベーションの現状と今後を探ってみたいと思います。

ヘンリー・チェスブロウ博士

ヘンリー・チェスブロウ博士は現在、カリフォルニア大学バークレー校ハースビジネススクールにあるコーポレートイノベーションセンターのディレクター兼准教授を務めています。ビジネススクールの教授紹介ページでは、「Innovation thought leader who launched the "Open Innovation" paradigm」とキャッチされ、オープンイノベーションを世界に広めたテクノロジーマネージメント/イノベーションストラテジーの専門家と紹介されています。イェール大学で経済学、スタンフォード大学でMBA、カリフォルニア大学で博士号を取得した秀才で、その後ハーバード大学のビジネススクールで助教授を務め、データ記憶関連企業でマーケティングVP、プロダクトマネージャー等の実務も経験した話題の経営学者です。
  

  
チェスブロウ博士の代表作である「Open Innovation: The New Imperative for Creating and Profiting from Technology(Harvard Business School Press)」は2003年に発表されました。本書は同年の米国Strategy and Business Magazineでベストブックになり、チェスブロウ博士は全米トップ50ビジネス・テクノロジーリーダーにも選ばれています。そして2006年にもう一つの代表作「Open Business Models: How to Thrive in the New Innovation Landscape(Harvard Business School Press) 」が発表されています。チェスブロウ博士は以後数多くの論文や著書を発表し、2014年にはWorld Open Innovation Conferenceを立ち上げ、今ではオープンイノベーションの父と呼ばれるようになりました。

オープンイノベーション

2020年3月のGoogle Scholar検索によれば、チェスブロウ博士の文献引用数累計は74,433となっています。最も引用数を獲得している文献は2003年に発表された「Open Innovation」で24,634、次いで2002年に発表された「The role of the business model in capturing value from innovation」、2006年に発表された「The era of open innovation」、そして2006年発表の「Open Business Models」と続いています。

    
2003年の「Open Innovation」発表当時、オープンイノベーションに関する文献は殆どなく、チェスブロウ博士の文献引用数も190とグラフでは見えないほどのレベルでした。「Open Business Model」を発表した2006年以降、精力的なプロモーション活動の甲斐もあって、オープンイノベーションのコンセプトは世界に広まりました。2007年に行われたBerkeley Innovation Forumの中でチェスブロウ博士は「Open Innovation: What’s new?」と題して当時のプロモーション活動を報告しています。その講演内容を見ると、「Open Innovation message is getting through」、「Open Business Model message is not(yet)」とあり、2007年当時はまだチェスブロウ博士が発表したオープンイノベーションの両輪は上手く回っていなかった様です。そんな中、精力的な講演やスピーチ、トレーニングコースの開設、執筆活動、そしてP&GやIBM、Nine Sigma、UTEKなど企業やコンサルタント、大学などを巻き込んだグローバルなプロモーション活動を展開していた様子が伺えます。
    

    
チェスブロウ博士が2つの代表作で発信しているメッセージを簡単にまとめると次のようになるのではないでしょうか?

(1)企業が自らのイノベーションを前進させるには、外部と内部のアイデア、そして外部と内部のマーケットパス、その双方を上手く融合するR&Dプロセスが必要である

(2)オープンイノベーションへの転換には、外部と内部のアイデア/マーケットパスを使って価値を創り出し、その価値の一部を組織内部に取り込むメカニズムを内在したビジネスモデルを構築する必要がある

2011年にバルセロナで開かれたWorld Innovation Summitのキーノートセッションで、チェスブロウ博士はオープンイノベーションのコンセプトについてとてもわかりやく説明しています。
  

 
チェスブロウ博士はパロアルト研究所のR&Dプロセスを詳しく調査する中でとても興味深い事実を見つけます。それはパロアルト研究所のR&Dプロセスで棄却された35のプロジェクトの内、10のプロジェクトが市場において価値を生み出しており、その市場価値の合計はゼロックスの市場価値の2倍にも達していた、という事実でした。従来のクローズド型R&Dプロセスでは、新しいアイデアに関する技術や市場の十分な情報は得られず、本来実現できたかもしれない市場機会を見落としてしまう。ステージゲート型プロセスはOne-Way-In、One-Way-Outの企業内部に閉じられたシステムであり、その為市場に出るまでその研究開発の成否はわからず、失敗した時のコストはとても大きなものとなってしまう。そんな問題意識から外部と内部を上手く融合するというオープンイノベーションのコンセプトが生まれた、とチェスブロウ博士は説明しています。一方でチェスブロウ博士は、従来型のR&Dはもはや不要だと言っているわけでは無い、と注意を促します。R&Dプロセスを穴の開いた漏斗に例え、従来型とオープン型の双方を融合させたユニークなプロセスの仕組みを提案しながら、内部人材と外部人材が結びつき、自在に新しい価値を生み出すような、新しいプロセスの導入が重要だ、と指摘しています。
  

Research, Practices, and Policies

チェスブロウ博士の代表作2つをななめ読みしていると、オープンイノベーションは研究開発における企業課題に焦点が当てられたビジネスコンセプトという印象を強く受けるかもしれません。しかし上記キーノートセッションの中でも語られている通り、チェスブロウ博士はオープンイノベーションのアプローチをサステナビリティ課題へも展開しようと考えていました。キーノートセッションでは、BPがカリフォルニア大学に設置したバイオ燃料研究機関を取り上げ、企業における新たな研究開発の在り方について一例を示しています。また温暖化対策におけるパテントプールの活用が途上国への技術移転のみならず、市場開拓やコストダウンなど企業にとってのメリットを生み出す、と指摘しています。そしてなかなか進まないサステナビリティ課題への対応において、政府待ちの姿勢ではなく、オープンイノベーションアプローチを用いれば企業自らがアクションを起こせる、と野心的なメッセージを発信しています。

リーマンショックを乗り越えた2018年1月、California Business Reviewに掲載された論文「Open Innovation: Research, Practices, and Policies」の中でチェスブロウ博士は、「オープンイノベーションは今やアカデミア、企業、そして公共政策において、広く使われるコンセプトになった」と宣言しました。本論文の中では、市民を巻き込んだイノベーション創出やCollaborative administration、Collaborative democracy、そしてOpen governmentといった共創社会に向けた新たな取り組みが動き始めていると述べています。そしてEUが発表した「Open Vision」に示される現状認識として「the way that science works is fundamentally changing and an equally important transformation is taking place in how companies and societies innovate」を引用し、デジタルテクノロジーがサイエンスとイノベーションをより一層、オープン、共創、そしてグローバルにする、と展望しています。
  

 
2020年12月、7回目を迎えるWorld Open Innovation Conference(WOIC)がカリフォルニア州バークレーで開催されます。WOICはアカデミアとビジネスを繋ぐオープンイノベーションの世界的なハブを目指し、2014年12月にカリフォルニア州ナパでその第1回目が開催されました。それ以後、米国と欧州で毎年開催されています。第1回、第2回のテーマは不明ですが、2016年の第3回以降は明確なテーマが設定され、アカデミア、企業などからオープンイノベーションに関する研究や事例が報告されてきました。2017年の第4回以降、WOICのテーマには”Public policies”や“Sustainability”などの言葉が盛り込まれ、2019年のローマ開催では“Opening up for managing business and societal challenges”と、企業課題と社会課題の双方に取り組むオープンイノベーションが鮮明に打ち出されています。

2014年米国: -
2015年米国: -
2016年スペイン:“Open Innovation in the Digital Age”
2017年米国:“Strategic and Public Policies for Open Innovation”
2018年米国:“Digital Transformation for Sustainability”
2019年イタリア:Opening up for managing business and societal challenges
2020年米国:未定

知識と知識、人と人、そしてコミュニティとコミュニティをつなぎ、共創して価値を生み出し、そしてそれを共有する社会。地域格差を埋め、サイエンスとビジネス、そして人々の生活を前進させる”Openness”。 今やオープンイノベーションは未来をカタチつくるキーコンセプトとして夢のようなビジョンを描き始めました。チェスブロウ博士が2020年に発表した最新著書のタイトルは「Open Innovation Results: Going Beyond the Hype and Getting Down to Business(Oxford University Press)」です。アカデミア、企業、政府、そして市民を巻き込み世界的なレベルで試行錯誤が進むオープンイノベーションはいよいよ実用段階に入ったのか?それともまだ進化の過程にあるのか?今後のオープンイノベーションの動向に注目が集まります。